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悪意あるお遊び

作者: カロン

 初投稿になります。

 うさぎとくまと一人の女性が絡む短編になっております。

 一部人によっては気持ちの悪いシーンもありますので苦手な方は注意して下さい。


 くまのぬいぐるみは棚の上に座っていた。

 くまと一緒に白いうさぎも乗っていたがそいつは生きている。

「ねえ、何かしない?今とっても暇なんだけれど」

「……」

「黙ってないで何か言ってよ」

 うさぎはぬいぐるみを短い足で弄くりだした。

 その仕草は端から見ればとても可愛くくまのぬいぐるみは前へ後ろへとばったんばったんと倒れたが幅五十センチの棚から上手く落ちずにいた。

 それは、このうさぎが上手くバランスを取っているようにも見えた。

 間もなく声がした。一人の飼い主らしき女性がやって来てくまのぬいぐるみを取り上げた

 うさぎが抗議の声を挙げるもその女性には声が届かない。当たり前だが、くまの耳がピクリと動いたのは気のせいか?

 遊び相手を失ったうさぎはしょんぼりとしたが、その腹いせににか棚をカジリ始めた。

「あとで怒られたって知ったこっちゃないね」

 ガリガリガリガリとカジリ、無心になっているとむにゅっという歯応えを感じた。

「へ?」

 木製の棚の中に白くて艶の有るものが剥き出しになっていてしかも今カジッたせいかそれは傷つき謎の液体が流れていた。

 うさぎ一瞬動きが止まったが、気を取り直して別のところをカジリ始めた。

 ガリガリ。

「!?」

 うさぎの身体がビクリと震えたとき、

「あー!うさ夫、バカっ!」

 舌足らずな言葉と共に身体がふわりと浮かび上がり、ペッと吐き出したものが床に転がり女性がそれを拾い上げた。

「カジッちゃ駄目って言ってるじゃない」

 と指差すのはあの棚だ。転がり出た白い物体は…?

 ぼく何にも知らないよ、ただのうさぎだもん、と言った風に耳を掻き始める白いうさぎ。だがこの女性には通用しなかった。

 ふんといい様棚の上に戻したのだ。

「罰としてこの棚の上にずっといることね。私の可愛い幼虫を傷つけた罰だからね」

「なんの幼虫だよ糞野郎」

 棒読み程度に言ってやったが当然ながら動じないが、この女、まるで彼の言葉がわかっているかの様にこう返した。

「君がこの棚に穴を開けてしまった以上、この悪魔の幼虫は遅かれ早かれ君の体内に入って寄生してしまうわ。それも無数に」

「悪魔の幼虫ってなんだよ!?いいさ、これくらいの高さ簡単に飛び降りてやるんだ」

 百五十あるか無いかの高さくらい。


 わかっていた。

 ここからは窓が見えた。雪が張り付いてくるくらいの吹雪。天候が非常に荒れていてしかもここには暖房もヒーターも暖炉に火さえもついていなかった。

「寒い」

 あの飼い主がいなくなってからまだ三分もたっていないがこのうさぎにとっては長かった。余談だがこのうさぎには名前があり、飼い主からはうさ夫と呼ばれている。名前の通り雄うさぎだ。

 うさぎの唇は通常ピンク色をしているがうさ夫の唇は黒い。しかし病気という訳でも無かった。

 今うさ夫の真っ黒い眼は何を写しているのか。瞳の真ん中に白が写っていた。

 光の反射で無くそれは今、正に蠢き棚の亀裂から這い出ようとしていた。

「なんでこんな、ぼくはただいつもやっていることをしただけなのに…」

 悪魔と言われる謎の幼虫はうさ夫が開けた複数の亀裂から止めどなく涌いて出てくるではないか。

 うさ夫は一人(一匹)葛藤する。

 さっきから遥か下の地面と幼虫とを交互に見て、早く飛び降りなきゃヤバイと思いながらも足が震えて出来ない自分に苛ついている。

 大丈夫、ただ下へジャンプすれば良いんだ。

 でも足が折れたらどうしよう?

 大丈夫、でも…、大丈夫だって!、でもっ…。

 うさぎの骨が折れやすいことにうさ夫は何故だかよーく知っていた。

 一匹の白くてまるっこい幼虫がうさ夫の後ろ足に触れた。

「うわぁ」

 びっくりしてピンと耳を立てた時には上体が横に傾き半分宙に飛び出ていた…。


 ……。

 ぼくは助かったのかな?

