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「仕事愛ですって?」

 いつもながらの事だが思ってもいない方向からのワードが急に飛び出すので毎度流華はこのタイミングで小枝が起こす混乱に招かれてしまう。

「これはまず視点を変える必要がありそうね。」

 くいっと香澄先生は薄いメガネのフレームを指で上げる。

「視点を変える?」

「いいね、かすみん。るーも考えてみなって。シンプルに。」

「そう言われたってねー……。」

 簡単に言ってくれるが、悔しいので流華も思考を巡らせてみる。視点の変更。

 要はどの立ち位置からこの物語を見るかという事だ。

 この話は少女目線で語られている。それが基本の立ち位置。それをずらすとなると。

「人形側の目線……?」

「そういう事になってくるわよね。そしてキーワードは仕事愛。」

 どうやら今回、香澄先生はすでに小枝の考える答えに行き着いているようだ。

「それじゃあさ、るー。メリーは怒っている?それとも怒ってない?」

 メリーの気持ち。これは簡単だろう。自分を大事にしてくれたはずの少女に対しての想い。この二択であれば怒りでしかないはずだ。でも現実的に考えた時に、それをメリー自身が伝えられるかといえばそんな事は出来ない。という事はつまりそれを伝える人間がいるのだ。

 メリーの怒り、やり切れない仕事愛。つまり。

「メリーを作った人の怒りの主張ってことね。」

「そんなとこさ。まあメリーをっていうより、人形を作った人っていう間口レベルであたしは考えてたけどね。」

「つまり、人形を捨てた女の子に対して、日頃仕事で人形を作っているその人物は自分が毎日精魂込めて作ったものを簡単に捨てられている光景を見て許せなかった。そんなとこかしら。」

「あらら、かすみんにほとんど発表されちった。今回は単純だったからね。ま、後はわざわざあたしメリーなんてちゃんと少女のつけた人形の名前まで知ってるあたり、少女に近い親類とかの仕業になってくるね。」

「人形技師の熱い想いが引き起こした歪んだ仕返し、それが恐怖の都市伝説メリーさんの電話へと変貌を遂げたわけね。じゃあ、さえちゃん。この話の最後のオチの部分はやっぱり伝言ゲームのなれの果てってとこ?」

「だと思うよ。今までいくつもかすみんから話を聞いてきたけど、どれも綺麗に話としてまとまり過ぎてるもん。この話だってそうだよ。そうした方が話がおもしろくなるだろうからってこんなオチがどっかでつけられたんでしょ。だからこそ話としておもしろくて、更に人に伝わってくんだろうけど。そうやって尾ひれがついてくもんだよこういうのって。」

 確かに世の中、そう上手くオチがつくような出来事の方が少ない。しかし世に語られるこの手の類の話は一つの物語として完成し過ぎている。今ある完成形に至るその発端部分には実は小枝が話すような何かのきっかけがあったのかもしれない。

「にしても、これって途中で親が電話出てくれれば良かったのにね。それだったら女の子の結末もちょっと違ったかもしれないのに。」

「そうねえ。外出でもされてたのかしら。まさか娘一人を置いて、二人でデート?なかなかおあついわねえ。」

「ちょっとそれは親としてどうかと思いますけどね。」

 さて、今日はこんな所で終わりかなと思った流華だったが小枝の方を見るとどうもまだ何か納得しきれていないのか、複雑そうな表情をしている。

「どしたの小枝?あんたの答え、あれじゃまだ納得出来ないの?」

 いや、そうじゃないけど、と言いながら小枝は何やらぶつぶつと呟いている。うつむき加減でよく聞き取れないが、違うとかそういう事とか何やらそんな事を言っているようだった。

 やがて小枝は顔を上げ、一言こう言った。

「この話、もっとえげつない話かもしんないね。」


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