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暗殺少女のPK活動記  作者: 星粒遠
11/15

7話

「ん〜……ふぁ……」


 傾いた太陽が顔を照らし、その明かりでシアは目覚める。

 寝る前と変わらず大岩にもたれているということは、何にも襲われていないということだ。

 ついでにこの大蜥蜴も動いていない、ということでもあるのだが、それはあまり関係のないことだ。

 小さく伸びをして、大きく欠伸をしたシアは真上を過ぎた太陽を見る。


「あ〜……ご飯食べなきゃ」


 メンテナンスの終了前に食べたのが最後で、LO内で30時間ほど経過しているということは、8時間ほど経過しているといことだろう。

 そんな計算などしなくても、空腹感のみ現実のそれをリンクするようVR機体の設定をいじっているので、空腹感を感じればログアウトすればいいのだが。

 小さくない空腹感を感じるシアはログアウトする。



 ─────



「さて……何しようかな」


 すぐにログインしたシアは同じ場所、大岩の蜥蜴が居る場所にログイン出来た。

 どうやらフィールドでログアウトした場合、その場でログイン出来るようだ。


「というか、これはなんなんだろ?」


 大岩に擬態している蜥蜴だが、軽く叩いても全く反応しない。

 大きさから推測する限りではかなり強いのだろうから、攻撃されないのはありがたいことではあるのだが。


「草原の先、行ってみようかな」


 岩山の先に進んでもいいのだが、やはり別のエリアも気になる。

 新しい街があるとすれば、一番近そうなのは草原の先なのだ。

 そうと決まれば行動は早い。


「よしっ、んじゃぁ……っと?」

『メールが届きました、開封しますか?』

「運営メールかな」


 Yesを選択する。


 送主:ラニアケアオンライン運営

 題名:重要なお知らせ

 内容:第二の街『イナーシャ』にプレイヤーが到達しました。これより、ラニアケアオンライン全体のメインストーリーとなる大規模イベントが開始されます。詳しくは公式HPをご確認ください。


