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僕だけ居場所のない家から逃げ出した先で見つけた僕の本当の居場所  作者: ムラタカ


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第9話  弁当


いい匂いで朝目が冷めた。

パンの香ばしい匂いに味噌汁の匂いもする。

アパートの狭い部屋からは誰が台所にいるのかも見える。


「秋菜さん…。」


「おはよ、琢磨…登校までにはまだ余裕あるから寝てれば良いのに」


「目が覚めたら飯テロされてたんだ、空腹で眠気も吹っ飛んだよ」


「ふふ、現金なものね?ハムエッグトースト作ってるからお皿の用意をお願い」


「おお。」



テーブルの上には程よい焼き加減の食パンに卵焼、簡単なサラダが置かれている。

人の手作り料理なんて食べたのはいついらいか、ここ最近はコンビニで買ったパンとか弁当にカップ麺ばかりだったから骨身に染みる。



「ちよっと…大げさに喜び過ぎじゃない?そんな手の込んだモノ作って無いけど?」


「童貞非モテ男子には美少女が作った朝食は何より代え難い価値があるからな!」


「きも!」


「ひどっ!?」


「いいからはやく食べなさい!学校に遅れるわ」


「そう言えば秋菜さんはどのクラスなの?制服が俺の通ってる学校と同じだし同じ学校なのはわかるけど…?」


「私は3組所属よ?貴方は?」


「俺は6組…てか3組って特進クラスじゃん!秋菜さんて頭良いんだな」


「別に大した事ないわ…特進に入ったのも大学目的じゃなくて学費目的だし…」


「なるほどね…」



ウチの学校の特進クラスでは所属する生徒の可能性を信じて学費の一部免除が学校側の方則で実行されている。

この制度にあやかりたいと特進クラスの3組を目指す者も多いがそれだけハードルは高いのもまた当然で極限られた者しか入る事が出来ない。

かくいう俺も何度かチャレンジしたがまるで通用しなかったのが現実の辛さを物語っている。

そんな所に所属してるのだから彼女の学力は押して図るべきだろう。



「そうだ…琢磨貴方お昼は何食べてるの?」


「え?節約を兼ねて抜いてるけど?」


「駄目よそれじゃ…なら私が貴方の分のお弁当作るわね?」


「え?…いや、流石に悪いよ」


「気にしないで…1人分作るのも2人分作るのも大して変わらないわ」


「それならせめて材料費は出すよ」


「それもいいわ…どうせ私のお金はアイツに貰ってる物だし…それにこれから琢磨には何かと面倒をかける事になるからね。」


「…そう?…なら作ってもらおうかな…」


「えぇ了解したわね。」



女の人に手作り弁当を作ってもらう。

実の所コレがはじめてというわけではない。

昔は母さんや妹に元幼馴染みにも作ってもらっていた事があったけど母さんが再婚してからはめっきり無くなった。

理由は今更語るまでも無いだろう。 

だから異性の手作り弁当なんてまた食べられる日が来るとは思ってもなかったので少しばかり嬉しかったりするのだが彼女にそんな心情が知れるのは少しばかり気恥ずかしい。

意地があるのだ、男の子には。


それからしばらくして俺達は連れたってアパートを出た。

昨日の男がまたこの近くにいるのではないかと警戒したが彼女いわく


「アイツはものぐさでね、朝は可能な限り寝ていたいタイプの人間なのよ、朝食も取らないから貴方みたいに作って上げても喜ぶどころか逆に不機嫌になるの、だからわざわざ朝早起きまでして私を襲いには来ないわ」



との事だ。


まぁ意表をついて来る可能性は十分にあるだろうし可能な限りは守ってやらないといけないななんて思うのは果たして要らぬお世話なのだろうか…。

まぁ自殺を阻止するなんて最大限のお節介を焼いたんだからこのくらいは些事だろう。


そんな訳でそれなりに警戒しながらの登校だけど特にこれといったイベントが発生すること無く学校に着いた。

特進科と普通科では同じ3年でも教室はかなり離れている。

俺達は適当に別れ各々の教室へと向かった。


教室に入り自身の席に着席すると友人のタケルが話しかけてきた。


「おっす琢磨。」


「はよ、タケル」


「おっ?どうしたよ…なんか顔色いいな!?」


「へ?そうか?気のせいじゃないか?」


「いやいや、数日前と全然違うぜ?まえまではゾンビみたいな顔してたのに今は人間らしい生き生きとした顔してる!」


「前の俺はさながら新米警察官に鉛玉ぶち込まれそうな顔してたんだな、良かったよ人間に戻れて!」


「おう、人間はいいぞぉー、で?何か良いことあったのか?」


「良いことかどうかは分からないけど昨日人助けみたいな事をしたかな…」


「みたいな事を?」


「あぁ、人助けなんて結局は偽善の押し売りだろ?相手が助けられたがってるかどうかも分からないでやる人助けは要らぬお節介になる……みたいな事をしたってわけだ。」


「相変わらずまどろっこしい言い方だけどその感じだったら感謝されたって事だろ?良かったじゃん!」


「………。」


「どしたよ?」


「あ…いや、そっか…。」



タケルに言われて始めて気付いた。

そうかあの子は俺に感謝していた…のか…?

