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坊っちゃま専属執事の独白

作者: P山まちこ

もしくは、彼が熊の胆を手放すまでのあれこれ。

お初にお目に掛かります。

わたくし、シーベルト侯爵家の坊っちゃま専属執事ライベルトと申します。

坊っちゃまに仕えて10年、わたくし自身も29歳になりました。

わたくしが仕えております坊っちゃま、ロイ・ジェ・シーベルト、シーベルト侯爵家の長男で跡取り息子なのですが…

えぇ、ちょっと…その、少しばかり…多少、まぁ…それとなく残念なお方で御座いまして。

いえね、18歳にして学問や世界情勢から魔法と剣術に至るまで侯爵子息として次期侯爵としてのお姿は完璧と呼んで差し支え御座いません。

社交も見事にこなし、旦那様のように宰相をも目指せるかと存じます。

見た目もご両親の良い所を受け継ぎ、本人の努力もあって最上級だと思います。

背は高くしなやかな筋肉を持ち、流れるような銀髪に涼やかな青色の瞳、キリリとした太い眉と形が良く高い鼻に少し厚めの唇も男の色気を感じさせる美男子で御座います。

令嬢方からの人気も元々高いのですが、本人が婚約者一筋となってからは更に人気が高まっておいでのようで。

ただ…ただ単に、その婚約者の方が絡むと残念極まりない気持ち悪い男になってしまうのです。

13歳になった年の顔合わせで一目惚れしてからというもの、婚約者の方が関わる全てにおいて物凄く残念になってしまったのです。

どのように気持ち悪いかは、毎朝の会話から既に頭角を現しております。

是非、是非お聴き下さい。

出来るなら助けて。


「おはよう御座います、坊っちゃま。本日は旦那様に代わり領地の視察が入っておりますので、10時に屋敷を出る予定に変更は御座いません。本日も宜しくお願い致します」


「あぁ、分かったよ。それよりも今朝のルルはどうだったかな?付けている子飼いから報告はあったんだろう?」


それよりも、じゃないよ!坊っちゃま!

おっと、心の声が乱れてしまいました。

これ、これなのです。

婚約者が美人過ぎて変な虫が寄ると良くないからと、侯爵家の子飼いを付けておられるのです。

それって何てストーカー…

坊っちゃまの婚約者はルルマリア・ルス・エスペランサ、エスペランサ伯爵家の長女であり、とても美しい才女と呼ぶべきお方です。

坊っちゃまと同じく18歳。

長く豊かに波打つ髪は魔法大国タルタでは珍しい黒色ですが、日の光に当たると玉虫色の不思議な光を放ち、黒い瞳は黒曜石というよりも満天の夜空を詰め込んだかのように煌めきます。

細い眉は綺麗なカーブを描き、切れ長の瞳は憂いを含んだかのように伏せられ、象牙色の肌に薔薇色の頬、桜色の薄い唇は常に知的な弧を描いております。

スラリとした肢体に豊かな胸元とくびれをお持ちで、坊っちゃま曰く美の化身。

この世の美を詰め込んだ唯一無二の高尚なる存在だそうです。

もう、崇拝レベルの信仰で既に気持ち悪い。


心配だからと子飼いまで付けておりますが、この方ただの才女ではないのです。

生まれながらの天才。

魔法大国タルタの貴族は、生まれながらにして膨大な魔力を持っているのが常と申しても過言では御座いません。

見た目の美醜や性格、知識や経験よりも、時として魔力の強さが全てを押し退け尊ばれる事すらあるのです。

ですが、ルルマリア様は一切の魔力を持たずお生まれになりました。

明るい未来はないかと誰しもが思っておりましたが、当時僅か7歳の彼女はその才を遺憾なく発揮されたのです。

魔法の台頭によって既に廃れ忘れ去られていた、自身に魔力がなくとも魔法のような力を使える魔術式を独学で復活させ、自らの身体へと魔術式を直接彫り込むという暴挙にも思える形でしたが。

当時の社交界、貴族界を越えて大陸全土に激震が走りました。

魔力の優劣という貴族間、国家間のパワーバランスを一気に覆し兼ねない事態でしたので当時の混乱は仕方ないのかもしれません。

5年の歳月を費やし、国同士での話し合いが持たれ大陸全土で魔術式を体に彫り込む事は禁忌となりました。

その間のルルマリア様と言えば、10歳で自分の商会『スリーズ商会』を設立し、魔力のない平民向けの安価な魔術道具の普及に力を入れておりました。

その結果、魔力の有無での差別撤廃の動きも大陸全土で盛んになります。

そんな人間に邪な思いで手を出して、無事な訳ないじゃないですか。

心配をする所を間違っております。

尊敬する部分も多いはずの坊っちゃまながら、どうしてそこまでポンコツになれた…


「マリーからの報告ですが…本日も起床して直ぐのお嬢様からお声を掛けて頂き、朝食を一緒に頂きました。伯爵家のベーコンエッグとフワフワの白パンが美味しかったです。サラダのドレッシングはスリーズ商会で来月売り出す新商品らしく何本か分けて頂けました。とっても美味しいです。最近の坊っちゃまのご様子を気にかけていらっしゃったのでお伝えしておきました。明日お会い出来るのを楽しみにしているとの事です。お嬢様と一緒に作ったクッキーも報告書に同封します…との事です」


「何だ!それは!…ズルい!!!私だってルルの寝起き姿が見たいし一緒に朝食が食べたいし、クッキーを作っている所を眺めつつ手取り足取り教わってルルへクッキーを作ってあげたい!もう視察なんか行かないでルルに会いに行くからな!!!」


あぁ…一番感情の振れ幅が狭く冷静沈着と定評のあった子飼いでさえ、ルルマリア様に懐柔されている。

まだ3日目じゃん?

お仕事じゃん?

もう、これ報告書じゃなく日記じゃん?

お友達への手紙じゃね?

まぁ、懐柔最短記録は前々回のダズの半日が断トツですけどね。

彼、スリーズ商会に転職して各国飛び回っちゃってるらしいですし、それに比べたらルルマリア様相手に踏ん張ったと思います!

懐柔されたけど!

それより、若干斜め上に坊っちゃまが暴走してしまいました…

クッキー作りを教わるのに、手取り足取りって何だ。

いや、こうなる事は目に見えて分かってはいたんですけどね。

通常運転ですよ、ルルマリア様に関して残念なのは。

婚約して5年、子飼いを付けては懐柔され嫉妬して交代させるという事を繰り返しておりますから。

今年結婚するんだし、そろそろ諦めてくれないかなぁ…

もう子飼いを付けさせないで欲しい、新しい人探すの大変なんですって。


「そんなん駄目に決まってんでしょうが!!!ちゃっちゃと視察の準備をしなさい!!!そんなんだと、ルルマリア様に嫌われますよ!!!」


「それは嫌だ!!!流石に泣くぞ!!!」


坊っちゃま専属執事は1日も早く熊の胆を手放したい。

お読み頂き有難う御座いました!

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