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まっくらなショー

作者: 卯之 はな


わたしは、お店のショーウィンドウから街を眺めている まねきん。


ずっと、みんなを見守っているの…。


真っ暗なショー


奥さまがお洋服屋さんをきりもりしているんだけれど、

めっきり売れない。


それでも、お客さまはやってくる。

お茶会をしに。


奥さまはお客さまのためにあらかじめ作っておいた

自慢のアップルパイをテーブルにおくと、にぎやかに話し始める。


ほぼ毎日やってくるけど、

毎日違う話題がでる。

わたしは外に出ることはないから、外の話を興味津々で聞いていた。


紅茶の香りが消える頃には、

それぞれ帰り支度をする。


 またね


 また遊びに来るわ


笑顔でお別れをしたあとは、少しさみしそうに片付けをしていた。




お店番が長引くと、

退屈しのぎに奥さまの試着のファッションショーがはじまる。

それがおかしくて、かわいくって、わたしは心のなかで微笑んだ。


でも毎日かかさずやっていたことは…

わたしのお手入れだった。

ほこりがかぶらないように全身を拭いてくれて、

すてきな服に着せ替えてくれる。


奥さまは、まねきんのわたしにやさしかった。




この家には夫妻のほかに、住んでいる動物がいる。

いたずら好きの子猫だ。


子猫はわたしにもちょっかいを出したことがある。

足元をちょろちょろと駆け回るものだからくすぐったかった。




奥さまも旦那さまもお出かけをしていた、ある日。


その子猫がドアの隙間からお店に入り込んできたの。


普段入れない場所だからもの珍しそうに店内を見渡していた。


そして、興味をそそられたお洋服にがしっとしがみつく。


あぁ! だめよ。

奥さまが大切にしているお店のものを傷つけちゃ。


わたしはことを見守ることしかできなかった。


そのとき。

夫妻がかえってきた。

居間に子猫がいないことに気付いた奥さまが、お店にやってくる。

まだじゃれついていた子猫を抱いて一言。


 わたしが開けっ放しにしていたのが悪いのよね


奥さまは、やさしく猫を抱いて居間に帰っていった。


奥さまは、まねきんにも…子猫にもやさしかった。




前に、奥さまと旦那さまが居間でけんかしていたときがあった。

泣きじゃくった奥さまがお店に転がり込んできて、

いすに座って泣いていた。


ずっと。 ずっと。


そのうち、なんだかいい匂いがしてきた。


旦那さまがばつが悪そうに、その香りをつれてきた。


 ごめんね


奥さまは最後の涙をぬぐった。


 いいのよ


そして、旦那さまが作ったアップルパイを一緒に食べた。


それは、奥さまが作るよりいびつなものだったけど…

奥さまは最高の笑顔で頬張って、

お皿にもった大きめなアップルパイを食べきった。




そんな仲の良かったふたりなのに、

奥さまがある日、ぱったりと姿を表さなかった。

お店はずっと締め切ったままで、お客さんも入るに入れない。


シャッターを叩いたお客さんに気付いた旦那さまは、

廊下にある扉を開けた。


会話の内容は遠くて聞こえなかったけど、

お客さんのすすり泣く声だけはしっかり聞こえた。




それから、旦那さまはわたしにお洋服を着せた。

それは、よく奥さまが着ていたお気に入りの花がらのワンピース。


 今まで、見守ってくれていてありがとう


旦那さまがそう言った。

まるで、わたしが生きてここに存在していたかのように。




わたしはずっと、暗いお店でひとりぼっち。

でも、さみしくない。

奥さまのための華やかなファッションショーは、

ずっと続いていくのだから。


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

今回はかなりショートなショートになりました。

無駄な部分が一切ない作品に仕上がったと思います。


「日常」をテーマにして書いていた物語ですが、

ちゃんと物語している。

ちゃんと登場人物が生きている。

そんなふうに思ってくだされば、うれしいです。

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