2話
「さて、と……猿に気を付ければいいんだね」
時間は19時くらいだろうか、暗くなりかけている頃に森の前に到着したシアは奥へと続いている砂利道から外れて木々の隙間を歩いていく。
草原では左腰に短刀、右腰に長剣を挿し、背に弓を背負っていたのだが、今は背の弓をインベントリにしまって長剣を背負っている。
ゆっくりと、なるべく物音を立てないように、しかしそこまで神経質にはならないくらいに歩き続ける。
30分くらい経った頃だろうか。
『スキル「消音」を獲得しました』
消音Ⅰ
・行動で発生する音を抑える、小声ではっきりと音を出せる
シアは試しに落ちている枝を踏んでみると、確かに気持ち程度に小さくなっているような気がしなくもない。
「低レベルだしまぁ……」
小声で呟くと、こちらも何となくはっきりと喋れたような気がする。
微妙な顔をしつつも、あると重宝しそうなスキルではあるので気にしないことにする。
それからさらに10分ほど、消音のレベルがⅡになって少ししたところでそれは現れた。
「キキッ?」
木の上から聞こえた声にシアはゆっくりと上を向く。
60cmくらいの小さな茶色の猿が三匹、5mほど上からこちらを見下ろしている。
弓が無いのを悔やむと同時、猿が一際大きな声をあげる。
するとどこからか同じ声が聞こえ、すぐに周りの木に三匹追加でやってきた。
「あ〜、これ降りてきてくれるのかな……」
動きやすいよう、長剣ではなく短剣を抜きながらシアはぼやく。
「キッ!!」
一匹の猿がシアめがけて木から飛びかかってくる。
それを危なげなく避けると、猿はすぐに近くの木へとスルスル登っていく。
「キッ!!」「キッ!!」
六匹とも飛びかかりだけで、他の攻撃を一切してこない。
それをヒョイヒョイと避けていると、二匹が同じ場所に着地し、お互いにバランスを崩し重なって転倒する。
「よ!っと……ほい!」
他の猿の飛びかかりを避けながら、シアは転倒している猿めがけて思いっきり足を振り抜く。
上にいた猿は避けたものの、下にいた猿は顔面に直撃、そのまま青く輝き消えていく。
同じことが更に二回、猿の残りが始めと同じ三匹になると猿は逃げ出した。
あれからもう一度同じことがあったので、シアは転倒は必然で起こるのだと理解したのだ。
『スキル「蹴り」を獲得しました』
蹴りⅠ
・脚の攻撃を強化する
『スキル「回避」のレベルが上がりました』
回避Ⅲ→Ⅳ
「大収穫〜」
シアは満足そうに頷きながら、猿を倒した場所に落ちてある青い結晶を拾う。
ドロップアイテムやお金はこの結晶の中に入っているのだ。
先程の猿は『レッサーモンキー(素材名・森猿)』と言うらしい。
毛皮や肉、牙をインベントリに仕舞うとシアはまた木々の間を歩き出す。
少し歩いて、ふとシアは乱立している木を見上げる。
別に何かを見つけたわけではないが、ちょっとしたことを思いついたのだ。
周りにレッサーモンキーがいないのを確認すると、重い長剣をインベントリにしまってシアは木を登り始める。
と言っても、低い枝の位置でも3mはあるので、幹にしがみついてよじ登る形だ。
乙女にあるまじき姿を晒しつつも、懸命に登っては落ち、登っては落ちを繰り返すこと8回。
『スキル「登攀」を獲得しました』
登攀Ⅰ
・壁や木などを登りやすくなる
「木登りじゃなくて、登攀なんだ」
完全に狙い通りとはいかなかったが、予想より良いスキルを手に入れたシアはまた木登りを再開する。
木登り程度ならスキルレベルがⅠで良いのか、先程までは登れなかったのに今度は簡単に枝まで到達した。
「お〜、登れた登れた」
シアは近くの木へと飛び移りながら、ピョンピョンと木の上を移動していく。
移動中に落ちてはダメージをくらいながらも、やはり懲りずに木に登りまた移動を再開する。
『スキル「跳躍」を獲得しました』
跳躍Ⅰ
・ジャンプ距離が伸びる
「あ〜、なるほど。確かにありそう」
こちらは狙ってたわけではなく、純粋に遊んでいた結果なのだが、こちらも有用なスキルなのでありがたい。
しばらく、あっちにピョンピョンこっちにピョンピョンと適当に飛び回り、落ちては登りを繰り返していると、少し前にも聞いた声が耳を打つ。
「キッ?」
