第2話
当然の如くパニックになった謡子は、目の前の髭男を質問攻めにしながら必死に現状を把握しようとしていた。
オーバーヒートを起こした頭を冷やすために何度同じ質問を繰り返しただろうか、髭男がぐったりしてきた頃にようやく自分を省みることが出来るようになり、知りえた事実を羅列してみる。
…こんなところだろうか。
・ヴィレッジ夫妻には娘が1人いる。
・今年は皇太子殿下のお妃選びの年であり、±3歳までの娘を持つ領主は一家につき1人後宮に献上しなければならない。
・ところが肝心の娘が後宮上がるのを嫌がって実力行使に出てしまった。
・急遽娘の替え玉が必要になり、娘と瓜二つの人間(謡子)を用意した。
……実力行使?
核心に触れてこそいないものの、不穏な空気を暈しきれていない単語に謡子は片眉をつり上げ、尋ねてみたた。
「実力行使って何したんですか?」
「………………」
ところが髭男は答えようとせずにそっぽを向いてしまった。
とは言ってもそっぽを向いた程度で終わらせてもらっては困る、こちとらそれが原因で見知らぬ地に落とされたのだ。
いち、にの、さん、で飛び掛かろうとしていた謡子だったがさすがに殺気を感知されたか、割り込んできた美女に阻止される。
ちきしょう、と歯噛みする謡子に与えられた事実は衝撃的なものだった。
「恋人と子供を作って部屋に引きこもりました。」
「ほぅ…」
目を逸らして黙り込んだ夫に対し、あくまでも淡々と答えた妻は流石の一言である。
それにしても根性のある娘さんだ。
即興で恋人を拵え、あまつさえ腹に子供まで拵えたのだ。
狙ってもなかなかできることではない。
種を仕込んだ男も男だが、箱入りの貴族令嬢がそこまで潔く腹をくくるとは誰も予想できなかったのだろう。
文句なしの実力行使、これなら後宮にあげられようもない。
浚われた理由は分かった。
だがもっと知りたかったのが、
「どうやって私を拐ってきたんですか。」
いくらセキュリティがザルだからと言っても、誰にも気づかれずにこの重い身体を運搬するには多少の手間がかかる。
いたって我が家はドアや引き戸の立て付けが悪く、慣れない人間が手を出せば大きな音を立てて外れてしまう。
そしてなにより、何を踏み越えて次元の違う世界に浚われる羽目になったのか。
後学のためにも是非、知りたいところだった。
現在進行形で祖父母や母に心配をかけているのだと思うと、胃が痛くなってくる。
腹を押さえて唸った謡子に、髭男は小憎らしいほど清々しい笑顔でのたまってくれた。
「うむ、この国には魔術師と呼ばれる職が存在する。何しろ緊急事態だからな、この地方は元々魔術師がよく生まれるといわれておるがその中でも指折りの者に金を積んでそなたを呼び寄せた。」
………………なんですとっっっっ!?




