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ウォルフガング 1

 天使さま


 腕の中の翡翠の瞳の少女にそう言われたときに、私の心はとらわれたのだろう。



 意識を失っていたその少女は、誘拐事件の被害者だった。いや、そう思われた。大規模な人身売買目的の誘拐犯一味を捕まえ、被害者に話を聞いて帰したところ、ただ一人意識のない彼女が残ったのだ。

 犯人に問いただしたら、今朝がた森の中に倒れてきたのを拾ってきたという。怪我の状況から、頭を打ったと思われた。別の犯罪の気配が感じられる。部下に、調査を指示した。


 12、3歳だろうか。艶のある黒髪に、上質な服。手入れの行き届いた手足を見るに、どこかの令嬢だろうか。目覚めたら話を聞くことも考えて、責任者である騎士団長の私が預かることにした。

 屋敷に戻れば、部屋も使用人も余るほど。なにしろ今の公爵家は私一人だけだ。


 屋敷に帰る馬上で、一度彼女が目を開けた。翡翠のような瞳にざわめく自分に動揺する。

 屋敷に着くまでに、冷静になれたのは幸いだった。家の者に世話を任せる。老執事は、いそいそと部屋の手配をし、侍女頭は、お着替えを用意しなくてはと意気込んでいる。屋敷の中が、一気に活気付いた。

 特別な方なのでしょう。そう老執事に言われて、自分がどれ程大切に彼女を扱っていたのかに気付く。


 少女が気付いたのは、翌朝だった。名前も何も覚えていない。その事実に愕然としている少女は、ひどく儚げだった。怖いとつぶやき、翡翠の瞳から涙をこぼす少女。気がつくと、その横に座り少女を慰めていた。

 大丈夫だと。家族を見つけると。それまでここにいなさいと。

 泣きじゃくる少女を抱き寄せ、背中を撫でて慰めた。

 腕の中の小さなぬくもりの幸せの為に、何でもしようとその時決意した。15で継いで以来、わずらわしいものだった公爵と言う地位が今ほど、嬉しかったことがない。


 少女に、エヴァンジェリンという名を与えた。亡き祖母の名だ。と同時に建国王ウォルフガングの王妃の名でもある。その仲の睦まじさで有名な二人の名をとったのは、繋がりを求める無意識だったのか。


 エヴァは、記憶こそないが、立ち居振舞い、醸し出す雰囲気は、身分ある者のものだった。事件から数日たっても、該当する行方不明者の報告はない。長期戦になりそうだ。

 手がかりは、エヴァの着ていた服のみ。引き続き調査を指示する。


 エヴァは屋敷の者達にも愛されているようだ。こぞって世話を焼きたがっている。

 少しずつ笑顔も見せるようになって来た。家の中を歩けるようになると、図書室に興味を示している。頭の回転も悪くないし、このまま何もしないのはもったいない。我が家にいる間だけでも、最高級の教育を受けさせたいと思いたった。相談すれば老執事や侍女頭も大賛成だ。さて、誰にと言うところで、老執事から後見人だったクラウディア大叔母の名が出た。祖父の末妹にしてシュベリーン前伯爵夫人。社交界の中心人物だ。レディー中のレディーである。大叔母ならば、エヴァを見事なレディーにしてくれるだろう。

 早速大叔母に依頼の手紙を送ると、私が保護した彼女に興味があったのだろう。快諾を得た。


 大叔母がやってきて、エヴァの教育が始まった頃、国王より呼び出された。エヴァの着ていた服を持ってくるようにとの指令付きで。


 呼び出された部屋には、国王だけでなく大叔母の長男である宰相もいた。私の顔を見て、ニヤニヤ笑っている。…昔から15年上のこの父の従弟が、どうにも苦手だ。

 エヴァの着ていた服を見せると、国王と宰相がうなずきあう。不審に思い問いただせば、宰相が重い口を開いた。

 隣国の向こうにある聖国独特の織物であること。更にこの色は、王族にのみ許される色であること。しかし、王族にエヴァに該当する姫はいないこと。

 ため息が出た。出自に秘密があり、存在を秘された姫ということか。何らかの争いに巻き込まれたのだろう。


 服を処分し捜査を終了すること、これからもエヴァを保護し続けることを告げれば、国王は満足そうにうなずいた。


 そこからは、世間話だ。国王は従兄の顔になって兄貴風をふかせる。ずいぶん可愛がってるそうだな、一度つれてこいなどと言い出した。宰相も、母からずいぶん甘やかしてると聞いてますよ、とニヤニヤ笑ってからかってくる。自覚があるだけに反論できない。


 結局、王妃に会わせるという形で、王宮に連れてくることになった。




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