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補給2

スコンッ


「はぇ?」


腰を抜かした捻内の上に、眉間に深々とメスが突き刺さったゾンビが倒れ込む。


「い、いまの……谷々君が……?」

呆然と呟いたのは葦田。

驚いたように口を開けて、投擲した方向――谷々を見た。


前線では、陸奥と空閑が素早く捻内を抱え起こし、ゾンビの死体から距離を取る。

捻内は唇をわななかせながらも何も言わず、自らの服についた血を電柱に擦り付けていた。


「ガキのくせに、随分やるじゃねぇか。……この馬鹿が騒いだせいで、奴らが寄ってくるぞ。さっさと進む」


陸奥が低くそう言い放ち、全員に無言の合図で前進を促す。


「……お礼くらい言えばいいのにね。あいつ、ああ見えてプライドだけは天井知らずなのよ」


耳元で空閑が囁く。

涼しげな表情で周囲を警戒しながら、谷々の歩調に合わせる。


「……さっきは、助かったわ。今度一杯奢らせて。無事に帰れたら、だけど」


そう言って軽くウィンクして前に出た。仕草に無駄がなく、周囲を見渡す目に迷いはなかった。


その直後、ぼそっと声が漏れた。


「……はっ、なんだよその扱いの差……こいつにゃニッコリ笑顔で、おれには睨みかよ」


捻内が谷々の隣を無遠慮に歩きながら、わざとらしく咳払いをした。


「ったくよ、あんなの間合いがズレただけだっつーの」


「……」


谷々は返事をしない。黙ったまま歩を進める。


「まぁ……でも、お前、ちょっとはやるみたいだしな。俺が本気出せば、あんなゾンビくらい一撃だけどよ。あれだ、ちょっと様子見してただけ? うん」


そう言いつつ、捻内はちらちらと空閑の背中を盗み見る。




「君も、隅に置けないねぇ。いやはや、若いってのは羨ましいもんだ。それにしても谷々くん随分強いんだね」


葦田が谷々の隣に現れ、苦笑しながらもその手は軽やかだった。


「……いえ。なんとかうまくいって、よかったです」


「うん、でもほんと助かったよ。あそこで何もできなかったら……また誰かが……」


言いかけて、葦田は口をつぐんだ。肩の荷を再確認するように背負い直し、小声で続ける。


「君、ほんとに高校生なんだよね。……強いだけじゃなく、優しい子だ。感謝してる」


「……」


言葉を返す代わりに谷々は小さく頷くと、先を行く陸奥の合図を目で追った。


「……ついたみたいだ。あの通りを渡れば、目的の『ドンキ・ホーテ』だ」


見上げた先には、ペンギンのイラストが色褪せ始めた看板が、遠くからでも目に入った。

建物のガラスは割れており、周囲に人気はない。




だがその背後、別の建物の屋上にて。


「……いつも通り、5人。陸奥の野郎もいる。どうする?」


「決まってんだろ。あいつらに渡すもんなんざ、塵ひとつねぇ」


「右に同じ。じゃあ、手はず通りで――」


双眼鏡を覗く黒い影が、音もなく動いた。

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