4話
結局、宿に戻ったシアが起きたのは真夜中だ。
「あ〜……寝すぎた」
窓の外を見たシアはそうぼやくと、宿を出る。
夜の森はPKにはうってつけだ。
問題があるとすれば、森に居るプレイヤーが少ないことくらいか。
岩山か、草原の更に奥に進むことも検討しながらシアは夜の森へと入っていく。
─────
6人、それが2時間で背後から暗殺出来た成果だ。
レベルは22から23に上がり、いくつかのスキルも成長している。
少なすぎるプレイヤーに不満を覚え始めた頃、遠くで戦闘音が聞こえてくる。
聞こえてくる音から推測するに、パーティーを組んでいるのは間違いないだろう。
もちろん、シアは音のする方へと近付いていく。
少し歩けばそのパーティーはすぐに見つけることができた。
少し開けた場所で戦っているのは、後方から援護している魔法使い、その魔法職を援護している片手剣持ち、そして前方で戦っている片手剣と盾持ちの計3人パーティーだ。
戦っているのはレッサーモンキーの群れ、見える限りでは6匹だ。
視界が悪い中で戦っていては倒し切る前に仲間を呼ばれて戦闘が長引く。
シアも一度だけ、なかなか終わらないループに陥ったことがあるのだ。
少しだけ同情しつつも、シアはゆっくりと身を低くて木の影から木の影へと移動する。
8mほどまで近付くと、レッサーモンキーの数は残り二匹にまで減っていた。
全部倒されて4人が集まったら面倒だ。
そう考えたシアは、魔法使いの護衛がよそ見をしたタイミングで魔法使い目掛けて長剣を投げると同時に走り出す。
いきなり飛んできた長剣に反応できるはずもなく、体のど真ん中に長剣が突き刺さる。
「はぁ?」
魔法使いのあげた間抜けな声に護衛の剣士が振り向くも、すでにシアは魔法使いに突き刺さった長剣を右に振り抜く。
体を真ん中から横に斬られた魔法使いはそれで即死する。
「なん……PKか!」
素早く状況を読んだ護衛の剣士が大声を出す。
「そうだよっ!」
剣を振り抜いた勢いのまま一回転したシアは剣士へと回し蹴りを放つ。
「ぐっ……」
ガードが間に合わなかった剣士は吹き飛びこそしなかったものの、踏ん張って隙を見せる。
その隙を逃すわけもなく、勢い良く踏み込みながら剣を突き出す。
「えっちょっ……えぇ……」
思いっきり頭を貫かれた男は、まるで理不尽な出来事に出会ったかのようにポツリと漏らすと死亡した。
「てめぇ!」
レッサーモンキーを倒し終えたもう1人の剣士がこちらへと走ってくる。
シアは前を走っている男に向かって横向きに長剣を投げると、そのまま森の中へと入っていく。
「あっぶねぇ!……ちっ、どこいきやがった……」
ギリギリで長剣を回避した男は森へ入ったシアを見失う。
ゆっくりと慎重に、シアが森へと入った場所から男も森に踏み込む。
すぐ手前の木に隠れていたシアに気付くことはないまま、ゆっくりと男はシアの横を通り過ぎる。
男が通り過ぎたのを確認したシアは背後から音を立てないよう近付く。
「おら!隠れてないで出てこいや!」
男が大声で威嚇すると同時、一気に走って背後から短剣を突き刺す。
「あ?」
心臓を貫かれた男は間抜けな声をあげるが、それでも死亡はしない、が。
「ふっ!」
シアが勢い良く回し蹴りを頭に当てたことで男は死亡する。
『レベルが上がりました』
シアLv23→24
『スキル「隠密」のレベルが上がりました』
隠密Ⅴ→Ⅵ
『スキル「奇襲」のレベルが上がりました』
奇襲Ⅴ→Ⅵ
『スキル「蹴り」のレベルが上がりました』
蹴りⅤ→Ⅵ
『スキル「投擲」のレベルが上がりました』
投擲Ⅰ→Ⅲ
「はぁ〜……よわ……」
シアはつまらなさそうに呟くと投げた長剣を回収する。
「……メンテ入るまで落ちよ」
今プレイヤーと戦っても面白くない。
シアは格下相手に無双したいわけではなく、自分と同じかそれ以上の相手を嵌めるのが好きなのだ。
メンテナンスが行われれば少しは改善される、そう期待してシアはマルカ村に戻る。
─────メンテナンス終了後
「さて……」
