8話
「キュイ〜」
「よしよし偉い偉い」
岩山を降りている途中、モンスターを倒してドロップしたアイテム結晶をレイルが咥えて持ってくる。
どうやらレイルは全く攻撃をしないようだ。
モンスターが近くにいても何も反応せず、何か援護をするわけでもない。
が、軽いアイテムの類は器用に脚で掴んだり、口に咥えて持ってきてくれる。
短剣程度なら持ってきてくれるようだが、長剣は重すぎたらしく一度取りに行って失敗したきり取りに行かなくなった。
薄羽の長剣はかなり軽い武器なので、それが無理だということは他の武器も殆どが持てないだろう。
戦闘中、と言ってもロックリザード相手では剣を突き刺すだけなのだが、レイルは肩や頭に乗ったままだ。
シアが走ったり素早く動こうとすると体から飛び降りて飛行しながら着いてくる。
意外と速く器用に飛べるようで、ピッタリ付かず離れずの距離を追ってくるし、急に曲がっても難なく追随する。
総合的な評価としては、まさに愛玩用の犬だ。
仕草は猫なのだが。
もっとも、シアとしてはそれで構わないと思っているのだが。
「よしよし」
「キュ〜」
右肩に乗ったレイルを撫でてやれば、シアの右頬に自身の顔を擦り付ける。
シアとレイルはのんびりと岩山を下りていく。
─────
「そ、そこの君!」
のんびり歩きすぎて日が傾いてくるころ、ようやく草原の西へと伸びる道に入ったシアに男から声が掛けられる。
「だいたい分かるけど何?」
このタイミングで声をかけられるなど、レイルの事くらいしか思い浮かばないシアは面倒臭そうに返事をする。
「そのドラゴン!掲示板ではモンスターを倒せば低確率でテイム出来るって書いてたから多分テイムしたんだろうけどどこに居たか教えてくれないか?」
よほど興奮しているのか、早口で一気に喋るお陰で聞き取りづらい。
が、何を言っているか理解は出来る。
「秘密で」
「そこを何とか!」
すぐさま一蹴するも、男もすぐに返してくる。
「嫌だ」
「お願いだ!」
「教えない」
「頼む!」
「しつこい!」
「あっ、ちょ!」
いくら断っても諦めない男を片手で押しのけ、シアは足を早める。
しかし、男はなおも追って来てシアの前に立ち塞がる。
「教えてくれたらすぐ消えるから!」
「キュ〜……」
しつこい男にレイルが不安そうに鳴くと、男がレイルに視線を向ける。
それに驚いたのか、小さく体を震わせるとまるでホログラムが消えるかの様に姿を消してしまう。
シアは肩にかかる重さが消えていないどころか、男の視線から外れようと器用に右肩から左肩に移動しているのが分かる。
初めて見るレイルの特殊能力らしい能力に内心で驚きながら、それを表情には出さずに男を睨む。
「レイルを驚かさないでくれる?」
「消えた……あ、あぁ、すまない」
消えたレイルが居た場所、もうすでにそこにはいない右肩を見て呆然と呟いていた男はシアの声にすぐさま謝る。
「はぁ……とにかく、教える気は無いから」
「なんでだ?」
「メリットが無いから」
「情報の共有と言うメリットがあるだろ」
「それは貴方、と言うより私以外の人にでしょ。私にとっては私だけが知る情報が、私だけのものじゃなくなるっていうデメリットでしかない」
「確かにそうだが……だが、普通はオンラインゲームの情報は皆で共有するものだろう」
「あ〜、もうめんどい!死ね!」
「え?」
あまりにもしつこい男に殺意が湧いたシアは、左腰に挿してある長剣を抜刀。
男との距離が近過ぎて斬れないと判断し、抜刀しながら肘を腹へ打ち込み強制的に距離を作る。
男が呻きをあげるより早く、そのまま右上へ斬り上げる。
男は即死なのだが、シアは攻撃を止めない。
即死攻撃を受けても、攻撃を受けて続けている間はプレイヤーが消えないのは今までのPKで理解している。
そのまま水平に左へ振って頭を輪切りに、左上から右下へ斜めに斬り下ろし、そのまま体を一回転させ上下半身になるよう左から右へ両断。
右へ左へ上へ下へ、途中からは滅茶苦茶な振り方になりながらも男が消えないよう……消えてしまわないよう素早く斬り続ける。
赤いダメージ痕の線で男が真っ赤になるまで、数分間ひたすら斬って斬って斬り続ける。
「飽きた」
シアは一言呟くと、剣を振る腕を止めた。
無抵抗のまま斬られ続けるしかなかった男はその役目を終え、真っ赤な体を青く光らせながら消えていった。
