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国起こしの六神子(むくにおこしのろくみこ)  作者: 文月(あやつき)


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第15話「国起こし」

主要人物

六神子ろくみこ

天候あまさふの神子 澪依みおり 12歳 風と天気を読む 海守の血筋

火降ひふりの神子 咲耶さくや 13歳 剣の達人 「火鷲ひわし」の末裔で荒ぶる血を持つ

結道ゆいみちの神子 羽津はづ 13歳 人と人、道と道を結ぶ 皆の母親的存在

森祝もりはふりの神子 若名わかな 12歳 動物や植物の声を聴く

音鎮おとしずめの神子 小依こより 11歳 最年少 笛で魂を鎮める

土開つちひらきの神子 紫乃しの 13歳 土を操る 小依の姉のような存在

 日が経つにつれ、宮を訪れる民は増えていった。


 贈り物だけではない。


 薬草を持ってくる者。


 祈りを捧げに来る者。


 おおきみの快復を願う歌を歌う者。


 様々な形で、民はおおきみを支えた。


  ◇


 ある朝、六人が門を出ると、見慣れぬ光景があった。


 民が、宮の壁を直していた。


「何しとるんですか」


 澪依が声をかけた。


「ああ、六神子さま」


 職人らしき男が振り返った。


「宮の壁、だいぶ傷んどるやろ。直させてもらおう思て」


「けど、誰にも頼まれてへんやろ」


「頼まれてへんよ。勝手にやっとるんや」


 男は笑った。


「おおきみさまは、税を取らへん誓いを立てはった。おかげでうちらは生き延びられた。けど、そのせいで宮を直す金もなかったんやろ」


「……」


「せやから、うちらで直すんや。金は出せへんけど、腕はある」


 別の男が言った。


「俺は大工や。あいつは左官。あっちのは檜皮葺(ひわだぶき)職人。皆、腕に覚えがある」


「おおきみさまに、きれいな宮で暮らしてほしいんや」


 六人は言葉を失った。


「……おおきに、ございます」


 澪依が頭を下げた。


「おおきみさまも、きっと喜ばはります」


「そう言うてもらえたら、ありがたいわ」


 職人たちは、また作業に戻った。


  ◇


「すごいな」


 若名が門前を見下ろして言った。


「毎日、人が増えとるよ」


「噂が広まっとるんやろな」


 澪依が答えた。


「六神子がおおきみさまの元に戻った。おおきみさまが弱っとる。皆で支えよう、て」


「宮を直す人も増えとう〜」


 小依が指差した。


 壁だけではなかった。屋根を直す者、庭を整える者、門の柱を磨く者。


 あちこちで、民が働いていた。


「民の力って、すごいんやな〜」


 小依が感心した。


「一人一人は小さくても、集まったらこないなことになるんや〜」


「それが国や」


 紫乃が言った。


「土も同じやで。一粒一粒は小さいけど、集まったら山になる」


「紫乃姉、詩人やな〜」


「うるさい」


  ◇


 十日が過ぎた。


 おおきみの容態は、目に見えて回復していた。


 床から起き上がれるようになり、食事も取れるようになった。


 宮も、見違えるようになっていた。


 壁は塗り直され、茅葺の屋根は葺き替えられ、庭は美しく整えられていた。


「おおきみさま、お加減は」


 澪依が問うた。


「だいぶ良くなった」


 おおきみは微笑んだ。


「民の心が、吾を支えてくれた。まことに、ありがたいことだ」


「宮も、きれいになりました」


「ああ。窓から見えた。民が、直してくれておるのだな」


「はい。誰に頼まれたわけでもなく、自分たちで」


「……ありがたいことだ」


 おおきみの目に、涙が光った。


「よかった……」


 澪依の目にも、涙が浮かんだ。


「ほんまに、よかった……」


「泣くな、澪依」


「泣いてへん。泣いてへんわ」


 澪依は涙を拭いた。


 五人も、安堵の表情を浮かべていた。


  ◇


「六神子よ」


 おおきみが言った。


「話がある。皆、聞いてくれ」


 六人は姿勢を正した。


「この国は、お前たちのおかげで救われた。根津日神を討ち、鎮め、祀ってくれた」


「おおきみさまの導きがあったからです」


「いや。お前たちの力だ」