LOをやらず、一日ほど暇を持て余していたシアはメンテナンスが明けるとすぐにログインする。
早くもLO内と現実の時間差が曖昧になっているシアは、太陽が登り始めているのがメンテナンスの影響なのか、はたまた正しい時間帯なのかは分からない。
『メールが届きました、開封しますか?』
メンテナンスの内容だろう、当然Yesだ。
送主:ラニアケアオンライン運営
題名:メンテナンス内容
内容:本日実施されたメンテナンスで以下の内容が修正されました。
・特定の行動で得られる経験値およびスキル熟練度の低下
・一度の戦闘で得られるスキル熟練度に上限を設ける
・スキルの成長に必要な熟練度の増加
・モンスターを倒すことによって得られる経験値の増加
いきなりの修正のお詫びとして、インベントリ内にいくつかのアイテムを追加させていただいてます。
また、寄せられたご意見に関しましては現在対策を検討中です。
ご意見の多かったものを表記します。
・魔法攻撃が近接攻撃より強すぎる
→魔法攻撃側ではなく、近接攻撃側を何らかの形で上方修正する方針です
・マップが欲しい
→何らかのアイテム、もしくはスキルを追加する方針です
以下は対応済、もしくは既に実装済みのご意見です。
・街や村以外にも安全な場所が欲しい
→それぞれのエリアにはいくつかの特徴的なランドマークがあります。ランドマークに近付くことでイベントが発生し、そのイベントをクリアすることで、クリアしたプレイヤーのみランドマーク付近で敵に襲われなくなります。
・プレイヤーを倒すプレイヤーをどうにかしてほしい
→運営として確認している、現状のプレイヤーの大きな脅威となるPK(Player Kill)プレイヤーは4人です。ですが、PKプレイヤーには通常のプレイでは発生することないいくつかの強制イベントが発生します。運営が管理する掲示板には既に情報があげられていますので、特別にここでそのイベントの1つをご紹介します。
条件:PKされたプレイヤーが特定の役職に就いているNPCに報告をする
内容:冒険者組合からの強制脱退と、参加権利の永久剥奪
影響:パーティーが結成できなくなる、クエストが受けれなくなる、アイテムの売買が不安定になるなど
PKプレイヤーはデメリットを甘受してゲームをプレイしております。運営からはイベント追加以外の何らかの対応をする予定はありません。
以上でメールの内容は終了となります。
メンテナンスの詳細に付いては公式HPをご確認ください。
「修正早いなぁ」
シアは自分の成長が遅くなる修正内容に文句は言わず、お詫びのアイテムを見つけるためインベントリを開く。
「お金少し増えて……る?あとスキルチケット1枚と魔石3つかぁ……詫び石みたいな立ち位置になりそう……」
元からあまり気にしていなかったお金『EL』が増えているのかは分からない。
数が増えた貴重なアイテムの将来を心配する。
シアは村を出ると、森の奥へは行かずに森の入り口へと向かう。
「草原か岩山か……草原は次の街に行く道だろうけど……岩山は?まぁ岩山も森も奥に行けば何かの街はあるんだろうけど……」
ブツブツと独り言を発しながら考えるシア。
やがて行く場所の結論が出たのか、シアは独り言を止めて走り出す。
─────
1時間ほど、シアは森から草原へ、草原からアルヴィーンの街へと止まらず走り続けた。
疾走Ⅲ
・走る速度が上昇する
よく考えるとLO内でそんなに走っていなかったシアはスキルも手に入れた。
シアがアルヴィーンに戻ってきた理由はアイテム関係だ。
マルカ村では素材の売却も出来なければ、武器屋の類も無いのだ。
溜まっていた素材が思っていたより高値で、特にフォレストリーダーとデッドツリーの素材が少し目を疑う値段で売却出来た。
ホクホク顔のシアは装備を求めて街中を歩き回る。
ちなみに、シアの全身の装備はこんな感じだ。
《武器》
鉄の短剣
鉄の長剣
弓
《防具》
頭/装備無し
胴/冒険者の胸当て
腕/装備無し
腰/冒険者の腰巻き
脚/冒険者の下服
靴/冒険者の靴