『スキル「連撃」を獲得しました』
連撃Ⅱ
「キュイ?」
攻撃の始めにはすでに体から離れていたレイルが地面に現れ、消えていく男に首を傾げながら不思議そうに鳴く。
どうやら透明状態は解除したようだ。
「さて、行こうか」
「キュイ」
シアがレイルに声を掛ければ、何事もなかったかのように肩へ飛び乗ってくる。
少し離れた場所から何人ものプレイヤーがシアへと視線を投げているが、気にせず歩みを再開する。
男はかなり大きい声で懇願していたので、周囲のプレイヤー達は何があったのか理解しているだろう。
この場でレイルの事を尚も聞き出そうとするプレイヤーは居ない。
シアは足を止められる事なく草原の奥へと歩くことが出来る。
─────
「秘密」
「そうか……」
先程の男とは別の男が声をかけて来たが、すぐに諦めてくれた。
滅多斬りをした場所から奥へ進むにつれ、やはり結構な数の声がかけられている。
もっとも、それは予想できていた事であるし、あれからはしつこいプレイヤーとも出会っていない。
教える気が無いと知れば残念そうに去っていくか、不機嫌そうにしながらも素直に下がるプレイヤーばかりだ。
しばらくすれば周りのプレイヤーも、シアが教えるつもりがないと完全に知れ渡ったのか、物珍しそうな視線こそ投げかけるものの聞きに来ることは無くなった。
進めば聞かれ、少しすれば聞かれなくなり、更に進めばまた聞かれを繰り返し、日が完全に落ちきる直前にシアはいくつかの建物を見付ける。
草原を伸びる道に面して建てられており、左側は3軒、右側は4軒だ。
建物の後ろにも小さな建物が建っており、それらを囲んで柵が設置されている。
つまるところ、柵以外は特に周辺の地形を整備することもなく建物が道横に置かれているのだ。
道の上には柵は伸びておらず、門の類も付いていない。
この中に入らずとも、柵の外側を迂回して草原の奥に行くことも大した手間ではない。
村、というよりは簡単に作った休憩所の様な所なのだろう。
左3軒はアイテムを販売しているようで、右4軒は全て宿屋だ。
「中間地点みたいな場所かな」
柵の中に入ったシアは左のアイテム屋で店番をしているのが、全てアルヴィーンの街にいた兵士と同じ装備のNPCだと気付く。
「ふんふん、やっぱり中間地点でよさそう」
アルヴィーンからの距離も、歩いていれば丁度空が暗くなるくらいの距離だ。
次の街へ行く途中の休める場所、そう考えて良さそうだ。
「んじゃ、適当な宿……透明になれる?」
「キュ」
シアは面倒を避ける為にレイルに尋ねてみるが、レイルは首を横にふる。
「クールタイムか回数制限か……無理ならいいか」
あっさり諦めたシアはそのまま手前の宿へ入っていく。
─────
「はぁ……疲れた……」
空いていない事も考えていたが、普通に空いていたので無事部屋を確保することが出来た。
レイルの事を聞かれ続けて精神的に疲れたシアは、ベッドに腰掛ける。
いかにも安物の固いベッドは沈むまいと反抗する。
「さて……」
シアが取り出したのは短剣だ。
それを握ると、おもむろに自分の左手へと突き立てる。
「お、ダメージある」
シアは視界左上のHPバーが減ったのを確認すると、突き立てた短剣を引き抜き腰に戻す。
よっぽど特殊な仕様……自分の攻撃だけ無効化にならない、などといったことでない限り、この中間地点ではダメージは発生するようだ。
ランドマークでも発生したので、LOには一度街から出れば安全な場所は無いのかもしれない。
試していないだけで、もしかするとアルヴィーンの街中でもダメージが発生する可能性だってある。
もっとも、今のところは流石に街中でまでPKをするつもりはシアには無いのだが。
「キュ〜……」
短剣を刺した左手の甲を心配そうに見つめるレイル。
シアはその左手でレイルを撫でると、ベッドから立ち上がった。
「んじゃ、暗くなったし始めますか〜。あ、レイルは留守番ね?」
「キュイ!」
物分りの良い竜だ。
一つ鳴くと、大人しくシアの側を離れる。
シアはそれを見ると、そのまま部屋を出て行く。
扉ではなく、窓からであるが。
シアが借りた部屋は2階の一番手前、道とは反対方向に窓が付いている部屋だ。
窓からレイルが静かに頭だけ出して見ている。
窓から出たシアは裏庭に誰も居ないのを確認すると、そのまま壁の出っ張りに貼り付いて隣の部屋の窓際へと移動する。
