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異世界にて12

次の日、仕事を終えてから街で情報収集を行った。


あくまで異世界から来たよそ者である僕にとって、情報を得る手段は限られている。

それでも魔王領最深部到達という情報は驚くほど簡単に手に入った。


それだけ、王都ルクレアの街中がその噂で持ちきりだったのだ。


王都は巨大な魔力泉の上に築かれた都市で、政治と信仰が一体化した構造を持つ。

その中心には“夢神の巫子”の血を引く王族が住まうセラフィム・カテドラルがそびえ、そこから放射状に、中央参道・貴族街・錬金街・ギルド街、そして外縁の市民区と階層が広がっている。

一見華やかな祝祭の街だが、その奥にははっきりと「格差」が存在している。


しかし、今日だけはその全ての区画がこの話でもちきりなのだろう。

曰く、最深部に辿り着いたのはこの国が支援している四人の勇者たちで、彼らは強力なエゴを行使しながら魔王軍に壊滅的な打撃を与えて進軍しているらしい。

国の支援も手厚く、他国もその動向を注視していたが、今やそのパーティが魔王を討つと確信し、自国の勇者への援助を打ち切る国もあるという話だった。


情報を整理する限り、最深部に到達したのは無月たちだろう。

実際、彼らのエゴは強力だった。


魔王軍がどれほどの脅威かはわからないが、無尽蔵のエネルギーを持つ兵器が立ちはだかるとなれば、守る側としてたまったものではないだろう。


街の人々は魔王討伐が秒読みだと信じて疑わず、どこか祭りのような高揚感に包まれていた。

実際、討伐が成された暁には勇者を支援した王国を中心に祝祭が開かれ、盛大に彼らと国王が称えられるという。


ルクレアの祭事では、王の血筋を象徴する“光冠の行進”がセラフィム・カテドラルから中央参道まで続き、その沿道には勇者を模した装飾が並ぶらしい。

無月のお面でも作られるのだろうか──と、日本の縁日を思い出して懐かしい気持ちになる。


だが、魔王が倒されるということは元の世界へ帰還する日も近いということだ。


この世界に来てもうすぐ一年。

特別な愛着はないけれど、それなりに関係を築いた人たちが何人かいる。


特に隣町であるレベリオに住む錬金術師アッカーマンには、薬の作り方などで随分とお世話になった。

帰る前にせめて一言挨拶くらいはしておきたい。


思い立ったが吉日。

情報収集を切り上げ、墓守の小屋へ戻って隣町への支度と家の整理を始める。

使い慣れた革袋に水を汲み、買っておいた黒パンを一緒に指輪へ収納し荷物をまとめて家を出る。


東区を抜け、城に続く中央通りを横断し、さらに西区の飲み屋街を通る。

このあたりはもともとギルド街の一角だったが、飲食店や娯楽場が集まり、貴族の三男や冒険者の懐具合を当てにした店が軒を連ねている。


酒の匂いと賑やかな笑い声が漂うこの通りはいつも活気があるが、今日は一層盛り上がっているように感じた。


まだ昼過ぎだというのに路上で酔い潰れている者もいる。

そんな光景を横目に西門へと歩を進める。


衛兵に軽く会釈すると、彼はこちらを一瞥しただけでそれ以上は特に反応を示さなかった。


門を抜け、草原へと続く街道を歩く。

この道はこの世界に来た当初に歩いた道でもある。


あとで知ったが、王都とレベリオを結ぶこの街道──『ディサージオ街道』には別名がある。

『不要街道』だ。


理由は二つ。

まず一つ目は単純に不便であること。

街に行くためには草原を抜けた先で『入らずの森』の中を通らなければならず、森は魔物の巣であり通行には常に危険が伴う。


そして二つ目──レベリオという街自体が国に見捨てられた場所であること。


詳しい経緯は知らないが、前回の魔王征伐時、勇者に非協力的だったとか、王都の意に反する行動を取ったとか、そういった理由で王都から完全に見捨てられたらしい。


当時の責任者は処刑され、街には不名誉と悪評だけが残り住人も少なくなっていった。

今では世捨て人や無法者の吹き溜まりとなり、国も管理を放棄している。


ルクレアの地図上では、もはや“灰色の街”として区分され、中央参道や貴族街でその名前を口にされることはまずない。

そんな街に繋がる道が、人通りも整備もないまま『不要街道』と呼ばれるようになったのはある意味当然かもしれない。


このまま時が経てば街道そのものも朽ち果てていくのだろう。


そうなればアッカーマンはどうするのだろうか。


あの世捨て人は王都に拠点を移すのだろうか──勇者に興味があると言っていたが、だったら王都に住めばいいのにと何度か伝えた。


近くに住んでくれると調合薬の話が聞けて助かるという都合もあるし。


「……いや、その頃にはもう僕はこの世界にいないか」


そんなことを呟き、単調な街道を歩いているとやがて入らずの森の入り口が見えてきた。

草原を突っ切る街道がそのまま森へと繋がっていて、境目となる入口は徐々に木々によって侵食されていた。


森は薄暗く不気味な気配を漂わせている。


それでも僕は特に躊躇することなく歩を進めた。

不気味ではあるが気を付けて入ればそこまで危険というほどではない。


街道は森の端をかすめているだけで、むやみに分け入らなければ大したことはないとも聞いている。


実際、これまで一度も襲われた経験はなかった。



「お、おい、大人しくしろっ!」


──だから、これは記念すべき“初体験”になる。


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