第25話 中岸智也と夏芽明音の亀裂
ここは中岸家の長男である智也が住む部屋。
智也は頭を抱えていた。
その様は何かに苦悩している様だった。
彼は大学を卒業したら起業し会社を立ち上げそこの社長となってとある業界に君臨するつもりでいた。
ちなみに彼が手を出そうと考えている業界とはVチューバー業界である。
声優志望の女性や有名配信者達を募り甘ごとを言って自身が卒業後に立ち上げる事務所にて専属契約をしタレントとして売り出す三段である。
今やVチューバーは多くの利益を生み出すトップジャンルであり、箱売り(企業所属タレント同士で売り出す事)すれば馬鹿なオタクが勝手にてぇてえとか言って金を出す手堅い商売だと彼は考えている。
自分は何もしなくても配信者達が勝手に金をオタク共から巻き上げて俺に献上してくれる。
まさに完璧で究極の計画だ!
と彼は考えているが今やVチューバー戦国時代と揶揄されている時代だ。
売れているVチューバーはごく一部、ほんの一握りで今やVチューバー同士が人気を巡って熾烈な生存競争を繰り広げそこに生き残れなかった者は卒業という名の引退を余儀なくされる。
Vチューバーは少しユー◯ューブを開けば星の数程その姿を拝見する事が出来てしまえる時代。
皆どうやれば同時接続数が稼げるかどうやればチャンネル登録者が増えるかどうやればライバルより上に行けるかそれを日々計算し熟考し身を粉にして配信業を熟している。
そんな簡単な業界で無いことは誰の目にも一目瞭然だった。
無論配信にはパソコンや各種インターフェースや防音環境設備や場合によってはモデルを動かす為のトラッキングスーツやそれで得たモーションなどを活用しモデルを自由に動かす為の設備もいる。
多くの物が必要不可欠となるのだ。
正直智也はそこらへん全くわからないし興味もない。
学ぶ気もない。
Vチューバーが稼げる。
そんな漠然としたイメージで彼はこの業界に参入しようとしている。
何故V界隈をビジネスの場として選んだかと言うとそれは実に単純。
売れそうと言う漠然とした物もあるが一番大きいのは琢磨が関連していたりする。
琢磨は割りかしオタク趣味でありVチューバーにもそれなりに詳しい。
智也は琢磨から物理的にも精神的にも好きな物を奪って精神的苦痛を与えてやろうとそんな気持ちからVチューバー事務所の社長になろうと考えた訳だ。
しかし彼には全く知識が無いし学ぼうという気持ちもない。
あるのはボロ儲けしたいという野心と琢磨をコケにしたいと言うネジ曲がった性根だけである。
そもそも彼はオタクを馬鹿にして見下しているしVチューバーを低俗な娼婦みたいなモノと見下している。
そんな彼が目をつけたのが大学内で見つけた陰キャガリ勉眼鏡の同輩であるオタク君だった。
智也はオタク君を呼び出しある部屋に招き入れそこに待機させていた明音を使いさもオタク君が明音をレイプしている様な写真を取りそれを利用して彼を脅し無償での協力を強要した。
断ればこの写真を拡散すると彼を脅して。
大学生が女子高生に性的行為を強要しているとも取れるその写真は彼を脅すにはうってつけだった。
そうして智也はオタク君を馬車馬の様に酷使して奴隷の様にこき使った。
配信者の募集や各種機材のリストアップに絵師やLive2Dモデラーや事務所となる土地や建物の選定やら何から何まで彼にやらせちゃんとやらなければ写真を拡散すると脅した。
そしてたまたま株で得た大金とそれとは別の方法で得た大金を使いローンまで組んで先行投資として事務所となる建物や各種機材を購入しタレント達をここに出社させて自分の好みの女と肉体関係を持ったりして好き放題やっていた。
流石にこれだけ金を使えばあれだけあった貯金も底をつくどころか若干の借金まで作っていたが株であれだけ簡単に金を稼げたのだ。
今の自分なら向かう所敵無し!
