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「おっじゃまー!」

 小枝によっていつも通り勢いよく横にスライドしていく扉の動きを流華はもちろん予想していた。

「せい!」

 いつもならばあまりの勢いでそのままスタート地点にまで戻ってくる扉を流華はフルに開ききった完璧な状態で押しとどめた。

「あー!ちょっと何すんのよ、るー!」

「何すんのよって、私からしたら毎度あんたの方こそ何してんのって話よ!また開けるの二度手間なんだもの。」

「ぐっ……あたしの唯一の楽しみを……。」

「あんたもっと人生楽しんだ方がいいよ。」

 入口でのやり取りを一通りこなした所で、流華達は保健室の中へと足を踏み入れた。奥の机で香澄先生はペンを走らせていた。業務日誌でも書いているのだろう。そんななんでもない日常業務さえも、足を組み替える仕草や、耳にすっと髪をかける涼しげな仕草で艶めかしく見せてしまえるのが香澄先生のなせる技だ。

「よしよしと。ああ、いらっしゃい。さてさて今日は何の話を…あら?」

 日誌をぱたんと閉じ、おもむろに立ち上がるとつかつかと香澄先生は小枝のもとに歩み寄ってきた。そしてぐっと顔を近づけ、小枝の顔を凝視する。下手をすれば唇が触れ合うほどに近い二人の距離感に何故か流華はドキドキしてしまった。当の小枝も何とも言えないどぎまぎした表情を浮かべている。それもこれも度の過ぎる香澄先生の美貌とオーラのせいだ。女性ですらこうも感情を揺るがすのに、これが男性に向けられたらどうなってしまうのか。実際の香澄先生の恋愛事情は知らないが、相当罪な存在ではあるだろうと勝手に流華は想像していた。

「ちょ、かすみん近い近い!さすがにこの距離は緊張しちゃうから!」

「あら、ごめんなさいね。」

 小枝の言葉で顔を話した香澄先生はんーと口元に指を当て何やら思案している様子だった。

「急になにさ、かすみん。」

「ううん。さえちゃんちょっと今日は傷心気味な感じがしたから。大丈夫かなって思っただけよ。」

「おほー、さすがかすみん。よくお分かりで。」

「あなたの目元を見ればだいたいの事は分かるわよ。」

 そう言っていたずらっぽく微笑む香澄先生は何でもお見通しの仏のように見えた。

「まあ、それに関してはまた後でいくらでも聞いてあげるわよ。なんたって私は保健の先生。心に関してもちゃんとケアする心得は持ってるつもりですから。」

「いやー、そりゃ頼りになりますなー。」

 ぽりぽりと頭をかく小枝の姿はもはや通常運行でケアなど必要とは思えないのだが。

「という事で、今日も始めましょうか。」

「よーし、何でも来いっての!」

「気合い十分ねあんた。すっかり元気じゃない。」

「中途半端な心意気でかすみんの話を聞くわけにはいきやせんから。てやんでい。」

「あんたいつからそんな江戸っ子魂を備えていたのよ。」

「嬉しい心構えね。じゃあ本日のテーマ。」

「わくわく、わくわく。」

「小枝、わくわくがはみ出してるわよ。」

「ふふっ。じゃあ、メリーさんの電話でどうかしら。」


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