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僕だけ居場所のない家から逃げ出した先で見つけた僕の本当の居場所  作者: ムラタカ


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第26話  Vチューバー

ここはとある大学の中庭である。

だだっ広い敷地面積をもつ広大なキャンパスには多くの大学生がひしめき合っている。

そんな中で中庭の質素なベンチには二人の男女が座っていた。

1人は中肉中背よりやや細い体型の眼鏡をかけた男。

勉強はそこそこ出来る器用貧乏タイプの人間でアニメが好きなオタクだ。

彼はアニメオタク特有の被害妄想から自身の趣味嗜好が周りに知られることを本能的に畏れていてバレたくないと思っている。

が醸し出す雰囲気から簡単にオタクであると見抜かれやすいタイプの人物だ。


そしてもう一人は黒よりの茶髪に厚めの化粧をしたギャルっぽいイメージの女性だ。

厚化粧だが美人に分類される人相をしてるため化粧に振り回されない程度には様になっていた。

しかし声質はそんな外見からイメージしにくい高い高音の持ち主で昔はそれがコンプレックスだった。


この正反対の印象を持つ二人の繋がりはVチューバーと呼ばれる配信業に関わる。


実はこの厚化粧の女性は近々Vチューバーデビューを予定していた。

しかし配信業自体は高校生の頃からやっている配信経験者でLive2Dモデル等を活用するVチューバーではなく生身での配信を顔を隠して趣味でやっている。


自分の声質にコンプレックスを持っていた彼女だが親戚に配信活動をしている者がおりその者の勧めで配信者をはじめた。趣味で地道に活動していたがそれが良かったのかじわじわと視聴者を獲得しそこそこの人気を得ることとなった。

高校生の頃あれだけ馬鹿にされたこの声が多くの人から褒められ人気に繋がったのは彼女にとっては喜ばしい誤算だったが声と顔のギャップから視聴者が離れる事を危惧していた彼女は顔隠し配信を主として配信していた。

が大学に入りVチューバーの募集をしていると聞きVチューバーならアバターモデルを前に出せば自分の顔を見られる事もないと考え応募する事とした。


そこで出会ったのがアニメオタクの青年、三浦啓太先輩だ。

彼はVチューバー事業を大学卒業後にはじめようと言う中岸先輩の手伝い…アシスタントみたいな事をしていて色々な事を相談などして親しくなっていった。


大学内にも多くの配信経験者や配信してみたいって子、声優志望の子が沢山いて彼女達は厚化粧ギャル…佐原祐希にとってもライバルであり戦友といった間柄だった。


そうして大学生活を送りながら個人として配信者を続け自身のVチューバーデビューを彼女は心待ちにしながら日々を送っていた。

  

そして初めて事務所に行った日。

彼女が想像していたようなキラキラしたモノはそこには無く、それどころか嫌悪すらするモノがそこにはあった。



事務所の代表者である中岸先輩は事務所の中をまるで王様にでもなったかの様に我が物顔でのさばっていた。

タレントとして雇った子たちにセクハラしたり手伝いにきていた三浦先輩に文句を言ったり罵倒したりしていた。

見た目はインテリタイプのイケメンで女ウケする外見なため基本陰キャが多い配信者や声優志望の応募者にセクハラしても誰も声を大きくする人達がいないのも彼を増長させる要因になっていた。

まぁ…一部には彼の顔や仕草に籠絡された子達もいて目がハートマークになっていたが。

そんな子達を周りに侍らせて今日も中岸先輩は三浦先輩をイビっていた。




「はあ?巫山戯んなよお前?」


「いや、だから預かってるだけのお金じゃ足りないんだよ…」


「だから巫山戯んなよ!アレだけ渡してるのに何で足りないんだよ!…まさかテメェ俺を騙そうとしてるんじゃね〜だろーな?あ?」


「いや、前もいっただろ?保証金や共益費に仲介してくれた人への手数料とか家賃や電気代払ってるだけじゃだめなんだよ!」


「はぁ…だったらお前が払えよ!」


「はぁ!?無理だよ僕そんなお金ないよ!」


「無いよじゃね〜だろ?いいのか俺に口応えして?あのデータばら撒くぞ?」


「そっ…そんな……」


「あーあ、たく、今回は俺が金だしてやるから今度からはお前がなんとかしろよ?」  



そう吐き捨ててこの事務所の自称社長は三浦先輩に命令してそのまま出て行った。



「ふざんなよはこっちのセリフだよ…どうして僕が…」


「三浦先輩大丈夫?」


「あ…佐原さん…」


「あの…今のって…」


「ごめん…見苦しい所を見せちゃったね…」



三浦先輩はバツの悪そうな顔をしながら視線を逸らした。

周りにいる子達も目を逸らしている。

ここにいる者達みんなの共通認識、それは本当にこのままで大丈夫なのかと言う事。

中岸先輩は経営者として向いてないのは誰から見ても明らかで面倒事を全て三浦先輩に押し付けていた。

その癖、自分は女を侍らせ王様みたいに命令するだけで何もしない。

なにより三浦先輩をまるでモノ扱いなあの態度には人間性を疑わざるをえない。


中岸智也は現状この事務所の代表者で賃貸契約も彼の名義でやっている。

彼の意思でそうしているわけで三浦先輩はただの協力者で協力してくれている三浦先輩に謝礼を払っても良いくらいの立場だ。

なのに感謝や労いがなくむしろお前が払えはお門違いも甚だしくないか?