「うわネタバレ、まぁいいけど。グランドクエストだよね、どれどれ……」


 公式HPには新しく、メインストーリーというページが追加されていた。

 そこに書かれていることをまとめるとこういうことだ。

 ・新しい街にプレイヤーが到達するたび、メインストーリーが更新されていく。

 ・メインストーリーは街に到達しない限り、一定の段階までしか進行しない。

 ・メインストーリーが開放されている段階まで終わるより先に新しい街に辿り着いた場合、現在の段階が終わり次第自動で次の段階が開始される。

 ・メインストーリーが進行しないからといってゲームプレイに支障が出ることは無い。

 ・メインストーリーは一定のことしか起こらない通常のクエストとは違い、プレイヤーによっては他のプレイヤーとは全く違うイベントが発生する場合もある。

 ・それによって、一部のプレイヤーは他のプレイヤーとは違ったストーリー展開になる可能性もある。


「開始されたのは『第一章・魔人襲来』、と」


 公式HPを読み終わったシアは大きく息を吐く。


「はぁ〜……私は対象に入ってる……よねぇ」


 溜め息を付いたシアの見ている方向は空、そこに見えるのは黒い人型の影だ。

 ただの人で無いのは翼が生えていることからも明白だろう。

 その影はだんだんと大きく、つまりシアに近付いてきている。


「人間を殺しまくってるから仲間になってくれ、とかだったら笑う」


 そう言っている間にも影はどんどん近付いてきている。

 やがて影ではなく、はっきりと姿が見えるようになる距離まで来ると地面に降り立った。

 翼は折りたたまれるのではなく、フッと消えてしまった。

 姿は肌が黒いだけの人間だ。

 モンスターのような禍々しい見た目ではない。


「正面からの戦闘だけは勘弁」


 それだけ呟くと、シアから魔人と思われる相手へと近付いていく。


「お前はどちらの味方だ?」


 お互いの距離が2m程度まで近付いたところで、低くくぐもった男の声で問いかけられる。

 もちろん、シアの目の前に居る魔人(仮定)が、だ。


「その前に聞きたいけど、貴方は魔人?」


 人によっては威圧感を感じるであろう声音に、しかしシアは臆することなく逆に問い返す。

 問われた魔人(仮定)は小さく頷くと、少しだけ笑みを浮かべて返す。


「そうだ。私は貴様ら人間が魔人と呼ぶ種族の1人である」


 この状況でそれ以外の返答が返ってくるわけもないのだが、予想通りの返答が返って来たシアは更に問いかける。


「私が人間の味方だったら?」

「殺すまで。貴様らは殺しても死なぬ。不可思議な力で護られているが、死なぬのなら死ぬまで殺すまでよ」


 即答だった。

 後ろの、聞き様によっては意味の分からない言葉はプレイヤーの特権、リスポーン機能のことだろう。


「なら、魔人の味方だったら?」

「我らと共に、人間と戦ってもらおう。戦いに必要な力を対価としてくれてやる」


 こちらも即答だ。

 恐らくは強力なスキルが貰えるのだろう。

 ゲームのことを考えれば、ここでしか手に入らない限定スキルということは考えにくいが、入手困難なスキルである可能性は極めて高い。


「どっちの味方でもなければ?」

「変わらぬ、殺すまでよ」


 やはり即答である。

 このルートも何らかのイベントに派生するのだろう。

 メインストーリーを引っ掻き回すにはこのルートが最適か、小さく浮かんだその考えはすぐに消え去ることになる。


「どちらの味方でもない、ということはどちらの敵にもなる、ということ。ならば、お前がそれを選ぶことで得られる対価は何も無い。賢い考えではあるまい?」


 なるほど、何も得られるものはない、ということは何らかのイベント報酬がある確率は限りなく低い、ということか。

 ならばとシアははっきり答える。


「魔人の味方だね。全面的に、ではないけど、人間と魔人のどっちを敵に回すかだと、私は人間を敵に回すよ」


 ここまでハッキリという必要はあるのか、と思うかもしれないが、一昔前のプログラミング技術ならともかく、今の技術では必要な可能性が高い。

 このイベントはあくまでもゲームのイベントとして一定の道筋を辿るだろうが、あらゆるパターンに分岐する可能性もあるのだ。

 もしそういったイベントの場合、イベントの主導権を持つのは運営ではなくプレイヤーと超高度に発展したIA同士の展開だ。

 つまり、このイベントは特定のルートが存在しない可能性もある。

 ゲームのプレイヤーのリスポーンという仕様上、プレイヤー側が勝つ可能性が極めて高いだけであって、魔人側の勝利が無いわけではないのだ。


「そうか」


 そう言うと魔人は眼を閉じて黙ってしまう。

 そう長い時間では無い、2,3分程度で眼を開くと、魔人はハッキリと言う。


「対価を今渡そう、それならどうか?」

「何をくれるの?」


 今度はシアが即答する番だ。


「強力な力……私が授けなくとも、力を付けていけばいずれは手に入るやもしれんがな」

「力以外だと、何がある?」


 その質問は意外だったのか、魔人は少し驚いた表情をする。

 そしてシアはこの質問の答えによって、このイベントが一定のルートしかないかどうかを見極めることが出来る。

 基本的にルートが固定であれば相手が提示する報酬しか受け取ることは出来ないが、AIが主導権を握っているのであれば、報酬の内容はIA次第ということになる。

 シアは期待を持って返答を待つ。


「強力な武具、というのはどうだ?」

「私に従うモンスター、は無理かな?」


 報酬が変わることに歓喜し、最後の質問をする。

 魔人は少し悩んでいるようだったが、すぐに質問に答えた。


「お前に魔物が従うかどうか、それは魔物自身が選ぶ。が、幼体から育てれば別であろう」


 シアは心の中で跳び上がった。

 ここまでくればLOのメインストーリーのルートは固定ではなく、どうなるか運営にも分からないプレイヤーとAIに依存するものだろう。

 もっとも、作成陣がそれこそ馬鹿のように手間暇かけてここまで作っている可能性もあるのだが。

 しかし、それならそれでメインストーリーのメインルートそのものはさらに細かく作り込まれているだろうから、やはり問題は無い。

 シアはその嬉しさを表情には出さずに、魔人の話の続きを聞く。


「竜種など、強力な力を持つ種は人間では育てることが出来るまい。そういった魔物が良いならば私からお前に授けることは出来ない。お前自身が力を示し、認めてもらうしか道は無いだろう。しかし、弱い魔物で構わないのならば、幼体を授けることは出来る」

「弱いモンスターが強くなることはあるの?」

「魔物とは本来、強さに限界は存在しない。育つ環境がその魔物の実質的な成長の限界と思え。この付近では……ふむ、ロックリザードが一番弱いか?だが、それはこの岩山の環境だからだ。この岩山より厳しい場所に連れていけば、ロックリザードは更に強くなる。もちろん、戦って生き延び続ければ、だがな。私が言う弱い魔物というのは、初めから生まれ持った能力の差だ。生まれたての竜種とロックリザードが戦えば、どちらが勝つのかは明らかであろう?」


 長ったらしいが、要約すれば成長に限界はないということだろう。

 最後に問われた問い掛けにシアは答える。


「私の常識だとドラゴンが勝つね。なるほど、わかった。貰ったモンスターがドラゴンを、もしかしたらあらゆるモンスターを超える力を持つかどうかは私次第、ということだね」

「理解が早くて何よりだ。では、魔物の幼体でいいんだな?」


 魔人が確認をしてくる。

 シアとしても否は無く、頷きながら答える。


「構わないよ、ちなみにどんなのが貰えるの?」

「お前はどんな魔物が欲しいのだ?」

「ん〜……その前に、モンスターは決まった成長しかしないの?」

「それは無い。先程も言ったが、環境が魔物の成長の鍵となる。火山に連れて行けば暑さに適応し、凍土に連れて行けば寒さに適応する。様々な土地を巡らせれば、どうなるかは魔物自身の判断で変わる。が、完全に環境に依存するわけではない」

