迷いと決意
高総体が終わると3年生は引退し私たち2年生が部活の中心となった。
先輩が抜けて箍が外れたとでも言おうか私はラグビーを続けることに意味を見出せず、やがて部活をサボるようになっていった。
仮に私が辞めたとしてもラグビー部が存続の危機になることはないという安心感も大きい。
もともとやりたかったバスケットボール部に入部したいと思うようになっていったのである。
今更バスケットボール部に入ってもレギュラーになれるとは思わなかったが、同じ辛い練習ならやりたいことをやった方が有意義じゃないか?
そう思ったのだ。
時を同じくして小笠原も部活に来なくなりラグビー部の2年生は7人になってしまう。
仲の良かったチームメイトは私の前に何度も復帰の説得に現れた。
そのことは嬉しい反面煩わしくもあり、私は日を追うごとに頑なになっていった。
ただ、すぐに退部届を出せずにいたのはチームメイトへのうしろめたさだけでなく、これまでの努力が無駄になること。
なにより負けたまま逃げるように辞めることへの反発だった。
しばらくすると私と小笠原は監督に体育教官室へ呼び出される。
「お前たち、なんで部活に来ない?ラグビー部を辞めるつもりなのか?」
私たちが黙っていると
「何かやりたいことがあるならいい。ただ何となくはやめろ」
監督は私たちを順に見つめ
「練習が辛いか?だけどな。辛いことから1度逃げると立ち向かえなくなる。お前たちが元々ラグビーに興味がなかったことは知ってるが、最後までやり通せ。それが自信になる」
陳腐な言葉だと嗤う一方でそういうものかもしれないと納得する自分もいた。
確かに辛い練習だったがそのお陰で私のフィジカルは校内でトップクラスだったし、短距離走こそ陸上部やバックスに一歩譲るものの持久力もトップクラスに成長させてくれた。
肉体的強さが私に自信を与えてくれたのは事実だ。
ラグビーを続けた先で勝利を上げることが出来れば、精神的強さも得られるかもしれない。
私たちは監督の言葉を聞いた後、とりあえず体育教官室を出た。
暫く無言で歩き小笠原が口を開く。
「で、お前はどうする?俺はもう辞める。練習が辛いとかそういうことじゃないし。やってればそのうち面白くなるかもって思ってたけど、やっぱ俺にラグビーは合わないよ」
「そうか、辞めて何やるつもりだ?」
「まだ決めてない。でももう2年だしな・・・なにか文化部にでも入るか」
そう言って小笠原は帰っていった。
残された私はラグビーに復帰することを決意する。
やはり負けたままじゃ終われない。