美少女、爆弾、叫び声
取り残された鷹通を忘れたかのように教室内は騒がしさを超えて興奮の渦の中にあった。
「え、ちょーかわいい!!」「お人形みたい!!!」
女子の高い声がそう持て囃せば、男子は
「か、カレシとかいるんすか!?」「自分と友達になってくださーい!!」
相変わらずどうしようもない。
そんな中、彼女が自己紹介をしようと一声発した瞬間、その教室が静まり返った。
「私、雨宮しぐれって言います。しぐれはひらがなでしぐれです。
両親は今日本で一番の八極拳道場、雨宮道場をしています。」
静まり返ったバカ共が、雨宮道場の名を聞いた瞬間にまた騒ぎ出すのは当然のことに思えた。
鷹通の通う薩摩道場が合気道において日本一であれば、雨宮道場は中国拳法、棒術、槍術などの分野において日本最強、世界的に見ても高いレベルに必ず居る道場なのである。
「私、小さいですけど、誰にも負けません。もし私と付き合いたいならいつでも道場に来てください。
私に勝てたら、お付き合いしましょう。」
雨宮道場というだけで騒がしかったバカ共が、爆発した。
――うおおおおおおお!!!!!!!
一時間は経っただろうか。ようやく収まったバカ騒ぎの中心に、鷹通はいた。
廊下で話を聞いていた鷹通が、お付き合いの言葉が出た瞬間に雄たけびを上げながらドアを蹴破ったのだ。
それにも気づかず俺が最初に道場に行く、いや俺が最初だと騒いでいた可哀想なバカが二人鷹通に殴り倒された。
「俺が一番だ!お前らには先は越させねえ。」
鷹通は明らかに目が座り、恐ろしいまでの気迫を持って男どもを黙らせた。
「---。」
それを壇上で興味深そうに見ていたのは、雨宮しぐれ、その人であった。
「雨宮、さん、っつったっけ。俺は遠賀、遠賀鷹通。薩摩道場の門下生。
ちょっと酷いこと言っちゃって、どう謝ろうか考えてたんだけど、辞めた。
一個だけ答えてくれる? 俺が勝ったら、俺と付き合ってくれますか!!」
男どもを黙らせた気迫そのままで、口調すら安定しない様子で、でも。
明らかに心の籠ったその質問に。
「ええ、もちろんです。強い人、好きですから。」
涼やかに答える雨宮とは逆に、教師はこの惨状をどう収めようか頭を抱えたのであった。