《アクセサリー》
装備無し
完全に初期装備の状態である。
装備の説明はこうだ。
名前:○○
種類:○○(武器は武器種が、防具は部位が)
効果:○○(当然だが初期装備なので何も無い)
説明:○○(初期装備なので駆け出し云々と)
頭と腕を外しているので、その部位の防御力は一切上がっていない。
頭はともかく、腕は意外とダメージは少なくて済むのが幸いか。
もっとも、装備していれば回復ポーションを節約できた場面も多いのだが。
外している理由は動きの邪魔だから、だったりする。
「何か装備は〜……防具より武器を優先……お?」
街中にはいくつもの道具屋や装備屋があるが、その中の1つにシアの目が止まった。
名前:毒虫の羽刃
種類:短剣
効果:毒Ⅲ
説明:毒虫の素材で作られた短剣。斬り付けた相手を毒状態にするが、毒が非常に弱く頼れるものではない。
「毒……毒かぁ……」
暗殺と言えば毒、シアの中で何かが揺れる。
しかし、考えたのも少しだけだ。
「一撃必殺がいいよね」
そう言ってシアは商品を買わずに、しかし初めて効果付きを置いてあるということでこの店にある他の装備を見て回る。
「ここ高いなぁ……でもチラホラ欲しいのが……」
オンラインゲームでよくある「欲しい装備が多いけど金が無い」状態のシア。
結局、太陽が真上に来るまで悩み続けたシアの装備はこうだ。
《装備》
《武器》
薄羽の短剣
・弱点攻撃Ⅲ
薄羽の長剣
・弱点攻撃Ⅲ
弓
《防具》
頭/装備無し
胴/石蜥蜴の胸当て
・気合いⅡ
腕/砂蜥蜴の革巻き
・連撃Ⅰ
腰/砂蜥蜴の腰巻き
・自然治癒Ⅰ
脚/砂蜥蜴の下服
・自然治癒Ⅰ
靴/砂蜥蜴の靴
・踏込Ⅱ
《アクセサリー》
装備無し
名前:薄羽の短剣
種類:短剣
効果:弱点攻撃Ⅲ
説明:刃羽虫の翅を素材にして作られた短剣。薄い刃は狙った急所を確実に斬る。
薄羽の武器シリーズには弱点攻撃にボーナスが付いている。
長剣も同じような説明だ。
少し調べてみると、どうやら草原の奥で出て来るらしい。
名前:石蜥蜴の胸当て
種類:胴防具
効果:気合いⅡ
説明:石蜥蜴の皮を素材にして作られた胴防具。動きやすいが防御力が低い。
名前:砂蜥蜴の革巻き
種類:腕防具
効果:連撃
説明:砂蜥蜴の皮を素材にして作られた腕防具。非常に軽く、動きを阻害しない。
石蜥蜴も砂蜥蜴も、どちらも皮装備だ。
防御力を表すものは表記されていないので、初期装備からどれだけ固くなったのかは分からない。
プレイスタイルの関係上、固さより動きやすさ重視なので気にはしていないのだが。
連撃Ⅰ
・攻撃を連続で出すことで、少しずつ威力が上がっていく
自然治癒Ⅰ
・体力が自然に回復する
踏込Ⅱ
・一瞬の移動速度が上昇する
シアの知らないスキルの効果はこのとおりだ。
装備がかなり充実したものになったが、インベントリの中身も所持金もかなり寂しいことになっている。
宿代すら払えない、ギリギリの買い物だったのだ。
シア本人は満足そうにしているのだが。
シア 24Lv【荒くれ者】効果無し
《上位スキル》
長剣術改Ⅰ
《スキル》
回避Ⅹ
気合いⅨ(+Ⅱ)
短剣術Ⅸ←UP
反撃Ⅸ
弱点攻撃Ⅷ(+Ⅲ)
集中Ⅵ
隠密Ⅵ←UP
奇襲Ⅵ←UP
蹴りⅥ←UP
消音Ⅴ←UP
跳躍Ⅴ
背面攻撃Ⅴ←UP
暗視Ⅳ
投擲Ⅲ←UP
登攀Ⅲ
踏込Ⅱ(+Ⅱ)
弓術Ⅱ
遠視Ⅰ
自然治癒Ⅰ(+Ⅰ)
連撃Ⅰ(+Ⅰ)
《武器》
薄羽の短剣
薄羽の長剣
弓
《防具》
頭/装備無し
胴/石蜥蜴の胸当て
腕/砂蜥蜴の革巻き
腰/砂蜥蜴の腰巻き
脚/砂蜥蜴の下服
靴/砂蜥蜴の靴
《アクセサリー》
装備無し
ステータスの表示はこうだ。
どうやら装備のスキルは重複しないらしい。
装備を外せば、その分だけ元に戻る。
新スキルは消えるので、獲得はしていないようだ。
シアは店を出、街を出ると北の岩山へ向かう。
もう少しで本格的にPK活動が始まります。
スキル『遠視』が一覧に書いてなかったので、前全ての話を加筆修正。
1話の装備表示に防具を加筆修正。




