第3話 汚馴染み
バイト先は猿の巣窟こと家から電車2駅分程の距離にある小さな町工場だ。
移動費が勿体無いので基本的には自転車での往復でバイト先に向かっている。
学校が終わったら宿題を直ぐに終わらしバイトに向かうという生活が俺のライフサイクルだ。
宿題を後回しにするとバイト後はしんどいし夜は猿共がエキサイトして宿題どころでは無くなるから…。
この為部活などにかまけてる時間はない。
因みにバイトは今向かっている所の他に3つ掛け持ちでやっている。
バイト先ではローテーション方式が採用されてるのだがこれだと全ての時間を仕事場で埋める事は出来ない。
ローテーションの都合で仕事が無い日が必ずやって来るのでそういった無駄な日に別の仕事を入れようと思って悪戦苦闘した結果今の形に落ち着いた。
バイトは親父が死んだ時から始めていた。
母がまだ母親だった頃に毎日頑張っている母の事を思い少しでも母の負担を減らしたくてと始めたのが切っ掛けだが今ではあの猿の巣窟から抜け出す為の資金を貯める為にやっている。
こういった理由から俺がバイトをしているのは学校側も認知していて特に学校側のルール…所謂校則に引っかかる事はなく成績やらに影響はない。
もっとも今は母があの猿共と再婚したお陰でお金の心配は無いのだがあの猿共の巣窟から抜け出す為にバイトを続けている事までは学校側も認知はしていない。
別に報告する義務も義理もないし、バイトが出来なくなったりしたら困るので黙っているのが1番だ。
中学から貯めた貯金は中々のモノで1人暮らしも十分に可能な額がある。
もっとも実際に1人暮らしを始めれば直ぐに尽きるのは目に見えているので継続する事が力となるだろう。
因みに父方の祖父母は僕にとっては唯一の味方だ。
1人暮らしを始めるマンションも祖父母が見つけてくれたし家賃の何割かは祖父母が出してくれる。
祖父母は辛かったら一緒に暮らさないかと言ってくれたが自分で決めた事を投げ出したく無かったので今の状態を貫いてる。
投げ出してしまえばあいつ等と同格になってしまうのが嫌だったのとこれ以上祖父母に迷惑をかけたくなかったから……。
まぁ家賃の何割かを負担してもらってる時点で迷惑をかけてしまってるのだが…。
「おはようございます。」
職場についたら挨拶は忘れない。
社会人の鉄則らしい、家ではここしばらく挨拶なんてろくにしてないのであいつ等は社会人失格だろう。
「はよー」
「うす」
「おはようごさー」
「おー」
皆それぞれ個性的な挨拶を返してくる。
働き始めてわかったのはどのバイト先もこの辺アバウトで挨拶を互いにやったという認識が大事なようで挨拶が多少雑でも大した問題ではないらしい。
皆成人してるか大学生くらいが主で俺みたいな高校生はいない。
職場的にも人生においても皆俺にとっては先輩である。
敬意を持って接していきたいがジェネレーションギャップはいかんとともしがたくパチンコや競馬の話にはついていけない。
そもそもややおたくのきらいがある俺は野球や昔のドラマや映画の話にもついていけないのだった。
だからこそ結果的には仕事を真面目に熟すのが1番の時間の潰し方となるのだが周りからは若いのに真面目だなという評価を受けてしまってなんとも言えない気分だ。
「中岸君は真面目だよなー、もう少しテキトーでいいんだぞ?仕事なんて!」
「え?あ…いや、あはは…」
「コラ!山田!テキトーな事いうな!中岸はコイツの言う事真に受けるなよ〜、」
「いやいや中岸君、大人になるためにも適度に手を抜く事の大事さを肝に銘じておけよ〜。
ずっとフルスロットルだと疲れるからな〜、おっさんからの忠告だ〜。」
「あはは、ありがとうございます。」
俺はそっと先輩のおじさんから距離をとる。
親切心なのだろうが距離を詰めれるとどうしていいかわからない。
昔はこんなんじゃなかったのだが最近は他人に対して過敏になっているのかもしれなかった。
離れていく中岸君をみながら先輩のおじさんははぁ…と溜息をついた。
「最近のガキはナイーブだなぁ…」
「あぁ、中岸君はちと訳アリでね」
「訳アリっすか?」
「ああ、ここでバイトしてるのも家に帰りたくないのが根本的な理由らしい。」
