5話
「ふんふん〜新エリア〜」
木が一本も生えていない、岩だらけの山を上機嫌で登山するシア。
この岩山は、アルヴィーンから北に約2.5kmの地点に位置する。
草原のモンスターに襲われることのないシアは、街の門から出て一度も止まることなくその距離を走破した。
疾走のレベルはⅢからⅣに上がっている。
「ふんふ、ん?」
岩山に脚を踏み入れてまだ数分、突然シアは立ち止まる。
視線の先にあるのはただの石だ。
「ん〜……ほい」
シアは短剣で岩を突き刺す。
新しく買い替えたとは言え、短剣は短剣だ。
やすやすと石を斬れるはずはない……が、短剣はあっさりと石を貫く。
「キュッ」
石は小さく悲鳴を上げると、そのままアイテム結晶へと姿を変えた。
そう、石はモンスターだったのである。
「まっ、慣れだよね〜。素材名は石蜥蜴……胸当てのやつか〜」
もちろん、シアの言う慣れとはLOのことではない。
例えば、Aのゲームをひたすらやりこんだプレイヤーは、Aと似たジャンルのBのゲームでもある程度は動くことが出来る。
それがC,D,Eと積み重なるにつれ、新しく始めるゲームでの動きはより良いものとなっていく。
シアの言う慣れとはそういうことである。
『ロックリザード(素材名・石蜥蜴)』の素材を拾ったシアは再び山登りを再開する。
─────
『スキル「短剣」のレベルが上がりました』
短剣Ⅸ→Ⅹ
『スキル「短剣術」が「短剣術改」に変化しました』
30分ほど、チラホラと見えるプレイヤーを無視してロックリザードを狩り続けたシアはインフォメーションで我に返る。
あれからもう一体ロックリザードを倒すと、なんと宝石を落としたのだ。
名前:黄水晶(小)
用途:アクセサリーの素材
説明:アクセサリーを作るために使う小さな黄水晶。売るとちょっとしたお金になる。
装備で所持金が減ったシアにとって、お小遣い稼ぎが出来そうなアイテムが取れるモンスターは良い獲物だ。
もっとも、取れた黄水晶(小)の数は始めを合わせて2つだけなのだが。
躍起になりかけていたところでインフォメーションが流れてきたのだった。
ロックリザードの大きさはどうやらバラバラで、下は10cm程度から上は50cm程度までいる。
「あ〜……短剣もなったかぁ」
シアは空を見上げる。
「まだ明るいなぁ……まぁいいか」
日は傾いてきてはいるものの、まだまだ明るい時間だ。
少し悩んだシアだったが、いつもの即決ですぐに結論を出す。
「隠れれないから通り魔しよう」
適当に目測で一番近くのプレイヤーを決めると、短剣を数回素振りする。
「ふぅ〜……目標は5人」
そう呟くと同時、シアは勢い良く走り出す。
狙うは200mほど先で背を向けているプレイヤー。
200mを15秒程度で駆け抜けたシアは、未だ背を見せるプレイヤーの心臓を狙ってそのまま突く。
「ぇ?」
突然の攻撃に驚いているのか、間抜けな声を出す男プレイヤー。
「よっ!」
短剣を突き刺したまま、左に振り抜きすぐに走り出す。
背後で青い輝きが発生するのも気にせず、すぐにまた狙いを決めると走りながら短剣を腰にしまう。
長剣の柄に手を添えたシアの視界には、やはりこちらに背を向けているプレイヤー。
「せい!」
プレイヤーのすぐ後ろまで走り抜いたシアは、その勢いのまま腰を落とし一息に抜刀する。
左下から右上へ、一切の抵抗無く斜めに走った剣は斬られたプレイヤーを即死させる。
剣を振り抜いたシアは、すぐ正面からこちらを見て唖然とするプレイヤーを捉える。
「こっち見るな」
そう呟くと、振り抜いて伸びている右腕をそのまま利用して剣を投げる。
10mに満たない距離を瞬く間に0にした剣は、そのままプレイヤーの顔面へと突き刺さる。
「うっわ……」
もちろん即死なのだが、狙ったわけではない倒し方に自分でドン引きし、シアの足が止まる。
「……ま、まぁいいか。トラウマにならないでね」
突き刺さっていたプレイヤーが消え、地面に落ちた長剣を拾ったシアはそう願う。
「走りながら短剣使うのは難しいなぁ……刀とかあれば格好いいのに」
手で短剣を遊びながら、シアは不満そうに呟く。
背後から刺す時や、武器を出しながら隠れる時は小さな短剣が便利ではあるのだが。
そんなことを考えながら、シアは山登りを再開する。
森とは違って、あちらこちらにプレイヤーの姿は見える。
しかし、先程のPKを見ていたプレイヤーも多いらしく、明らかに距離を取られているのだ。
別に追いかけ回してもいいのだが、そんなことをするなら宝石集めをした方が良い。
「キュ!」「キュイ!」
見つけた二匹のロックリザードをまとめて長剣で突き刺し、両方共宝石を落としていないことを確認したシアは早くも意志が挫けそうだった。
「っ!」
気付けたのは偶然だ。
