Aブロック入れ替え戦②
入れ替え戦は序盤から激しい攻防となった。
試合開始の合図と共にスタンドオフ園田がドロップキックを敵陣の浅い位置に高く上げる。
相手フォワードがこれをキャッチするもほぼ同時にロック石川のタックルが決まり、こぼれたボールをフランカー菅井がターンオーバー。
がっちり確保したボールはスクラムハーフ鈴木からスタンドオフ園田へ。
園田は数歩走って相手を内に引き付けるとセンター笹原を飛ばしてロングパス。
これをを受けたウイング堀田がライン際を駆け上がるがあと5mのところで相手フルバックから強烈なタックルを受けライン外にはじき飛ばされる。
試合はお互いがよく知る相手だったこともありサインプレーの裏をかかれたり逆に裏をかいたりと目まぐるしく戦線が移動する展開となった。
フォワードを主軸に押すKM高校と突破力のあるバックスのKK高校で良い部分を出せた方が勝つ。
激しく競り合った後にはエキサイトする場面も度々起こる緊迫した試合となった。
「ブレイクだ! ブレイクしろって言ってんだろうが!」
私自身も相当熱くなっており、スクラムやモールでボールが出た後も中々離そうとしない相手選手(次のプレーへの妨害)を突き飛ばし、あわや殴り合いに発展しそうにもなった。
その後も試合は一進一退を繰り返し勝ち越したと思えば追い付かれ、同点のまま前半戦終了5分前となった時チャンスが訪れる。
相手のノックオンから敵陣22mライン内側やや右側でマイボールのスクラム。
私たちはスクラムを押し込んで相手防衛ラインを下げると狭い右側へ展開。
相手の防衛ラインが一歩遅れる隙にスタンドオフ園田がフェイントから中央突破。
最後は相手フルバックを振り切りコート右端に飛び込んで勝ち越しトライを決める。
コンバージョンは失敗したが5点リードで私たちは後半戦へ折り返すことになった。
前半戦が終わってインターバルに入った私たちはグラウンド周辺に人垣が出来ているのを見て驚いた。
試合中は集中していて気付かなかったが、KM高校の生徒たち数十人が授業を抜け出して応援に来てくれていたのだ。
後から聞いたところによると結局学校側が全校応援を許可しなかったため一部の生徒たちが授業をボイコット。
一人の教師が授業を自習にして応援することを決めると、次々に生徒が後を追ってこの人数が集まったらしい。
試合中に水の補給時間などなかったこの時代、柄杓を奪い合うようにして水を飲む私たちに生徒たちから温かい言葉が送られてくる。
「ルールはよくわからないけど、ラグビーって興奮するな」
「頑張れ!勝てよ!」
「応援してるぞ」
今までこんな経験がなかった私たちは照れながらも手を振り返えし、後半戦に向けてサインプレーの確認を行う。
この時の私たちは生徒たちが急に応援に来た状況がよくわかっていなかったが、あと一歩を踏み出す力を与えてくれたことは間違いない。




