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我が身を焦がす

作者: 城北 蒼

  今日も帰ってきてすぐにどすり、とベッドに体を沈めた。着替えなきゃ花粉が布団に付くな、などと思いつつももはや体は鉛だ、別に体調が悪いわけではないし、眠くなるほど疲れて帰るわけでもない。むしろこんな堕落した自分に対しては焦っているのだ。でもどうせ今日もなにもしないで一日終わるのだろう。わかっている。何かしなくちゃ。明日はテストだし。しかももう高校三年生。大学受験をする年なのだから。夢に向かうんだろ?だったら小説を書けよ。だけど自分に対しての問いかけも、発破をかける為の言葉の羅列も虚空に沈んでいくままだ。深い深い谷に発煙筒を落としたように、ずっと沈んでいくだけ。煙だけ、わずかな明かりだけ見つめて落ちきるのを待つのだ。

  だが現実がそんな風にいくわけがない。現実は沈んだら沈んだまま。沈んだ先にあるのは破滅なのだ。楽園なんてない。現実社会は資本主義社会なのだ。努力したものにだけ楽園が与えられる。そんなことはわかってる。それでも鉛になった肉体には喝が入らない。力が入らない。

  だからといって勘違いしないでもらいたいのはやる気はあるという点だ。着火をする道具はもう用意されている。準備は万端なのだ。

 でもよく考えてみてほしい。燃やすものがなければ火はつかないのである。要するにそういうこと。結局体は動かないのだ。第一こんな風に無駄な考え事をして逃げている。

 そういう風にして現実を悟れば悟るほど体は重くなっていく。磁石が反発して逃げるようにして、心を焦がす理性の炎から体が逃げ出しているのかも。

 ところで大学受験は要領が良いだけでは突破出来ないらしい。だから俺にはハードルが高い。今まで要領だけで世の中を渡ってきたのだ。そこへきて努力を要求されるのだから大変だ。また心が締め付けられる。自分の言葉で縛られるのだ。自縄自縛とはこのことなのだろうか。自分で生み出した言葉が自分を痛めつけられた。

 ふと時計を見ると帰ってきた時間から1時間ほど経っていた。だからといって体が動くわけではないが。動きだそうにもとにかく体が重いのだ。別に眠いとかそういうのでなくて、単純に倦怠感というやつが俺の行動を阻むのだ。やる気はある。それだけは言い訳でなく言っておきたい。だがそんな免罪符は理性には届かない。理性はひたすらに怠惰な俺を焼き殺そうとしてくる。

 手首でも切れば変われるかな、とも思う。というのも今現在俺が(勝手に思っているだけと信じたいが)周りとの軋轢を強く感じているからそれも影響しているのかもしれない。

 ここ数ヶ月、いや数年間ほど、空回りという言葉の意味を実感させられているのだ。他人と会話しても手応えがない。俺が何か鳴いているのを相手が冷めた目で見ているだけという感覚がするのだ。それも自分が強く依存している相手にされている気がする。

 ここでも現実が襲いかかるのだ。これに加えて劣等感まで責めてくる。だからひどく落ち込む日が多くなっている。死のうとまでは思わない。ただ、何か解放してくれる因子が欲しいだけなのだ。今まではそれが依存できた他者だったが、それも他者だった。こんな言い方我儘の極みなのだろうけど、俺にとってはその人だけが強い支柱だった。だから事実はどうであれ、理性の反対側が裏切られたと感じている。それは俺の方の真実だ。

 こんな風に何もかも空回りなのだ。他人に対しての感情も、言葉も、態度も。そして無聊に耐えるこの生活すら空回りに囚われている。心はあるから良い言葉や音楽には感銘を受ける。だがそれすらも空回りして行動に効果を及ぼさない。

 もういっそ死ぬか?いや死ねない。諦めてしまう?諦めきれない。こうやってプライドだけは自分が届けないところにしがみつく。マイナスにしろプラスにしろ。

 だからこそ心が焦がされるのだ。いや、もはや身まで焦げている。耳鳴りもする。頭も重い。だが現実では焦げた身体すら動かさなくてはいけないことになっている。周りから嫌われて心身を焦がされても、目の前にある現実に対する不安に焦がされても、それでも進まなくてはいけない。


 目が覚めたらもう朝の6時だった。どれだけ自分を叱責しようと、俺は所詮この程度の人間なのだ。また一日中煩悶をして時間が過ぎた。そんな現実までひっくるめて起きなくてはいけない。まるで死刑宣告を受けたかのような感情で、暗い未来への絶望で身を焦がされて、空回りする心と、他とのギャップに身を焦がされて。もう日は登るのだから。




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