 横倒しになった身体を起こし、軽く歩いてみた。

「良かった。ちゃんと歩ける」

 骨が折れていないことにホッとして辺りを見回すと直ぐにあの棚が目に入った。

 その上から何かがポトリと落ちた。

 うさ夫は慌ててこの場を離れた。


 くまのぬいぐるみはソファーに座ってテレビを見ていた。

 手は万歳をしている茶色のくまだ。テディベアとも言うが、この人形は彼女のお気に入りだった。

 彼女とは、うさ夫を棚の上に放置したあの飼い主だ。

 名はイグと言った。

―あのうさぎ無事かな?

―今頃寄生されて大変な目に遇ってるかも。

 イグはくまをジッと見て何を思っているかを想像して独り言を言っていた。

「寄生されたらとんでもない目に遇うよ~。あの棚みたいに穴ぼこに、いつまでも離れられなくなっちゃうよ~。ねー、くまさん」

 どこか困ったような顔をしているのは気のせいか?


 長い廊下。左右に規則正しく整列する扉の数々。

 どこも閉まっていて入れない。

 それでも別に良かった。一つだけ空いている場所を知っているから。

 そこは自分が空けた穴だった。それは暖かいリビングへと続いていたが、早速飼い主であるイグの声が聴こえた。

「誰と喋ってるんだろう?」

 口だけ動かして決して声には出さなかったが誰かと喋っている風に聴こえ、穴から暖かい空気が流れてくるが、見つかるわけにはいかないので中に入ることは出来なかった。

 後ろ足を掻けないのがもどかしい。

 うさ夫は今どうしようも無く後ろ足が痒いのであった。

「いーい具合だねー」

 突然どこからか声が挙がった。蚊の鳴くような声だったがうさ夫はビクッとし、慌ててその場を離れようとするが穴の向こうから、

「誰」

と聴こえ、観念したのか逃げるのを止めた。彼女から逃げるのは不可能であり、更に嫌な目に遇わされるに決まっているからだった。

 間もなくガチャリと扉が開き、くまのぬいぐるみを抱えたイグが現れた。

 目がうさ夫を捉えた。

「なんだ、勇気あるじゃない」

 意外だった。

「にしても君、言葉喋れたりする。さっき聞き慣れない声がしたから」

「おう、喋れるぞ」

 それを聞いたイグは手を合わせて喜んだ。

 が、うさ夫は必死で首を振っている。

「わあすごい!うさ夫が喋れるなんて。喋れたのならもっと早く言ってくれればいいのにっ」

「おう前から言おうと思ってたんだが、すまんな」

 イグはうさ夫の後ろに回った。

「こんなすごいうさちゃんなら生け贄にしなければ良かったわ」

 イグはうさ夫の後ろでしゃがんでいる。

「そんなこと言わないでくれよ」

「愚鈍」

「はい?」

 イグはうさ夫の左後ろ足首に手を翳した。この時うさ夫はメスを入れられる様な痛みを感じた。

「私のうさ夫がそんな風に喋るわけ無いでしょ!」


 ぎえっと聴こえ黒い塊が転がる。

 イグはそれを拾い、食べてしまった。

 うさ夫が呆然と見ていると、

「焼けば案外美味しいのよこれ」

と言って続ける。

「うぇ、食べる気がしないよ」

「君を寄生させるつもりなんて毛頭無かったわ」

 イグはうさ夫の言葉を理解できるようだった。

「ただ、イラッとしただけ」

「む」「ちょっとの勇気でその場を凌げるんだもの、密室でも無かったし」

「さっき生け贄にするって言ってたじゃないか!」

 その一言でイグは詰まった。くまのぬいぐるみが見上げた気がした。ただたんに揺すられた反動だった。

「だ、だって私の大切なくまを苛めるんだもの」

 イグは認めた。

 この仕草、声はまるで子供、うさ夫がひどく大人びて見えどっちが飼い主かわからなくなってしまったが恐らくこの中で一番大人なのはくまだろう。

 どんなことにも動じずただ万歳して無言なくまのぬいぐるみだろう。

「けっ、大人気無いったらありゃしねぇ」

 うさ夫とイグが同時にくまを見た。

 今くまの手は口に当てている。




おしまい

 最後まで読んで下さりありがとうございます!


 誰でも寄生されると嫌なものです。ましてや白い謎の幼虫がうぞうぞと這い出て迫ってくると。

 私的にこの幼虫のイメージ的にはG(ゴが付く害虫)が抱えている卵です。

 G以上に見たくないものですが、そんなものが無数に近付いてくると考えればうさ夫の気持ちもわかる筈です。

 悪魔の幼虫と言うのは、文中にもありましたが寄生すると喋れるようになります。寄生者の生命力に触発されて能力が開花されるのかは定かではありませんがどこに居座ろうが声帯を乗っとれるようです。

 よってこれに寄生されると寄生者は喋れなくなります。

 が、声は奇怪極まりない声なのでした。



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