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ウォルフガング 2

 大叔母に、王妃に合わせることになった旨を報告する。教育の進み具合を聞けば、満足げに上々とかえされた。エヴァからも楽しそうな話は聞いていたが、想像以上だった。大叔母に、公爵夫人にふさわしいレベルまでとお願いすると、最初からそのつもりだと微笑まれた。あいかわらず鋭い人だ。

 身元は判明したのかと問われ、身分はあるようだが、立証は難しいとだけ答えた。大叔母は、しばらく考えた後に、では、息子と話をしておくとだけ告げると、腰を上げた。伯爵家が後ろ盾になるのは、うれしいが―。宰相あのひとが義父。考えたくない。


 エヴァは、王妃のお気に入りとなった。ついでに、王と宰相も。早いデビューを勧められ、エヴァの教育の進み具合もあり、15歳にデビューを決めた。

 これには、私の事情も絡んでいた。父母を事故で亡くし公爵家を継いで5年。二十歳になった私は所謂いわゆる結婚適齢期に入った。最低限の夜会にしか出ないようにしているが、それでも出なければならないものもある。出れば出たで、令嬢やらその親やらがまとわりついてうるさい。中身のないことしか話さない女は嫌いだ。ああ、エヴァとの会話のなんと楽しい事か!


 15歳でデビューしたエヴァは、その年一番のレディだった。完璧なマナー、豊富な知識に輝くばかりの美しさ。どうだ、私のエヴァは!

 身元がわからないとエヴァを蔑んだ者もいたが、エヴァは相手にせず、私の激怒と国王夫妻の庇護によって、駆逐された。

 私の横に立つのは、エヴァだけだ。


 エヴァを保護して5年。もうすぐエヴァは18歳、成人する。成人を待って婚約、結婚と考えて、この2年動いてきた。

 身分のことは、宰相の養女となることで解決。大叔母もさることながら、宰相夫妻がひどく乗り気だった。…そういえば、あそこも男ばっかりだったな。

 国王夫妻も縁続きになると、喜んでいる。大叔母に結婚はまだかとわざとせっつかれるが、もう少しと笑っておく。段取りを知っていてからかうところは、さすがあの宰相の母だ。


 気がかりが1つ。今年デビューしたある伯爵令嬢に付きまとわれている。王宮の執務室に入り込むわ、出先に出没するわと質が悪い。伯爵も手に負えないらしく、迷惑をかけてと頭を下げてきた。

 エヴァに近寄らせないようにしなくては。


 そう思っていた矢先、ある夜会で仕事の話になり、エヴァが離れてしまった。伯爵令嬢がエヴァに近づいたと聞き、あわてて駆け寄る。私が騙されているとか、もう妄想の域だ。

 伯爵は令嬢を閉じ込めたという。


 エヴァを外出禁止にして、一月。王妃が心配してエヴァに会いたいといってきた。そろそろ大丈夫かと、王宮に連れていく。私が仕事中は、王妃に任せておけば、安心だ。そう思っていた。


 2階のバルコニーから手をふるエヴァにこたえる。団員たちの鍛練を見ていたら、バルコニーの様子がおかしいと知らされた。

 バルコニーに背を付け、周りに知らせるように大きな声で話すエヴァ。―あの令嬢か?!

 部下に部屋へと急行させ、自分はバルコニーの下へ。


 エヴァと叫んだら、バルコニーから飛び降りてきた。あわてて受け止め、無事を確認した。無茶をするなとしかれば、受け止めるてくれると思ったと言う。なんと言う殺し文句。ああ、もう誕生日なんか待ってられるか!


 ホッとしたのか泣き出したエヴァを、あのときのように慰めた。このまま腕のなかに閉じ込めたい。


 伯爵令嬢は放心状態で見つかった。王宮内での事件だ。不問には出来ない。修道院で一生過ごすことになった。謝罪にきた伯爵が気の毒だとエヴァは言う。娘を御せなかった男にそれもどうかと思うが、まあもう会うことも有るまい。


 あれからエヴァを一人にすることはない。過保護だと言うが、エヴァを失う恐怖を考えたらやり過ぎることはない。

 私の幸せの邪魔をしたくないとまだ言うエヴァを自室に連れていった。椅子に座りエヴァを膝の上に乗せ、用意してあった祖母の形見の指輪をエヴァにはめた。ムードもへったくれもないが、こうでもしないとエヴァは逃げ出しそうだからな。

 目を見開くエヴァを抱きしめ、その耳にささやいた。


 私のエヴァ。私の幸せは君と共にあることだ。


 私の思いが報われる日は近い。




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