 おおきみは首を振った。


「吾は、お前たちを送り出すことしかできなかった。戦ったのはお前たちだ」


「……」


「そして、民がこうして吾を支えてくれるのも、お前たちのおかげだ」


「うちらの……?」


「お前たちが各地を巡り、民の苦しみに寄り添った。だから民は、この国を信じることができた」


 おおきみは六人を見つめた。


「お前たちは、吾と民を繋ぐ架け橋になってくれた。それが、どれほど尊いことか」


 六人は黙っていた。


 おおきみの言葉が、心に染みていた。


  ◇


「これからも、その役目を担ってほしい」


 おおきみが言った。


「役目……?」


「この国を見守り、民の声を聞き、吾に届けてほしい。そして、吾の想いを民に届けてほしい」


「それは……」


「お前たちにしかできぬことだ。六つの御業を持ち、各地に縁を持つお前たちにしか」


 澪依は仲間を見回した。


 皆が頷いていた。


「……承知しました」


 澪依が答えた。


「うちらは、この国を見守ります。おおきみさまと民を繋ぐ、架け橋として」


「頼んだぞ」


 おおきみは微笑んだ。


「お前たちがいてくれて、吾は幸せだ」


  ◇


 数日後。


 おおきみは、民の前に姿を現した。


 修復されたばかりの宮の門前に集まった人々の前に。


「——おおきみさまや!」


「お元気になられた!」


 民が歓声を上げた。


 おおきみは、ゆっくりと手を上げた。


「皆の者」


 静かな、しかし力強い声。


「吾は、皆に支えられて、ここに立っている」


 民が静まった。


「税を取らぬ誓いを立てた時、吾は不安だった。これで国が保てるのかと。民を苦しめることになるのではないかと」


「……」


「だが、皆は吾を支えてくれた。贈り物を持って来てくれた。祈りを捧げてくれた。吾の命を繋いでくれた」


 おおきみは、修復された宮を見上げた。


「この宮も、皆が直してくれた。吾が何も言わずとも、皆は動いてくれた」


 民の中から、すすり泣きが聞こえた。


「ありがとう。まことに、ありがとう」


 おおきみの目に、涙が光った。


「これからも、共に歩もう。吾は民のために祈り続ける。民は吾の大御宝(おおみたから)である。皆でこの国を守っていこう」


「はい!」


「おおきみさま!」


 民が声を上げた。


 歓声と涙が、宮の前に溢れた。


  ◇


 六人は、少し離れた場所からその光景を見ていた。


「きれいやな」


 咲耶が呟いた。


「何が?」


「国が、一つになっとる」


 咲耶は微笑んだ。


「おおきみさまと民が、繋がっとる。これが、うちらが守りたかったもんや」


「せやな」


 澪依が頷いた。


「これが、国起こしや」


「国起こし〜?」


 小依が首を傾げた。


「初代おおきみが、この国を興した。それが国起こしや」


 羽津が説明した。


「けど、国は一度興したら終わりやない。何度でも、興し直さなあかん」


「根津日神に荒らされて、疲弊した国を、もう一度興す。それが、うちらの国起こしやったんやな」


 紫乃が言った。


「ええ名前やな〜」


 小依が笑った。


「国起こし〜。うちら、国を起こしたんや〜」


「大げさやな」


 若名がからかった。


「大げさやないよ〜。ほんまのことやもん〜」


 六人は笑い合った。


  ◇


 その夜。


 六人は宮の庭で、空を見上げていた。


 星が、きれいに輝いていた。


「なあ」


 澪依が言った。


「これから、どうする?」


「どうするて?」


「おおきみさまに言われた役目。この国を見守って、民とおおきみさまを繋ぐ」


「やるに決まっとるやろ」


 咲耶が言った。


「そのために、うちらはおるんや」


「せやけど、どうやって?」


「また旅に出たらええんやないか」


 紫乃が言った。


「各地を回って、民の声を聞いて、困っとることがあったら助けて」


「それ、ええな〜」


 小依が目を輝かせた。


「また皆で旅できるんや〜」


「今度は、戦いやなくて、見守る旅やね」


 若名が言った。


「そっちの方が、うちは好きやよ」


「うちも」


 羽津が微笑んだ。


「戦いは、もうええ。穏やかな旅がしたいえ」