「家に帰りたくない?俺が中岸君くらいの時は直ぐに家に帰りたいって思ってましたけど…」
「彼、家族と上手く行ってないらしい、だからかな」
「家族とねぇ…どうせ下らないケンカとかでしょ?」
「うーん、それなら良いんだけどね、」
二人のおじさんは中岸君…琢磨を遠巻きに見やりながら溜息をつくしかない。
年頃のナイーブな少年に下手なアドバイスなどありがた迷惑以外の何でもないと理解しているから。
だからおじさん達は彼を見守るしか無かった。
「今日は上がってもいいぞー」
「え?あ…はい…お疲れ様でした。」
チームリーダーの仕事終了の合図により今日のバイトは終わりとなった。
仕方なく帰り仕度に取り掛る。
仕事を終わらせ家路につく。
仕事はすぐに終わってしまった
3時間ほどの仕事だがやってるとすぐに終わってしまう。
家に帰りたくないと言う思いが時間の経過をより速く感じさせている。
体感5分くらいだ。
家に……猿の巣に帰るのは気が滅入る
また家の中の誰かと出会したなら何かしらの会話をしなければならない。
それが嫌で仕方ない。
僕だけ何故……こんな思いをしなければならないのか……。
昔の事をついつい思い出してしまう。
「タク!ありがとう…その嬉しい。」
頬を赤らめ嬉しそうにはにかむ幼馴染みだった少女の顔がいまや遠い過去だ。
当時互いの誕生日にはプレゼントを渡し合っていた。
互いになけなしの小遣いを使った安物のプレゼント。
だか子供ながらに奮発して買った誕生日プレゼントの数々。
それを毎年あの少女は嬉しそうに受け取ってくれていた。
俺にとっては忌まわしいだけの記憶。
今やそんな悍ましい行いはおこなわれてはいない。
僕にとっての黒歴史だ。
「黒歴史じゃお釣りがくるな…。」
なんて皮肉をぼやく。
帰りたくないと言ったところでただの高校生でしかない俺には家に帰るしかない。
もう少しの辛抱だと心にそう言い訳して。
「………。」
家に着いてしまった。
電気はついているが誰かの気配はない。
昔はただいまと言って入っていたが今はそんな事を言わなくなった。
言う相手がいないのだから仕方ない。
挨拶は人間同士で使う物だから。
そそくさと部屋に行こう…っとその前に手と顔を洗って
あわよくば風呂に入っておきたい。
連中が家にいない?今がチャンスだ。
そう思って風呂に向かったのがいけなかったと気付いた時にはもう遅い。
「うわ!?」
「きゃあ!?」
「はぁ…最悪だ…」
風呂場の脱衣所には二人の男女がいた。
1人は義兄、そしてもう一人は…幼馴染み……だった女だ。
脱衣所という場所から想像出来ると思うが二人とも一糸纏わぬ姿で義兄は股間のゾウさんが屹立していた。
女の方も汗ばんで髪が肌に張り付いていて今まで何をしていたか一目瞭然だった。
学校から帰って速攻で合体していたのだろう、お盛んな事だ。
「いつまで見てんのよ!この変態!早く出ていきなさいよ!」
「ここは俺の家でもあるんだ、こんな所で…他所様の家のなかで素っ裸でいるお前のほうが変態だろ?」
「はぁ!?私は智也さんの許可貰ってんのよ!つーか何手とか洗ってんのよ!出て行けっていってるの!頭沸いてんのアンタ」
「はぁ…うるさいな、手くらい洗わせろよ」
「とかなんとかいってアンタ私の裸みたいだけじゃないの?ふふ、みっじめ〜」
「誰がお前の気持ち悪い体なんかに興味もつかよ」
「おいおい負け惜しみか?琢磨見苦しいぞ?」
「……つっ、あん、智也さん…」
「こんな良い女に興味無いなんてお前、EDか?」
「笑える…人のお下がりでマウントとるなよ?」
「強がるなよ琢磨?え?羨ましいんだろ?え?」
「智也さん、うぁん…」
「ちっ…」
俺はそのまま逃げる様に脱衣所を後にした。
脱衣所から二人の笑い声が聞こえるがそんなものは気にしない。
バイトの帰り道に幼馴染みとの過去を回想したのがフラグになったみたいだ。
でもこんなあからさまなフラグ回収なんて求めてない。
もう今日は風呂はいい、あんな気持ち悪い奴らが使った後のフロなんて使いたくない。
でも気持ち悪い…バイトで汗水ながしたから風呂には入りたい。
近場の銭湯に行くことにしてその日は眠りに付いた。
耳栓をしてからマクラを頭から被って身を丸めて無理矢理寝た。
もう嫌だ、こんなの…。




