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愛犬との老後……覚悟を決めた。

作者: 七宝しゃこ

 ここ最近、ユエさんの様子がおかしい。

 いや、可愛い。

 親バカと言うか飼い主バカだと自覚はあるものの、最近ユエさんはニコッと言うか、飼い始めた頃の刺々しさ、荒んだ様子が消え、穏やかで子犬のようにまん丸の目で私を見る。

 この間寒い日にヒーターを置くと、うっとりとした顔であくびをしていた。

 普段は大人しいのだが、遊んで欲しい時には声を上げる。

 声をかけながら、近づき、


「どうしたの?どうしたの?ユエさん」


頭や体を撫でる。

 昔は噛まれそうとか怯えてしまったのだが、最近は逆に噛まれてもいいやと思っている。

 噛むのはきっと、私のやりたいようにユエさんに強いているのが嫌だと思っているのだろうと割り切ることにしたのだ。

 しかし、最近は、


「ユエさん、散歩いこっか?」


とリードを持ってくるが、つけるとすぐに抱き上げる。

 そして、6キロの身体を抱いて階段を降り、散歩に連れて行く。

 最近、ユエさんは階段を降りたり上がったりを怖がるようになったのである。


『秋の日は釣瓶つるべ落とし』

と言うけれど、すぐ暗くなる。

 いくら早く散歩に出ても、必ず懐中電灯を持って行くようにしている。

 でないと、鳥目の私は周囲が暗く、白内障のユエさんは匂いをたどって歩き、塀にぶつかり、歩道と車道の間のセメントに激突する。


 今日は昼間。

 階段は大丈夫かな?と思っても、怖がり、夜だったらあり得た塀にぶつかる様子に、もしかしてと、父に電話する。


「父さん、父さん。ユエさんが足腰は弱ってないけど、階段登り降り嫌がるようになってね?それに壁とか塀に昼間なのにぶつかるんやけど……」


 思い出すのは17年前……前に飼っていた愛犬星丸が、ケージの中で柵に肩を当ててぐるぐる徘徊していた。

 ボケているのではなく、星丸は不安だったのだろう。

 白内障で全てが見えなくなるのが……。

 いや、私が不安で怯えていた。

 当時、病気は分からなかったが、就職できずバイトを掛け持ちして、身体を壊し、また別の仕事を探して……未来が不安で、星丸が支えだった。

 なので、17年前の年末、星丸が食事を口に出来なくなり、起き上がれなくなり、排泄をする為だけに必死に動いていたあの光景が蘇る。


「……目が失明したんかもなぁ……」

「えぇぇぇ!そ、そんな!まだ大丈夫だと思ってたのに!」

「進行したんやろ。でも、散歩には普通に連れて行くんぞ?運動させな身体弱る」

「うん……でも、治せんのやろか……」


 電話の前にネットで調べたところ、手術と目薬にサプリメントがあった。

 でも、前に動物病院の先生は、


「もう老齢だから手術はやめた方がいいです。若年性でも失敗する恐れがあるから」


と言っていた。


 じゃぁ他にどんな方法があるのか……目薬、サプリメント……だろうか。

 病院ではさしてもらえるが、目薬を私がさせるか……難しい。

 白内障は悪化すると様々な病気が現れ、目の水晶体が割れたりする場合もある。


 サプリメントはどうだろう?

 人間のサプリメントと同じようなものがあるらしい。

 ネットで購入できる。

 でも、前にある日本のペットフードメーカーが、再三ペットの飼い主が『ペットフードを食べた子が病気になったり、悪化すると苦しんで死んでしまう、チェックして欲しい』と申し入れた所、何度も無視され、最後に持ち込むとサルモネラ菌が入っていたと言う事件を思い出す。

