(3)
「これはまたなかなかにどメジャーなお話ですね、先生。」
「超有名どころね。これもなかなかお気に入りなのよね。でも。」
「ええ、やっぱりそのようですね。」
流華はもちろんどんな話かは知っている。詳細は知らなくてもだいたいどのような話か知っている人は多いだろう。そういうふうになんとなくでも広く知れ渡っているからこそ都市伝説と称されるのだ。しかし、そんな主力選手も小枝の前では無名の二軍三軍選手にまで落ちぶれてしまう。その証拠に小枝の頭の上に今日も大きなハテナマークが浮かんでいる。
「電話―?あ、お悩み相談的な感じか!メリーズコールセンター。うん悪くないわ。どんなお悩みも電話一本で解決!24時間いつでもお気軽に。」
「なかなか手厚いサービスねメリーさん。」
「まあでもそんなわけないよねー。分かってるわよ流れ的に。」
「今日はえらくおとなしいわね。どしたのさ?」
「なんたって本日傷心デイですから!」
「傷心な人は景気よくそんな宣言しないわよ。」
「やっぱりケアは必要ないみたいね、さえちゃん。」
「えー話聞いてよーかすみんー。」
「はいはい。その前にメリーさんのお話ね。でも時と場所を選ばずって所でさえちゃんの表現は全くのはずれとも言えないかもしれないわね。」
「さすが、あたしのシックスセンス。研ぎ澄まされてるわー。」
「いやいや、かすり傷レベルだから。」
「メリーさんの電話はね、こういうお話しなの。」
とある少女は母親から渡された分別用のダンボール箱を前にせっせと作業を進めていた。物が多くなってきたからそろそろ一度いるものといらないものを整理しなさいという親からの進言を受けてのものだった。
スムーズに作業を続ける少女の手に一つの人形が手に取られる
古めかしい外国製の人形。掌から人形の想い出が想起される。
メリー。それがこの人形に付けられた名前だった。
まだ少女がさらに幼い頃、一緒にままごとや眠りをともにしてきた人形だった。しかしメリーに触れる機会は減り、今ではおもちゃ箱の奥底に眠っているような存在であった。彼女を見たのは少女にとっても久しぶりなものだった。思い出がないわけではない。しかし、目の前の二択に対しての答えは手に取った瞬間に出ていた。
少女は迷うことなく、メリーをいらないものの箱に放り込んだ。
家の電話がけたたましく鳴り響いたのは夜の事だった。
トゥルルルルルル。
トゥルルルルルル。
少女はなり続ける電話に不審を抱いた。普通であれば親が電話に出るはずなのにコール音は鳴り止まない。
少女は部屋に備え付けられた子機を取りあげた。
「もしもし?」
「あたし、メリー。今ゴミ箱にいるの。」
ツー。ツー。ツー。ツー。ツー。ツー。
かん高い女の子のような声。
今の電話は何?ゴミ箱?訳が分からない。間違い電話だろうか。そう思っていた矢先。
トゥルルルルルル。
またも電話が鳴りだした。再び電話をとる。
「あたし、メリー。今○×公園にいるの。」
ツー。ツー。ツー。ツー。ツー。ツー。
先程と同じ声。性質の悪いイタズラ電話だ。気味が悪い。
トゥルルルルルル。
また?さっき切れたばかりなのに。
トゥルルルルルル。
トゥルルルルルル。
トゥルルルルルル。
止まない。鳴り止まない。
恐る恐る少女は電話をとる。
「あたし、メリー。今あなたの所に向かってるから。」
ガチャンと少女は電話を叩きつけた。
どういう事?なんなの?
そこで少女は考えないようにしていたあり得ない答えに向き合った。
まさか、メリー?
分別されたいらないメリーは、今日ゴミとしてすでに処分されている。最初にゴミ箱にいると答えた事、メリーという名前。まさか、まさか……。
そんな最中にもコール音は鳴り止まない。
私が悪いんだ。思い出を共にした彼女を容易く捨ててしまったから。謝らなきゃ。少女は勇気を振り絞り電話をとった。
「もしも……。」
「あたし、メリー。今あなたの家の前にいるの。」
「え……?」
切れてしまった。
どうしよう。もうそこまで来ている。
トゥルルルルルル。
トゥルルルルルル。
トゥルルルルルル。
トゥルルルルルル。
トゥルルルルルル。
トゥルルルルルル。
トゥルルルルルル。
トゥルルルルルル。
次に電話をとったら、私はどうなるの?
私は、私は。
メリー、私、取り返しのつかない事をしてしまったのかな。
茫然としたまま少女は再び子機を掴み耳に当てる。
「あたし、メリー。今あなたの後ろにいるの。」
少女は勢いよく後ろを振り向い