「ほな、決まりやな」


 澪依が立ち上がった。


「明日、おおきみさまに報告しよ。うちらは、この国を見守る旅に出ます、て」


「おう」


「うん」


「ええよ〜」


「賛成やえ」


「異議なし」


 五人が答えた。


  ◇


 翌朝。


 六人はおおきみの元を訪れた。


「おおきみさま。お願いがあります」


「何だ」


「うちらを、旅に出してください」


 おおきみは目を見開いた。


「旅に?」


「はい。この国を見守る旅です。まだ見ぬ地を回って、民の声を聞いて、おおきみさまに届けます」


「……そうか」


 おおきみは微笑んだ。


「お前たちらしいな」


「行ってもええですか」


「もちろんだ。むしろ、頼む」


 おおきみは六人を見つめた。


「お前たちは、吾の目であり、耳であり、手足だ。この国の隅々まで、吾の代わりに見てきてくれ」


「承知しました」


 六人が頭を下げた。


「気をつけて行け。そして——」


 おおきみは言った。


「必ず、戻ってこい」


「はい」


 澪依が答えた。


「必ず戻ります。何度でも」


  ◇


 数日後。


 六人は宮を発った。


 師たちが見送りに来ていた。


「気ぃつけてな」


「無理すんなよ」


「困ったら戻ってこい」


 口々に声をかける師たち。


「行ってきます」


 六人は歩き出した。


 門をくぐり、道を行く。


「どこから行く〜?」


 小依が聞いた。


「いっぺん寄ったとこから回ろう。まずは拓土やな」


 澪依が答えた。


「土地がどれくらい回復したか、見てきたい」


「ほな、その後は樹ノ国やね」


 若名が言った。


「森の様子も気になるよ」


「文月も寄りたいなあ」


 羽津が言った。


「羽津姉、また泣くで〜」


 小依がからかった。


「泣かへんえ。多分」


「多分て」


 六人は笑った。


  ◇


 道を歩きながら、澪依は空を見上げた。


 青い空。白い雲。穏やかな風。


 あの日——宮を発った日と同じ空だった。


 けれど、今は違う。


 あの日は、不安でいっぱいだった。


 今は、希望に満ちている。


「澪依、何見とん?」


 咲耶が声をかけた。


「空。きれいやなあ思て」


「せやな。ええ天気や」


「うん」


 澪依は笑った。


「ええ旅になりそうや」


 六人は歩き続けた。


 この国を見守るために。


 民の声を聞くために。


 おおきみと民を繋ぐために。


 六神子の旅は、これからも続いていく。

「国起こしの六神子」をお読みいただき、ありがとうございました。

 この物語は、私自身が神社参拝を重ねる中で生まれた作品です。各地の神社を訪れるたびに、古事記や日本書紀に記された神々の物語に触れ、その壮大さと奥深さに魅了されていきました。神話の世界には、現代にも通じる普遍的な価値観や人間ドラマが息づいています。

 お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、この物語のモチーフは仁徳天皇の「民の竈」です。高殿から煙の立たない民家を見て、三年間も課税を停止したという慈愛の政治。これこそ日本の民主主義の原点だと感じました。

 そして六神子のモデルは、かつて大阪で活動していた六人組グループです。2016年に古墳や埴輪をテーマにした楽曲を発表し、私もよく聴いていたのですが、2019年の百舌鳥・古市古墳群の世界遺産登録で大きな話題になりました。

 今回は実験的に、正月休みを使ってAIを駆使して執筆してみました。ただ、出来上がる文章は現代語でまとまっているため、設定上使えない表現との戦いでした。仏教用語、現代語、建築様式の表現など、一つ一つ丁寧に修正する必要があったのです。

 逆に六神子には、あえて関西各地の方言をあてがいました。大阪、京都、紀州、摂津、播磨――設定の厳密さより、話し方で個性を際立たせたかったのです。いかがでしょうか。

 こうして、六人の神子たちがそれぞれの個性と能力を活かし、国を守り育てる物語が完成しました。彼女たちの成長と絆が、皆様の心に何か温かいものを残せたなら幸いです。


文月あやつき




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