明かりの付いていない部屋ではあるが、慎重に窓を覗けば暗闇の中でベッドに体を横たえるプレイヤーが1人。
他にプレイヤーが居ないことを確認すると、音が立たないよう慎重に窓を開ける。
シアの部屋と作りが同じであるなら、扉に鍵は付いていても窓には付いていない。
横移動式の窓は抵抗もなく開き、シアの侵入を許す。
「さようなら〜」
小声で呟きながら、短剣を心臓に突き立てる。
寝ている男は最後まで目を覚ますことなく消えていった。
『スキル「隠密」のレベルが上がりました』
隠密Ⅶ→Ⅷ
『スキル「消音」のレベルが上がりました』
消音Ⅴ→Ⅵ
『スキル「弱点攻撃」のレベルが上がりました』
弱点攻撃Ⅵ→Ⅶ
「結構上がった……これ、どこで復活するんだろ」
まさかこの部屋で復活するかも、などと淡い期待を抱いて少し待ってみるが、男は復活してこない。
「ま、そりゃそうだよね。アルヴィーンかな」
シアはそう言うと、部屋を出ていこうとする。
が、何かに気付いたように立ち止まる。
「これ、この部屋の鍵どうなるんだろ……」
現実世界のように、鍵穴に鍵を差し込み、中のストッパーが全て外れた状態で撚ると鍵がかかる、などといった鍵ではなく、扉の内側に付いている短い鎖を壁にかけるだけだ。
つまり、外側からは外せない……わけではないが、外すのが困難なのだ。
「……開けといてあげよ」
窓にかけていた足を降ろし、扉の鍵を外すと今度こそ窓から出ていった。
2階の部屋は片側に4つずつ、両側合わせて8つだ。
シアの部屋と先程の部屋を除けば、見にいけるのは残り2つ。
道側に面している部屋まで見るつもりは無い。
「……居ない」
3つ目の部屋は完全な無人だ。
最後の1つ、一番奥の部屋を見れば、窓から光が溢れている。
人が居て、かつ起きているという事だ。
シアは迷ったが、すぐに窓際へと近付く。
「……2人」
部屋の中には男と女のプレイヤーが座って何かを離している。
窓から覗き込んでいるシアに気付く様子は無い。
「ん〜……どうしよ」
顔を引っ込めると、シアは再び悩む。
殺るか殺らないかではなく、どうやって殺るか、に。
が、考えている途中で窓が開く。
驚いて横を見てみれば、同じく驚いた顔でこちらを見ている男の顔がある。
「……君誰?」
「っ!」
声をかけられたことですぐに頭が復活し、男の胸ぐらを掴むと勢い良く引っ張る。
引っ張られた男は当然、窓から身を乗り出すように出てくる。
「うわわ!ちょ!」
そのまま男を裏庭へと叩きつけるように投げ落としたシアは、すぐさま屋根上へ登る。
「ちょっと!何やってるのよ!」
慌てて女が窓から顔を出し、下に落ちた男を心配するように覗き込む。
「いや女の子が……アレ?」
男は先程までシアが居た位置を指差すが、すでにシアはそこには居ない。
「女の子?そんなのど」
女は最後まで言葉を発することは無かった。
屋根から飛び降りたシアが長剣を頭に刺したからだ。
「どうしたんだ?」
下に落ちた男が女を見上げれば、しかしそこに映るのは女ではなくシアだ。
シアは短剣を構え、男めがけて降ってくる。
「危な!」
間一髪、男は壁に向かって転がる様に移動することでシアをかわす。
奥に逃げるように動けばシアは壁を蹴るなりして追いかけれただろうが、手前に逃げるように動かれればそれを落下中に追いかけることは出来ない。
「ちっ!あ……」
難なく着地したシアが悔しそうに舌打ちをし、男を振り向くと丁度落ちてくる長剣が目に入った。
刺さった女が消えたことで、落ちてきたのだろう。
「ん?」
シアの目線が自分ではなく上を向いているのに気付いたのか、男は上を見上げる。
「え?」
男はそれだけ言うと、上を向いた顔面に剣が刺さって即死する。
『レベルが上がりました』
シアLv25→26
『スキル「着地」を獲得しました』
着地Ⅰ
・高所から飛び降りた時、着地しやすくなる。
「ふふ」
間抜けな死に方に笑いが溢れるのは仕方がないだろう。
シアは笑いを堪えながら裏庭を出て、宿の入り口から部屋に戻っていった。
ちなみに、部屋の前に来たシアは鍵を外していないことに気付く。
窓に登って入ろうかと思ったところで、レイルが鍵を外してくれたのだが。
「偉い〜!」
「キュイ〜」
ひとしきりレイルを撫でた後、シアはベッドに寝転がる。
レイルはシアの顔の横で丸くなり、シアとレイルはそのまま寝に付く。