まぁ実際のところは当人にしかわからない事だけど少なくとも悪くは思われてないんだろう。

じゃなくては手作り弁当なんて持たしてはくれない。

彼女のなかで前向きな考えが出来るきっかけになってればこれ程嬉しい事はない。


それから時間はつつが無く進み昼休みとなった。

タケルは他クラスの彼女とこの時間を過ごしているので直ぐに教室から出ていくだろう。

いつも通り購買に買いにいく体で教室からでて何処か適当な所で弁当を食べよう。

教室で弁当なんて広げて要らぬ詮索とかされたくはないからな…と考えてたのだが……



「立儀くーん、お客様だよー!」


「うえ!?」


「立儀君はいますかー?」



教室の出入り口にて1人の女子生徒が俺の名前を呼んでいる。

しかし…


「やっぱりこのクラスに立儀なんて人いないよ?」


「そうなの?でも本人から6組と聞いてるんだけど?」


「立儀…立儀琢磨…?」


その女子生徒は立儀琢磨なる人物に心当たりが無いらしく路頭に迷うかの如く困り果てている。

そんな彼女に救いをだしたのは隣にいた友人だった。


「瀬川さんそれ多分中岸の事だよ、な?琢磨?」


「え?あ〜おう。」


「え?中岸君のことなの?」


「ようやく謎が解けてホッと安堵する女子生徒…もとい瀬川さん。

そしてその横から出てきたのは季空秋菜だった。



「探したわよ…琢磨?」


「わざわざどうしたんだ?」


「せっかくだし、お昼一緒にどう?暇でしょ?」


「う~ん…わかった行こう。」



俺は秋菜と一緒に教室を出る事にしたのだがタケルは少し驚いた顔をしていた。でも直ぐに面白いモノを見たぜみたいな顔になってコチラにニヤニヤした表情をしている。

これは後で追求されそうだ。



そのまま秋菜に先導されるまま向かったのはある教室だった。

なんでも去年までは文芸部の部室だったらしいが廃部してから手付かずのまま放置されている空き教室らしく今は元部員だった秋菜が口八丁で私物化している部屋らしい。そんなの可能なのか?


「琢磨って教室では中岸って名乗ってるのね」


「別に名乗りたくて名乗ってるわけじゃない、でも世間的には俺の名字は中岸だからな…仕方ない」


「じゃ…どうして私には立儀って名乗ったの?」


「中岸は猿の名前だからな…そんなの名乗りたくは無いだろ?」


「ああ…なるほどね…私もその気持ちわかるよ。」


「そうなの?」


「うん、私も今の名字は沙流だからね、琢磨と同じ事してたんだよ。」


「マジでか…」



どうやらお互い相当旧姓に未練があるようだ。

まぁそれもそうか…お互い今の姓には不快感しかないだろうからな…。



「そういえばその中岸兄妹…今まで興味無かったから知らなかったけど結構有名みたいだね?」


「ああ…、まぁあいつ等顔は良いからな…噂好きの学生には持って来いな話題製造機だろうな。」



元妹の愛莉は見てくれだけなら眼の前にいる明菜とも決して見劣りしないレベルの美少女だ。

一年のなかではトップクラスの美少女として有名で隠れファンクラブがあるくらいだし親衛隊みたいのまでいるのだから驚きだ。

しかし告白されたりはしていない。

何故かと言うとそれは義理の兄である蓮司の存在があるからだ。

蓮司は愛莉より一学年上の2年生でこちらも美少年アイドルと称される程に見た目が整っている。

無論その整いすぎた容姿から多くの女子にファンを作っていてちょっとしたハーレム状態だがそんな蓮司がより目をかけているのが義妹の愛莉だ。


血は繋がってないとはいえ二人は兄妹だ。

しかし深く愛しあう二人の仲では些末な問題だとこの学校の生徒達の間では今最も推したいカップルとして名を馳せている。



「でも貴方の弟…以前平然と私に言い寄って来たわよ?あれが愛する者がいる人間の対応とはどうしても思えないわ」


「当たり前だろ?アイツにとって愛莉は見た目の良い上質な穴に過ぎない…事実アイツは愛莉以外とも普通にやってる…元幼馴染みの明音や母とかともな…」


「母って…親でしょ?」


「血は繋がってないんだからあいつ等猿にとっては大した問題じゃないんだよ…」


「虫唾が走るわね…」


「それを学校の連中は見た目に騙されて理想の義兄妹カップルとか言って持ち上げてるんだから始末に終えないよ」


「気持ち悪いわね…」



義家族の話をしたせいか二人の間に気まずい空気が立ち込める。

内心琢磨はしまったなぁ…と後悔していると明菜が助け舟を出してくれた。



「で?私の作ったお弁当はどう?美味しい?」


「え?あ…おう!美味いぞ!てか明菜さんって何気に料理スキル高いよな?コレとか一見冷凍食品かと思ったら手作りだしこんなの作れるんだな」


「昔はやることなかったから基本勉強か料理の練習ばかりしてたのよ…まぁ…料理の練習は頭の中のイメージトレーニングでだけどね。」


「イメージだけでこんなの作れるんだ…才能って恐ろしい」


「別にそんな事無いわよ…」



頬を赤らめながら謙遜する彼女に普段は堅物なイメージがあるからかこんな顔もするんだなとか見方によっては失礼な事を考えてしまい自制する琢磨だった。


しかしこれが所謂ギャップ萌なるものかと感慨にふける…。

美少女とは小さな動作の一つ一つが様になるのだからある得な生き物だ。


「聞いてる?」


「へ?何が?」


「やっぱり聞いてないじゃない…」


「えっ…とごめん…それで?」


「就寝時とお風呂の時は琢磨の所にお邪魔させてもらうわ…1人だと不安だけど貴方の所だと安心できるって話してたのよ琢磨君?」


「お…おお…さよか、」


「ええ、そうよ。」



そうか〜就寝時とお風呂は俺の所かぁ…

いくらなんでも気を許し過ぎやしませんか…

俺だって男の子なんだけどな…。

まぁそれだけ信頼されてるってことなんだけど…




グッとある決意を胸の奥に密かに固め今後自分を強く持って生きていかないとなと改めて思う琢磨だった。



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