↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/296

異世界にて14

男の靴底が、落ち葉からゆっくりと離れた。


勢いはない。シャボン玉のように身体が持ち上がり、そのまま二メートルほどの高さで静止する。


「はぁ、はぁ……い、痛い……! く、クソッ……! 本当に刺すなんて、人間の風上にも置けないやつめ……は、恥を知れ!」


「こう見えて、恥ずかしがり屋なんですが」


「うるさい! わけ分からないこと言うな!」


男は腹を押さえながら、こちらを見下ろした。


「し、しかし! これでもう俺を傷つけることはできない! これだけ離れてもナイフを構えるしかねぇってことは、お前のエゴは近接系だろ!」


さらに身体を浮かせ、木の枝と同じ高さまで昇っていく。


「お前も飛べるなら、わざわざ街道を歩いたりしねぇ! 俺はずっと見てたんだ。間違いない!」


額に脂汗を浮かべながら、男ががなる。


「便利なエゴですね」


街を出てから、背後に足音は聞こえなかった。


この浮遊が、その理由か。


「お、俺は慎重なんだ。お前みたいなバカと違ってな! 勝てると確信できた時しか戦わない。……これが賢さってやつだ。へへっ……」


男は引きつった口元を持ち上げた。


「そうですか。でも、これでは単に僕の攻撃が届かないだけで、あなたの攻撃も届きませんよね」


男は腹を押さえたまま、声を上げて笑った。


「はははっ! バカが! だからお前は頭が悪いって言ってるんだよ!」


男が右手を掲げ、自らの指輪を起動した。


何か道具を取り出すつもり──それだけ分かれば充分だ。


一激(ニセモノ)


一瞬で身体が軽くなり、視界の先が鮮明になる。


身体能力の倍化。

その能力の本質は、単なる運動能力の強化ではない。


視力や思考力、反射など、人体に備わった能力のすべてが倍になる。


オリンピックアスリートの反射神経は、常人の一・二五倍。


たった二十五パーセントの差で、常人との差は雲泥に至る。


それが純粋に倍となれば、知覚できる現実の幅は──完全に人外の域へ到達する。


地面を蹴り、男へ向かって走る。


慌てた男の顔。

操作を続ける右手。

止まれとばかりに差し出された左手。

逃げようと浮かび上がっていく身体。


すべての動きが、少しだけ緩慢に見える。


思い切り踏み込んで跳躍し、男の足首を掴む。


そして、そのまま身体を地面へ叩きつけた。


「げぼっ!」


肺の空気を一気に吐き出す、耳障りな音が響く。


男の手からナイフが落ち、枯れ葉の上へ転がった。


「~~~~っ!!」


言葉にならない悲鳴を漏らし、男がもんどり打ってのたうち回る。


その腹へ、思い切り蹴りを叩き込んだ。


「きゅわえぇっ!!」


妙に甲高い声が漏れ、男は芋虫のように丸くなった。


その身体は、地面へ落ちたきり浮かばない。


すぐさま収納から縄を取り出し、男をうつ伏せにする。


両手首を背中側で縛り、足首とまとめてきつく結んだ。


何度か縄を引き、抜けないことを確認する。


それから拘束した男の背中へ腰を下ろし、ようやく一息ついた。


「ふぐぅっ……」


下から苦悶の声が漏れる。


「すみません。地面に座ると服が汚れるので」


指輪から黒パンと革水筒を取り出す。


硬いパンをひと口かじり、ぬるくなった水で流し込んだ。


革の匂いが移った水にも、もうすっかり慣れている。


男の背中を椅子にして、もうひと口パンをかじった時だった。


「ポーン」


軽快な音が、世界に響いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。