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エヴァンジェリン 2

 ある夜会に、ウォルフ様と出席した時のことでございます。ウォルフ様がお仕事のお話しをはじめられたので、一休みしようと一人になりました。

 何人か知った方と挨拶を交わし壁際の椅子に腰をおろしますと、なにやら険しい顔つきのご令嬢がやって参ります。


 これは久方ぶりですね。デビュー直後はこうしてわたくしに直接嫌味を言われる方がいらっしゃいました。私が相手にしなかったことと、ウォルフ様が激怒したこと、おば様ばかりか国王御夫妻までが私を認めたことで、いなくなりましたが。

 ご令嬢は私は認めない、ウォルフ様は騙されている、消えればいい等と一人で叫んで戻られました。

 周りにいた方達が、知らせたのでしょう。ウォルフ様が、あわてて駆けつけます。私を抱き寄せると、速攻で帰りの馬車を手配しました。そんなに心配しなくても…。ウォルフ様は過保護だと思うのです。


 帰りの馬車の中で、あのご令嬢のことを聞かされました。とある伯爵のデビューしたばかりのご令嬢で、このところウォルフ様に付きまとっているそうです。思い込みが激しく、父である伯爵も手をやいているのだそうで、ウォルフ様に頭を下げられたとか。

 確かに、少し不安定なものを感じました。気をつけた方がいいのかもしれません。


 結局、ウォルフ様と一緒でないと外出できなくなりました。


 一月ほどたち、何もなかったので、もう大丈夫だろうと、ウォルフ様と王宮に出かけました。ウォルフ様がお仕事中は、王妃様の所にお邪魔します。三人目のお子さまをお産みになられたばかりの王妃様が、私を大変心配されて会いたいとおっしゃったのです。

 王妃様とは本当に久しぶりにお会いしたので、話がはずみました。

 やがて少し疲れの見えた王妃様は、お昼寝をなさるので、私は騎士団の鍛練場が見えるお部屋でウォルフ様を待つことにしました。

 王妃様付きの侍女の方々に快くお願いを聞いていただけたのです。それにしても王妃様がお元気でほっといたしました。もう少し落ち着かれたら、公爵家を出る相談にのっていただこうと思っているのです。このまま私がいれば、ウォルフ様の縁談の邪魔になってしまうでしょう。身の振り方を考えなくては。


 窓を開けて、ベランダから騎士団の鍛練を見学します。顔見知りの騎士様が気付いてウォルフ様に知らせてくれました。手をふっていると、侍女がお茶を持って来てくれたので、室内に戻ろうとした時です。

 違和感に後退りしました。


 服です。侍女のお仕着せではありません。令嬢の着るドレスです。


 あの・・伯爵令嬢でした。


 ああ、あの目つきは普通ではありません。手には銀色に光るものを持っています。


 みんなが私の邪魔をする。お父様は私を閉じ込めた。あなたがいるからウォルフ様が私を見ない。


 言っていることが支離滅裂です。私は、令嬢を刺激しないように静かに後ずさります。背がベランダに当たりました。下をチラッと見ると、何人かが異変に気付いたようです。騎士達に聞こえるように大きな声で令嬢に話しかけます。


 私を傷つければ、犯罪者になります。そうなったらウォルフ様はあなたを見ませんよ、と。


 私の訴えも彼女には届きません。あなたさえいなければ。いなくなれば。と、繰り返すばかり。説得を諦めることにします。ドレスの裾をぐいっと持ち上げ、逃げようとしたときです。

 エヴァと呼ぶウォルフ様の声が!私はくるっと向きを変え、ベランダに足をかけて飛び降りました。

 両手を広げて待ち受けるウォルフ様に飛び込みます。ウォルフ様はしっかりと受け止めてくださいました。


 無茶をするなと怒られましたが、受け止めて下さると思ってましたと言うと、ぎゅっと抱きしめてくださいました。私はウォルフ様の腕の中で安心したのか、涙が止まりません。そんな私をウォルフ様は昔のように慰めてくださったのでした。


 令嬢は、部屋に座り込んでいたそうです。王宮で騒ぎを起こしたので、なかったことには出来ません。残りの一生を修道院で送ることになるでしょう。やつれた伯爵が、謝罪にいらっしゃいました。お気の毒でなりません。


 あれから、ウォルフ様の過保護に拍車が掛かりました。外出には必ず付き添われます。お屋敷にいるときにもです。片時も離してくれません。エヴァを失うかと思ったら、心臓が止まるかと思った。もうあんな思いはこりごりだとおっしゃるのはわかるのですが、なぜ私は今ウォルフ様の膝の上にいるのでしょうか?え、あの、左手の薬指にはめようとしているこの指輪は?


 私、知りませんでした。

 私の18の誕生日を待って、ウォルフ様が私に求婚なさるつもりだったことを。

 そのために、私はいつの間にかおば様のご長男の宰相様の養女になっていたなんて。

 おば様も国王ご夫妻も宰相様もご存知だったなんて。


 わたしは、ウォルフ様が幸せならそれでよかったのに。



 ウォルフ様は、私と共にあることが幸せだと、おっしゃってくださいました。


 

エヴァンジェリン視点終了。次はウォルフガング視点です。

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