 その間に死んだペットは分かっているだけで15匹の猫たち。

 それ以来ユエさんの今の餌も注意している。

 サプリメントも病院に相談しよう。

 その他に方法がないかと探そうと思い、電話を切ろうと声をかけた。


「ありがとう、お父さん」

「……お前は、わしの子供の中で一番泣き虫で、頑固や」


 まぁ、その自覚はある。


「それに体調は悪いのに、なるべく朝昼晩散歩に連れて行って、餌と水、頑張っとると思う。最近つばきを拾ったバカとは逆やな。でも、お前はユゥ(家族がユエさんをこう呼ぶ)を溺愛しすぎや。もっと厳しいに躾けないかん。あいつは多分長年人嫌いだったのをお前が懐かせたんはすごいと思うが、ユゥや前の星丸の時にも思ったが、お前はユゥや星丸に依存しすぎとる」

「まぁ……その通りです」

「その通りじゃなかろうが。星丸が死んでから5年以上も泣き暮らして、まぁうちの環境が悪かったんもあるけど、クゥを引き取った時にはキレとったよなぁ……」

「ペットショップで一年いたベルジアン・グリフォン飼いたかったのに、却下した癖に目の前におるの、ジャックラッセルだもん……私には買うなって行っといていて……」

「あれは、あいつに言え。全然世話をしないバカに」


 父の言うバカは弟のことである。

 仕事で面倒を見られないのは許せる……肉体労働だからだ。

 しかし、休日ゆっくりするのかと思ったらギャンブルに行き、日付をまたぐ時間まで戻ってこないらしい。

 朝晩仕事で早朝出勤、夜間帰宅だと言うのに、散歩もろくにせず、自分で飼ったクゥは母か妹が散歩。

 父が猫のつばきの世話をしているらしい。


 私は、いくら短時間でも、体調が悪くてもユエさんと散歩する。

 どうしても体調が悪く辛い時は、家族の誰かがいる土曜日の夜に父に迎えに来てもらって、実家に預ける。

 そして日曜日か月曜日の早朝までに迎えに行くか、連れてきてもらう。

 迎えに行くと洗濯や家庭菜園をしている父や母を追いかけて寂しそうなクゥと、寒く暗い自室に飼い始めたつばきの餌も空、水もなく、トイレ砂を放置しているのを見て一回しばき倒した。


「飼うってのは面倒見ることや!ドアホ!」


 今週はどうだろうか?


 それよりも、ユエさんには幸せな老後を過ごして欲しい。

 保健所の前は、山に捨てられていて、人を信じられなくなっていた。

 でも、私も人を信じられるように、ユエさんと楽しい日々を過ごしたい。




 1日でも長くユエさんといられますように。

最近噛まれていません。

いや、噛まれるのは普通じゃないのですが、ユエさんは目が悪いのと人を信じられなくなっていたのでいつも警戒していたので何も言わずに手を出すと噛まれていたので、最近はよく話しかけるようにしています。

一人暮らしでおばさんの独り言みたいな感じですが、散歩の時には、昼間はずっと声をかけて歩いています。


「ユエさん。今日は風が強いね。あ、そのまま真っ直ぐは、ぶつかるよ」

「道路の真ん中で止まらない。ブッブー(車のクラクション。つまり車)が来るでしょ?」

「あ、はなちゃんだよ。はなちゃんのお母さんもいるね」


はなちゃんはユエさんの友人の黒柴ちゃん。

ユエさんはキョトンとしているものの、はなちゃんはママ(飼い主)さんと近づいてきます。


「ユエちゃん、元気そうだね〜」

「はい、最近、寒くなったので、部屋を暖めてあげています」

「そうよね、朝晩寒くなったわね。日もすぐに落ちるし」

「ユエさんは、目が前より悪くなってから出るのを嫌がるようになっちゃって……」

「そうね……病院で手術も年齢が年齢だから難しいわね」


そう言う話をしながら、最近は散歩に行きます。

散歩に行ける一日一日が大切なのだと改めて思います。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ユエさんへの真っすぐな気持ち、読んでいて癒されます。 溺愛しすぎ、とありますが(もちろんお父様の意見ももっともですけど)、私は刹那さんみたいに寄り添ってあげられる人が増えたらなと思います。…
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