異世界にて8
「……先ほど、能力の強弱で差別することに反対したところですが?」
無月の声は低く、語尾が硬かった。
鈍感な僕にも、怒っていることくらいは分かる。
それでも、ティアラ王女の微笑みは変わらなかった。
「差別ではありません。むしろ特別なお話です」
「……どういう意味ですか?」
無月はあくまで冷静に問い返す。
「カードで確認したのは、あくまでエゴの性質です。この世界には、訓練によって習得できる魔法もあります」
「それと、依代だけを別行動にすることに何のつながりが?」
無月はティアラ王女から目を逸らさなかった。
「……単刀直入に申し上げましょう。依代様には、皆様とは別に個別の講習をご用意いたします」
ティアラ王女の淡い蒼色の瞳が、僕へ向けられる。
「戦うにしても、戦わないにしても、魔法の基礎は生死に関わります。……特に、エゴだけでは自衛が難しい方には」
「もちろん、皆様にも魔法の手ほどきはいたします。世界最強と名高い王立魔法師団による訓練です」
そこで一拍置き、声を落とす。
「ただし……戦いを選ばれるのであれば、ですが」
四方田さんが眉を寄せる。
「戦わない道を選ばれた場合、我々は魔法の訓練を含む一切の支援をいたしません」
「えっ!? なんでっ!?」
嵯峨さんの甲高い声が跳ねた。
「当然であろう」
玉座から、王の不遜な声が響く。
「勇者とは、魔王へ挑む者を指す称号だ。戦わぬ者に、我が国の資源を費やす理由などない」
「そんな……! 勝手に召喚しておいて……!」
「繰り返すが、我々が呼んだわけではない。そして勇者は、お前たちだけではない」
王は肘掛けへ頬杖をつき、こちらを見下ろしている。
「誰かが魔王を倒せば、それでよいのだ。我が国にも利はあるが、貴様らは決して唯一の手段ではない。忘れるな」
嵯峨さんは唇を歪め、目に涙を溜めながら四方田さんの肩へしがみついた。
王はそれ以上口を挟まず、ティアラ王女と僕を眺めている。
ティアラ王女が改めて僕へ目を向けた。
「依代様には、皆様がどちらの道を選ばれても、最低限生き抜くための力を学んでいただきたいのです」
胸元へ手を添え、静かに微笑む。
「それが我々なりの──誠意です」
「……依代、どうする?」
無月が僕の目を覗き込み、何かを言いかけた。
けれど、その唇は一度閉じられた。
「……僕なら大丈夫だから。先にご飯食べててよ」
それから、一つだけ付け加える。
「あ、メニューにゆで卵があったら残しといて」
……好物なんだ。
──そのふざけた一言が、僕がこの世界でクラスメイトと交わした、最後の言葉になった。




