鷹、飛翔す?
鷹通は唸っていた。
しぐれのこの返答に。
教師も唸っていた。
この教室の惨状に。
この台風のような教室の中で、台風の目その人である雨宮しぐれだけが、不敵に笑っていた。
翌日、目に闘志を燃やす鷹通は、薩摩道場を朝一番に尋ねた。
そしてそこで、鷹通は戦慄していた。
普段はテレビで解説などを行ったり、道場での指導しかしていないのに、薩摩吾郎、道場の師範その人が立っているだけなのに。
「タカ、お前自分が何を言っているのか分かってるのか?」吾郎が静かに聞く。
それだけで道場の空気が2.3度は下がったように感じるほどの威圧感である。
「はい、俺は諦めないっす。相手が師範だろうが雨宮道場だろうが。」
鷹通が返す。凡人なら声も出せないような威圧感の中、鷹通は全く意にも介さず答える。
「そうか。」
そこで能面のような顔をしていた吾郎が破顔した。
「それでこそ、それでこそ薩摩道場の門下生よ!
お前の実力は俺も買ってるんだ。」
笑いながらも吾郎は続ける。
「あの雨宮んとこの嬢ちゃんに惚れたっつーのは全くどうでもいいが、そいつの親父、雨宮文士だけには気をつけろ。俺と一昼夜決闘して勝敗がつかなかったヤツだ。そのガキだから恐らく嬢ちゃんもタダもんじゃねえぞ。」
吾郎はそこで急に後ろを向くと、あと頑張るのはお前だからな、と言い残して道場から去っていった。
鷹通は一息つくと、立ち上がり、頰に気合を一発バシッと入れた。
その数瞬後道場の扉が開き、鷹通がセンパイと慕う男、名を原田剣と言う、が入ってくる。
開口一番原田は問う。
「久々に本気でやるか?」
拳を鳴らし、手足をほぐしながら原田はそういうと、鷹通の目を見据える。
鷹通はニヤッと笑うと、こちらも拳を鳴らし始めるのだった。