進む方向から二匹のレッサーモンキーがこちらを見ている。
今度は地面に降りて、落ちていた木の実を拾っていたようだ。
シアは止まることなく、そのままレッサーモンキーに向かって飛びかかる。
丁度先程の戦いとは逆の立場だ。
野生の動物なら難なく回避するのだろうが、ここはゲームだ。
反応が遅れた二匹のレッサーモンキーは、飛び降りてきたシアの踏み付けを顔面にまともにくらい即死する。
少し前の戦いでもそうだったのだが、どうやらレッサーモンキーの体力はそこまで多いものではないようだ。
むろん、シアのレベルが適性よりある程度高いことや、蹴りスキル、弱点攻撃スキルが作用しているのも大いにあるのだろうが。
『スキル「跳躍」のレベルが上がりました』
跳躍Ⅰ→Ⅱ
『スキル「蹴り」のレベルが上がりました』
蹴りⅠ→Ⅱ
手に入れたばかりのスキルはすぐにレベルが上がってくれるのも嬉しい。
アイテム結晶を拾ったシアは木に登る。
『スキル「登攀」のレベルが上がりました』
登攀Ⅰ→Ⅱ
森の中は草原よりエンカウントが少ないのか、たまにレッサーモンキーが出てくるだけであまり戦闘は多くない。
そんなことを思いながらシアは森の中の探索を続けていく。
適当に動き回っているので、今どこにいるのかもイマイチ把握出来ていないのだが。
実は森は草原と同じく、力量差の大きいプレイヤーにはエンカウントしない敵が多いのだ。
辺りが暗くなり始めており、時間的には夜のモンスターが湧く時間なので普通の闊歩しているモンスターも巣穴に戻っている(と言う設定でポップしなくなっている)。
木の葉に隠れている『ホーク(素材名・大鷹)』や地面に潜っている『フォレストワーム(素材名・森虫)』など、奇襲をするモンスターなので姿も見えない。
あちこち方向を変えるのを止め、真っ直ぐ進んでいるとそこそこ大きい村を見つけた。
建物はしっかりとした木造で、隙間の小さいしっかりとした壁と言っても良い柵で囲われている。
特に疑問に思うこともなく、シアは木の上から柵を飛び越えて村に入る。
「あ〜……やっと休めそうなとこ見つけた」
森に入って約3時間、完全に夜となった森から抜け出したシアは一息つける場所を探して村を徘徊する。
現在のシアのステータスはこれだ。
シア 16Lv【荒くれ者】効果無し
《スキル》
短剣術Ⅵ
隠密Ⅳ←UP
回避Ⅳ←UP
奇襲Ⅳ
跳躍Ⅳ←New
背面攻撃Ⅳ
蹴りⅢ←New
弱点攻撃Ⅲ←UP
弓術Ⅱ
消音Ⅱ←New
長剣術Ⅱ
登攀Ⅱ←New
暗視Ⅰ←New
遠視Ⅰ←New
・暗闇でもはっきり見える
ステータスを見ると、前回からの変化が端的に示されている。
分かりやすいのだが、もう一歩詳しく書いてもいいのでないだろうか。
などと思っていると、村の中央付近で宿屋を見付ける。
三階建てで、横も他の建物より広くなっている。
外には人はほとんどいないが、宿屋の受付やその周りにはプレイヤーがちらほらといることから、シアが一番乗りというわけではないようだ。
1泊300el、灰狼1匹で約100el、森猿は1匹約150elの群れなので、簡単に払うことができた。
2階奥の部屋に入ったシアはインベントリにある素材を整理すると、窓から外を見る。
暗視のレベル上げだ。
『スキル「暗視」のレベルが上がりました』
暗視Ⅰ→Ⅱ
『スキル「暗視」のレベルが上がりました』
暗視Ⅱ→Ⅲ
ログアウトしようにも、まだ現実では昼前程度だろう。
ちょっとした時間感覚のズレを気にしながらも、充分夜の闇も見えるようになったシアはそのまま宿1階で下級HPポーションを補充し、村を出て森へと入っていく。
─────30分後
「いた……」
木の上から見下ろすシアの前には二人のプレイヤーがフォレストワームと戦っている。
暗視スキルを持っていないのか、それともスキルやプレイヤーのレベルが低いのか、フォレストワームが地面に潜るとすぐに見失っているようだ。
しばらく様子を見ていたシアだが、他のプレイヤーが近くにいないのを確認すると木の上から飛び降りる。
落ち葉のない柔らかな土の地面と、消音スキルの効果によって着地の音は小さくなり、まだ少し距離のある二人は気付いていない。
ゆっくりと、物音を立てずに近付き、5mほど手前の木に隠れる。