本当に偶然、太陽を背にしていたお陰で背後にいる誰かの影に気付くことができた。
しかし、気付けたところで間に合うとは限らない。
「んぐ……」
咄嗟に動いたシアは、しかし腹に強い衝撃を受けて動きが止まる。
しかし、自分の腹から飛び出している槍の穂先を確認した後の動きは早かった。
左手でダメージを無視して穂先を強く握り、右手に持っている長剣を逆手に持ち替える。
そのまま左手を勢いよく前に出し、槍を握っているであろうプレイヤーを引き寄せる。
引いた感覚から、プレイヤーは手放さずにそのまま引き寄せられたことを確認し、右手の長剣で自分の腹をすぐさま貫く。
「はっ?」
間抜けな声と共に視界が青く染まり、白へと変わり、そして気付けば目の前にはアルヴィーンの広場が広がっていた。
『スキル「死斬」を獲得しました』
死斬Ⅰ
・近接武器で自分を巻き込んで攻撃することで、その攻撃を強化する
「は〜……意味わかんねぇ」
横を見れば、槍を担いで不貞腐れたようにしている男の姿。
「ぶっ刺すなら心臓か頭狙わないとね〜」
この巻き込みで男を殺せたことに内心で喜びながら、シアはPKのアドバイスをする。
男は肩を竦めると、呆れたように口を開く。
「そこじゃねぇよ、あんな方法で攻撃するとかどんな神経してんだよ」
男はシアの腹を指差しながら訂正する。
「あ〜……アレね。うん、慣れだよ慣れ」
「どんな慣れだよ……怖ぇよ」
男は疲れたように呟くと、別れを告げて街並みに消えていった。
「はぁ……岩山まで行くの面倒臭いなぁ」
シアも疲れたように呟くと、取り合えず宝石を売るために適当な店を探す。
30分ほど、いくつかの店を回って一番高く売れる店で宝石を売ったシアは暇を持て余していた。
ちなみに、宝石は確かにそこそこ良い値段で売れた。
「あ〜……岩山まで行くの面倒だぁ〜……」
岩山までは約20分程度で走り抜けれるので、暗くなる前に余裕で到着することは出来る。
もっとも、暗くなってもらった方がシアにとって都合は良いのだが。
「はぁ……行こっと」
重い腰を上げ、シアは街の北門へと向かう。
─────
「とうちゃ〜く」
岩山に辿り着いた時には既に空がオレンジ色に染まりはじめている。
PKはもう少し暗くなってからにしよう、そう決めたシアは取り合えず奥へと進んでいく。
入り口付近にはあまりプレイヤーは見かけなかったが、奥へ向かうに連れてそこそこの数を見かけるようになる。
LOも始まって少し経ったのだし、ある程度までは攻略されてるのだろう。
森や岩山より人が多いであろう草原の奥では、もしかすると新しいエリアが既に見つかってるかもしれない。
辺りが暗くなるのを待っている間、暗くて見つけにくくなったロックリザードを何とか狩りながら時間を潰す。
ちなみに、砂利道から外れて砂の上を歩いていると、ロックリザードとは別のトカゲが砂の中から出てきた。
大きさは60cm程度で、出てきたと思えばすぐ潜ってしまったので倒せなかったのだが。
恐らく砂蜥蜴だろうと当たりを付け、少し探してみたのだが全く見つからなかったので諦めたのだ。
「モンスターが襲って来にくくなるのも、弊害の1つなのかなぁ」
少し前までは力量差で襲われないと考えていたが、森の奥でもこの岩山でも、ほとんどのモンスターが襲ってこないのだ。
レッサーモンキーや森奥のビッグボアは襲ってきたが、明らかに格下だったので既に薄々思ってはいたのだが。
「まぁ、まだ分からないか」
まだ力量差説を捨てるには、シアは適正から外れ過ぎている。
イベントよりも、こちらの方が痛い気もしながらシアは夜まで狩りを続けるのだった。
─────
「キャンプ?」
当たりを夜の闇が覆う中、シアの視線の先には焚き火の明かりとそれに照らされる4つのテントがある。
シアがいる場所は全身を隠せる大きな岩の影で、頭だけを出してその様子を見ている。
遠くに見えるプレイヤーの松明の明かりを除けば、焚き火の明かりしかない。
隠れなくても目視で見つかることは無いだろうが、暗視持ちだと万が一もある。
ちなみに、シアの現在の暗視はレベルⅣだが、暗闇ははっきり見えるわけではない。
白と黒で形作られている世界に、一番近いのはサーマルスコープだろうか。
ただし熱を見ているわけでは無く、オブジェクトに反応しているのだが。
岩や木であっても白く見えるし、モンスターやプレイヤーでも同じく白く見える。
オブジェクトは白くしか見えないので、それっぽくしていればプレイヤーだとは気付きにくい。
遠くにいくほど輪郭は黒く滲んでいくし、明るい所に近づくほど色が付き出す。
閑話休題。
シアの視界にあるものは焚き火とテントだけではない。
もちろんそれの所有者であろうプレイヤー達と、焚き火の後ろにある岩だ。
