大自然に抱かれて……
ボクは真夜中に珍しく目が覚め た。
ピポ…ピポ…ピポ
柱の鳩時計が三度鳴った。
まだ夜中の三時だ……
夜明けまでは、だいぶ間がある。
もう一眠りしょう……
戦争の空爆で荒廃し、疎らに建つ ていたバラック。
この島も終戦から復興へという時 の経過とともに
土地計画で碁盤の目のように区切 られた町へと変貌を遂げた。
その一画、山の裾野に近い所に立 つボクの家。
近くを流れる川には、メダカやド ジョウ、ウナギ
そして大きな川蟹などが見られ る。
この大きな蟹の鋏で指を挟まれる と
雷が鳴るまでは取れないと子供た ちの間では専らの噂だ。
それゆえに、この蟹は雷 ガンと呼ばれていた。
山には入るなと大人たちは言う。
それには訳があった。
山には夜行性の毒蛇がいて咬まれ ると
百歩も歩かぬ内に命を落とす猛毒 を持つ怪物がいたからである。
この怪物の名は俗に【ハブ】と呼 ばれていた。
これほどに自然の豊かな環境なの で
生物も生き生きと自分のテリト リーで棲息している。
人も自然界が育んだ生物の一員。
母なる自然に抱かれて、暮らして ゆける幸せ。
人の目からみたら毒蛇も大蟹も大 蛙も嫌な存在かもしれない……
しかし、彼らは確かな目的があり 存在している。
みんな、この世界の仲間なんだ。
毒蛇がいなくなれば大鼠などの害獣が
大量繁殖し畑や民家の作物を荒ら す。
大蟹や大蛙も、また然りである。
彼等なりの役割がある。
いろいろと考えていると眠れな い。
少し散歩してみよう。
川辺を海に向かって歩いてみよ う。
新しい発見や感動があるかもしれ ない……時を越え異世界転生大自然へ