シアが近付いた頃にはフォレストワームは倒され、二人はドロップ品を確認していた。
後ろを向いている今がチャンスかと思ったが、二人は確認を終えたのかこちらへと歩いてくる。
「夜の森って結構暗いな、見えねぇよ」
「暗視もいまいち役に立ってないしな…レベルが上がれば違うんだろうけど」
木の影に息を潜めて隠れるシアの横を、男二人は喋り合いながら通る。
「ふっ!!」
丁度横を通るタイミングで、シアは短く息を吐きながら両手で長剣を振り上げる。
狙うは首、跳ね上がるように振るわれた長剣はそのまま男の首を切り抜く。
首が落ちる……なんてことは無いが、剣の通った後には赤いラインが付いている。
本来なら切断されている面ということだろう。
「はっ?」
どちらの声か、その声が消える前に斬られた男は消えていく。
「つぎ!」
相方がいきなり死亡したことに驚いたのか、棒立ちでこちらを見ている男に向かって踏み込みながら切り下ろす。
左肩から右腰までバッサリと斬られた男は、赤いラインの光と死ぬ際の青い光を残しながら仲間と同じ運命をたどる。
『レベルが上がりました』
『スキル「長剣」のレベルが上がりました』
長剣Ⅱ→Ⅲ
『スキル「隠密」のレベルが上がりました』
隠密Ⅳ→Ⅴ
『スキル「気合い」を獲得しました』
気合いⅠ
・行動前に特定の行動を起こすことで、直後の行動を強化する
レベルは17に、スキルも成長し新しいスキルも手に入った。
剣を振る前の息や声がトリガーの1つだろう。
シアは木に登ると、またプレイヤーを探して移動する。
─────
「ふぅ……こんなもんでいいかな」
夜通しでPKを続けていたシアは、明るくなり始めた空を見上げながら呟く。
シアが今居る場所は適当に登った木の天辺だ。
上を遮るものは無く、逆に地面を見下そうにも木々が邪魔して上手く見通せない。
村の場所が分からなくなったシアはこうして上から見ようとしているのだ。
あれから倒したプレイヤーの数は19人。
木の上から強襲したり、背後から暗殺したりと、まともに正面から戦ったのは一度もない。
ハイド&キルが好きなシアは、これからもこの方法でPKを続けていくだろう。
シアのステータスは現在、適性より大きく逸脱しているのだが、これはプレイヤーから得られる経験値がかなり多い影響だ。
モニタリングされているようだし、近いうちに修正が入るだろう。
バグでも不正行為でもないので、稼げるだけ稼いでおくつもりだ。
シア 21Lv【荒くれ者】効果無し
《スキル》
短剣術Ⅶ←UP
隠密Ⅴ←UP
奇襲Ⅴ←UP
弱点攻撃Ⅴ←UP
跳躍Ⅴ←UP
暗視Ⅳ←UP
回避Ⅳ
蹴りⅣ←UP
消音Ⅳ←UP
長剣術Ⅳ←UP
背面攻撃Ⅳ
登攀Ⅲ←UP
気合いⅡ←New
弓術Ⅱ
遠視Ⅰ
スキルはともかく、明らかにレベルは高いだろう。
レッサーモンキーはもちろん、わざわざ自分から攻撃しに行ったフォレストワーム、ホークの三匹は弱点を攻撃せずとも即死するのだ。
草原に出てくるホーンラビットも即死するだろうし、実は体力が少し多いグレーウルフだって変わらないだろう。
楽なのは構わないので別にいいのだが。
森の中に穴が空いている……つまり木が生えていない場所に建物の屋根が見えたのを確認すると、そちらへと向かう。
多少離れてはいるが、そこまで時間はかからないだろう。
いまだに襲ってくるレッサーモンキーを文字通り蹴散らしながらシアは進んでいく。
─────
20分ほどで目的の場所に到着した。
途中でプレイヤーもいたが、無視して移動を優先した結果、思ったより早く到着したのだ。
予想通り村戻ってこれたシアは宿を取り、今度は三階の部屋に入る。
こちらで1日経ったということは、現実では6時間経過しているということだ。
午前8時にサービス開始なので、だいたい14時くらいだろう。
軽い休憩と食事を取るためにログアウトする。
余談だが、シアはとある事情から今後一生生活に困らないお金を持っている。
ゲーム大好きな彼女の道は、廃人一直線だ。
過度な課金はしないが、必要なら行うし、仕事もせずゲームを遊び続けるだろう。
名誉のためにも、親のスネかじりでないことだけは明記しておこう。