「気にしないで、いつもの事だし…。」


「いつもの事って…あんなの…」


「……。」


私は配信をここでやっていって本当に大丈夫なのかと言う不安を一層強めるのだった。





それからしばらくして私は三浦先輩から信じられない話を聞いた…。

三浦先輩から聞いた話は私を驚愕させた。

中岸先輩の会社経営は100%破綻すると言うものだ。

理由を問うた所彼のお金の出所は株や投資でたまたま大金を得たと言うものでソレを使いきったらあの人は手持ちがすっからかんになると言うだけでなく今後大きな借金を作る可能性すらあるんだって…。

そんなの開業と同時に倒産も冗談にならないレベルであり得る話で私は強い危機感を感じていた。


いや、おかしいとはずっと思っていた。

一介の大学生が卒業後に会社経営なんて本当に出来る物なのかと…まぁ実際の話、若くして会社経営を実際にやってみせたなんて話は過去の事例に全く無いって訳でも無いんだろうし、それだけの才能が中岸先輩にはあるんだろうと思いたいけど日々の態度ややり取りからあの人にはそんな才能も能力も責任感も無いと解ってしまった。


「そ…それって…大丈夫なんですか…?あの人会社を立て直す気とかあるんです?」


「正直立て直すのは無理だと思う…募集に集まった人達には気の毒だけど…でも安心して…事務所所属にはしてあげられないけどせっかく作ってもらったLive2Dモデルや各種素材を無駄にしたらモデラーさんに失礼だしね…そこはせめてタレントさんに流せる様にしたい…」


「Live2Dのモデルって貰えるんですか?私そんな大金持ってないですよ?」


VチューバーのアバターであるLive2Dモデルは作成にそれなりの手間と時間を要する。

制作依頼にはそれなりの費用がいるのは常識だと思うがソレをただで配るというのか?

どう考えても変だ。


「Live2Dモデル自体の作成依頼と支払いは済んでるから手元にはあるんだ、ただ事務所が無くなればせっかくのLive2Dモデルも使う事が出来無いしね,なら個人配信に使って貰った方がマシだ」


「でも…それって中岸先輩に所有権があるんですよね?大丈夫なんですか?」


「一旦データーは僕が彼から買い取るよ…」


「そ、そんな…そこまでしてもらうわけには…」


「大丈夫…お金の宛ならあるからね…」


「……?」



こうして私は早い段階でこの事務所から離籍した。

そもそもなんの活動もしてなければお金も1円たりとも貰っていないのだから向こうは私を止める権利もない。

そして大体の子達も足早に事務所を離籍していった。



そして冒頭のベンチのシーンに戻る。

三浦先輩は本当にLive2Dモデルのデーターを引っ提げてソレを私達に配ってくれたのはいい意味で誤算だった。



「良いんですか?本当にただでもらっても…」


「いいよ…ただしそのモデルを生かした素晴らしい配信をしてくれ!」


「なんか、わかんないけど了!任せてよ!」



大体の子達は酷い目に遭ったと嘆いていたがただ同然でモデルが貰えた事には満足していたし三浦先輩はそれで良い配信をしてくれたら僕としては本望だとそう語っていた。


それから暫くして事務所は本当に契約が解除され中岸先輩が建てた会社はマジで倒産した。 いや、倒産といえるのか?

1円も利益を出していない会社なんて会社と言って良いのかすら怪しい。

中岸先輩は多額の借金をしているらしくそれの返済やらなにやらで私達にかまけてる時間も猶予も無いらしい。


後から聞いた話だと三浦先輩は中岸に弱みを握られそれで脅され嫌々彼の手伝いをさせられていたらしい。

それであんな扱いを受けていたのだから嫌にもなるだろう。





それから暫くして私はVチューバーとしてデビューした。

なんと裏方には三浦先輩が手伝ってくれていてモデレーターとかまでやってくれている。

当初の予定の事務所所属とは違い未だ個人勢だがやはりVチューバーは凄い。

チャンネル登録者数や同時接続数が一気に増えたけど三浦先輩いわく


「この完成度の高いモデルと佐原さんの萌声が合わさればこの程度の接続数は予定調和だよ、いやはやモデルを無駄にしなくて本当に良かった。」


とのことだ。

彼は私以外にも事務所に応募し中岸側に回らなかった3人の配信者にモデルを無料提供していて何処にそんなお金があったのかわからないが彼自身はとても嬉しそうだ。


彼はああ言っているが纏まったお金が出来たらモデル代を彼に支払おうと思う。

それがせめてもの義理であり恩義だと思うから。




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