「得手不得手がある、ってこと?」

「そうだ。基本的には生まれ持った能力を伸ばす成長をする傾向があるし、その影響によって成長はほぼ一定の道筋を辿ることになる。もちろん、突然変異の様に全く違う成長をするものが出るときもあるがな。お前の後ろにいる大きなロックリザードも突然変異だろう」

「なるほど……」


 シアは後ろの大岩を振り向き、どんな魔物を貰うか考える。

 魔人の話では力を示せば魔物は従えれるらしい。

 つまり、倒した時に一定確率で仲間になる、ということだろう。

 それならばと、シアは魔人に言う。


「小さくて珍しいやつがいいかな」

「小さくて珍しい、か……人間の前に滅多に姿を表さない魔物というのは、総じて力が極端に弱いぞ?物珍しさから人間はそれを狩るが、共に戦う仲間としては戦力にはならんが……」

「構わないよ。従える理由は戦わせるためだけ、なんて限らないでしょ?」

「ふむ……分かった。愛玩として従えるのなら、人間受けしそうなやつにしてやろう」


 魔人はそういうと、地面に手をかざす。

 すると、地面に赤く光る魔法陣が現れ、魔法陣の文字が浮かび上がった。

 浮かび上がった文字は空中で動き、後から現れる文字もどんどんと追加されていく。

 文字は何かの姿を作るように集まると、ひときわ強く輝く。

 光が収まった時、魔法陣も空中の文字も無くなっていた。

 その代わりに居るのが魔物だが、当然見たことはない。

 というよりも。


「……可愛いけど、ドラゴンは無理なんじゃなかったの?」

「……知らぬ。そもそも、私もこの魔物は見たことがない」

「選んだのは貴方じゃないの?」

「私はお前の要望を聞き、それを条件に召喚しただけに過ぎん。好きな自由に魔物を呼べる召喚術は、私では使えないからな」

「……そう」


 そこに居たのは、小さな、しかし確かにドラゴンだった。

 頭から尻まで、体の大きさは30cmくらいだろうか。

 4足歩行で背から生える翼は1対、すらりと伸びた細い尻尾は体と同じくらい長く30cmほど。

 鱗や甲殻ではなく、どちらかと言えば羽毛に近い体毛で翼を含む全身を覆っている。

 後ろ足の付け根にも小さく翼が生えており、頭の横にも角の様に翼が上へ伸びている。

 体毛は白だが、翼や尻尾などの先端付近は深い青色だ。

 同じように体の下側、首筋から尻尾の付け根かけても青く染まっている。

 ただ青いだけでなく、星の様に小さく瞬く光が見える幻想的な体毛だ。


「キュイ?」


 こちらを見上げ高い声で不思議そうに首を傾げると、その場で座り、まるで猫の毛づくろいの様に自分の腹を舐め始める。


「……可愛い」

「キュ?」


 シアの声に反応したのか、毛づくろいを止めてこちらを見つめる。


「おいで〜」

「キュイ!」


 シアが呼んでみれば、トコトコと歩いて足に擦り寄る。


「懐いているようだし、そいつでいいか?」

「いいよ、ありがと」

「そうか。では、私達にとって心強い味方であることを願っている」


 それだけ言うと、魔人は再び翼を出して飛び去っていく。


「……さて、ん?」


 飛び去った魔人から目を離し、足元のドラゴンを見るとチョコンと座ってこちらを見ている。


「キュイッ」


 小さく鳴いたと思えば、シアの前にパネルが出現する。


 ノクス・テルラ・クリマ(星涙竜)をテイムしました。

 名前を入力し、呼んでください。


「名前かぁ……」


 シアは悩む。

 LOを始めてから、1つの物事に悩んだ時間はもっとも長いだろう。


「よし……」


 20分ほど、ああでもないこうでもないと悩んだシアは入力を終えると名前を呼ぶ。


「レイル!」

「キュ!」


 名前を呼ばれたレイルは嬉しそうに鳴くと、翼を器用に使って宙返りをする。


「レイルのステータスは……パーティーメンバーなのね」


 どうやらPTの枠を取るようだ。

 つまり、シアはこれ以上PTを組むことが出来ないということだ。

 ステータスはパーティーメニューから見れるようだ。


【ステータス】

 名前:レイル(ノクス・テルラ・クリマ/星涙竜)

 種族:モンスター/竜種

 神話に出てくる生ける伝説、空の涙から生れたとされる。

 個体数が極めて少なく、その存在を知るのは一握りもいない。

 逃げ隠れる能力に特化しており、そのお陰で目撃例は皆無。

 敵意の無い存在に対して非常に友好的であるとされている。


「あ〜……SSRだこれ」


 もちろん、LOにSSRなどといったレアリティは存在しない。


「う〜ん……スキルとか見れないのかなぁ……それとも、モンスターにスキルは無いのかな」


 うんうんと悩むが、見れないものは仕方がない。

 シアは当初の目的である草原の奥を目指して岩山を下っていった。

 その肩にレイルを乗せて。

作者のネーミングセンスはこんなもんです…。

名前の由来などは詳細話のネタに取っておきます。

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