その岩の表面には何か文字のようなものが掘られていることから、ただの岩ではないのだろう。
「ランドマークだよねぇ」
あのプレイヤーたちはランドマークのイベントをクリアし、安全圏にしているのだろう。
「いけそう……かな?イベントも触れるくらいまで行かないといけなかったし……」
シアはそう呟くと、ゆっくりとテントへ近付いていく。
消音の効果で足音は消えた今、シアに気付くには暗視または何らかの光源で直接姿を捉えるしかないだろう。
電子世界に気配などというものは存在しないのだから。
もっとも、LOにはそういったスキルもあるのかもしれないが。
プレイヤー達はランドマーク効果で、シアは何らかの理由でモンスターに襲われないため、一切の邪魔もなく近くまで到着した。
「外には……3人」
テントの数は4つだ。
どこかのテントには1人入っているのだろう、1つずつ注視すれば遠視の効果ではっきりと見える。
「……いた」
焚き火の明かりで座っているプレイヤーのシルエットが浮かぶテントが1つ。
シアはゆっくりと、外で何かを話し合っているプレイヤーに気付かれないよう移動する。
30秒程度でプレイヤーの居るテントの裏まで到着する。
シアから見れば焚き火の明かりにプレイヤーの影がはっきりと浮かんで見える。
一方、中のプレイヤーからは背に闇のあるシアの姿は見えないだろう。
「ふっ」
小さく息を吐きながら、影の頭へと躊躇いなく長剣を突く。
背後からか、もしかすると正面からか、影だけではどちらから突いたのかは分からない。
が、頭を長剣で貫いた事実は変わりなく、そしてどちらから貫いていても結果は変わらない。
一切の声もあげることなく、プレイヤーの影は消えていった。
『スキル「隠密」のレベルが上がりました』
隠密Ⅵ→Ⅶ
『スキル「奇襲」のレベルが上がりました』
奇襲Ⅵ→Ⅶ
「バレて……無いね」
テントの影から見る限りでは、3人はまだこちらに気付いていない。
しかし、お互い向かい合うように座っている3人に近付けば確実に気付かれるだろう。
テントから3人までは10mもない距離だ。
シアは右手に短剣を、左手に逆手で長剣を持つ。
「すぅ〜……はぁ〜……っ!」
大きく息を整えたシアはそのまま一気に駆ける。
視界ではこちらを見ているプレイヤー2人が見える。
が、見付かるのはわかっていたことだ。
無視していまだ背を見せているプレイヤーの背後、心臓の位置へとすくい上げるように短剣を突き刺す。
「よっ!」
短剣を突き刺したまま背を蹴りつけ、その勢いで短剣を抜く。
1人目の結果には目もくれず、2人が武器を構えきれていないのを確認して真正面から踏み込む。
右足を前に体を左に捻るように回し、踏み込んだ勢いのまま一気に短剣を右へ真横に一閃。
「ふっ!」
すぐさま短剣を逆手に持ち替え、勢い良く横から頭を貫く。
「あぶ!」
頭に刺した短剣を手放し、逆手に持った長剣を使って横から振り下ろされた剣を防ぐ。
「ちっ!」
剣を振り下ろしてきた男プレイヤーは舌打ちをすると、そのまま上から押さえつけるように鍔迫り合う。
しかし、ここはゲームの世界である。
体制の優位は必ずしも状況の優位であるとは限らない。
「ほい!」
押さえつけられているにも関わらず、余裕で逆手持ちのまま鍔迫り合いを拮抗させ、すぐさま腹を蹴り上げる。
下から腹を蹴り上げられた男は少しだけ、しかし確実に地面から足が離れる。
足が地面に付いてない状態で踏ん張りが効くはずもなく、男は空中で前に倒れるように体制を崩す。
「せいっ!」
すぐさま逆手持ちの左手を鞘にみたて、右手で左手から抜刀。
下から上へ、勢い良く剣が走る。
「クソが!」
男の腹を狙った攻撃は素晴らしい反応によって剣で防がれる。
しかし、足が付いていない状態で攻撃を防いだ体は更に浮き、今度は後ろに仰け反るように崩れる。
「終わり!」
長剣を素早く右へ下ろし、今度は両手で握って左上へと斬り上げる。
振るわれた長剣は今度こそ守る術のない男をあっさりと両断する。
「せめてテン」
男が必死に何かを伝えようとしていたが、言い切る前に消えていった。
「はいはい」
『レベルが上がりました』
シアLv24→25
『スキル「弱点攻撃」のレベルが上がりました』
弱点攻撃Ⅴ→Ⅵ
『スキル「踏込」を獲得しました』
踏込Ⅰ
『スキル「武器防御」を獲得しました』
武器防御Ⅰ
・攻撃を防ぐ時、武器を使うことで防ぎやすくなる
消えていった男へ返事をするように呆れて呟くと、短剣を拾って焚き火に腰を下ろす。
「まぁ休憩させてもらおうかな」
1人呟いてシアはアイテム整理やヘルプ確認、掲示板覗きなどをすることにした。
日曜日を区切りとして、一週間以内に1つ以上の投稿を目標にしたいと思います
12/4 三点リーダーの数を修正