なくなったならまた稼げばいい。
まさに彼は無敵の人状態だった。
しかし彼の快進撃はここでストップする。
まず最初に投資していた秋菜の義父の会社からの利益が全く見込めず0どころかマイナスの損益を出し借金を作る羽目になる事となった。
しかもその額三百万とかなり痛いが彼にはその他にも投資している企業があるから大丈夫…とは当然ならなかった。
彼が投資した企業は殆どがダミー…つまりは存在しない架空の企業で見事金を騙し取られ事務所やLive2Dモデル代に各種機材を購入するためのローンを合わせれば約800万もの借金を作ってしまっていた。
ここに各種税金等も加算されるのだから当然購入した事務所などは手放さなければ更に借金をかさ増しする事になるし募集をかけていたタレント達からは無能呼ばわりされボロクソに言われ散々な惨状が出来上がっていた。
ここに来て更に悲劇が彼を襲う。
手を出していたタレントの1人が事務所とは関係の無い配信で炎上したのだがその内容がまた酷いものだった。
関係ないなら基本的にノーダメだろうと思うかもしれないが彼女は現在とある事務所に在籍しているその界隈ではかなり有名な企業勢Vチューバーなのだがあろうことか自身の配信中に自分が近い内に離籍し他事務所に行く事を暴露。
それだけでは飽き足らず離籍後は社長さんと愛し合いたいからみんな応援してねと処女厨のファンが多いVチューバーの配信で血迷ったとしか思えない発言をして当たり前に炎上した。
そして炎上の火の粉は智也にも当然来る。
ただ炎上しただけではなく彼女は配信中に他事務所の社長と付き合うと明言したのだ。
これにより彼女が所属していたVチューバー事務所から責任を問われ慰謝料を請求されてしまう始末に発展した。
当然この問題を引き起こした彼女は問題を追求されその事務所を追放された。しかし彼女は殊の他生き汚く引退後はメンヘラ逆ギレビッチVチューバーとして逞しくも新たなスタートを切るのだがそれはまぁ関係ないから良いだろう。
そう言ったなんだかんだの末、彼が持つ借金はめでたく一千万を軽く越え智也は毎日吐きそうな思いをしながらそれを家族にも明音にも言えないまま泣きそうな日々を送っている。
彼が頭を抱えているのはつまりそういう理由なのだ。
たかが卒業を目前に控えた大学生に返済出来る額を軽く凌駕している、智也個人になんとか出来るレベルを超えていた。
こんな事がもし親にバレたら勘当されてしまう可能性は十分に高いが同時にすがれる相手もまた親くらいしかいない。
まぁ…この頃の両親達は蓮司が引き起こした問題を沈静化するために蓮司が手を出した女生徒の自宅への謝罪巡りに奔走されていて智也の状況等には全く気づいてはいない。
いや気づいたとしてそれがどうなるのか。
蓮司の起こした問題と比べて智也の問題は笑い事では済まされない。
もはやメンツとか立場を気にしている余裕すら無い問題なのだ。
だから智也は内心ほっとしていた。
自分の死刑判決の時間に若干の猶予が出来たのだから。
もはや智也に出来ることは自分の不始末が親にバレない様にする事となんとかなるさと楽観的に考えて現実逃避するくらいだった。
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夏芽明音は最近違和感を感じていた。
何に対して違和感を感じているかと言えばそれは彼女が現在愛する彼氏、中岸智也に対してだ。
智也は彼女にとって理想とも言える男性だ。
子供の頃から見てきた幼馴染みの男の子。
なよなよしていて頼りなく女々しいだけの男の子。
父親が死んでから一層女々しさに磨きがかかったアイツに私は嫌気がさしていたんだ。
それに比べて智也さんは大人の男性だ。
一見すれば細身だが良く見れば適度に筋肉質で頼り甲斐のある体付きと知的で大人らしい顔付きのイケメン。
態度も常に冷静で余裕があって男らしい。
あの軟弱な幼馴染みとは何処もかしこも真逆の彼女にとってはようやく現れた理想の体現。
それが中岸智也なのだ。
しかしここ最近の彼にはその威厳がない。
何処か落ち着きが無いし余裕がある様に取り繕ってる様に見える。
目は忙しなくギョロギョロ動いてて冷や汗をながし常にイライラしている。
そのザマはお世辞にも余裕ある大人の男性に見えない。
普段の彼と今の彼には明確な違和感があった。
その違いは一目瞭然だが原因だけはわからない。
一度当人に聞いて見たが何でもない、心配いらないの一点張りで教えてはくれないし、それに反して日に日にイライラが増している様でとても聞き出せる雰囲気では無かった。
しかしそんな事は彼女にはどうでも良いのだ。
学校内で彼と会うことは無い。
彼は大学生で自分は高校生。
学校にいれば彼と会わなくて済むしあの不様な智也を見ないで済む。
明確に今の智也には魅力を感じていなかった。
最近イライラしていてそれが態度に露骨に出ている智也と一緒にいるのは疲れるし楽しくない。
なにより不愉快だ。
今の智也には余裕がない。
大人の貫禄が無いしなんだかちっぽけに見える。
今の彼は明音が求める理想から程遠かった。
だから会いたいって思えなくなっている。
そんなわけで物理的に会えない場所にいるのは安心出来るのだ。
出来るのだが…
彼氏からの扱いが悪くなると腹が立つ。
最近の彼はあからさまに何かしらの悩み事を抱えているのにそれを相談もせずにずっとイライラいじいじしている…オマケに八つ当たりまでしてくるのだから質が悪い。
このイライラをどう発散してやろうか。
そんな事を考えていると良いカモが見つかった。
沙流秋菜を中庭で見つけた。
琢磨もいっしょにいるようだ。丁度良い。
沙流秋菜は琢磨の事になると直ぐに感情的になる。
マウントをとって琢磨をこき下ろしてやる。
私は中庭で仲良さそうにしている二人にちょっかいを出しに行ってやった。
「こんにちわ〜二人とも」
「へ?明音…!?」
「……。」
思わぬ介入者し裏声で驚く琢磨
それとは対象的に興味無さげに明音を見る秋菜
その目が明音には気に食わない。
「二人共相変わらず仲良さそうね?中庭でお弁当?」
「おっ、お前には関係ないだろ?」
「そんな連れない事を言わないでよ?私達幼馴染みなんだからさ?」
「俺はもうお前を幼馴染みだなんて思ってない」
「悲しいなぁ〜♪私は今でも琢磨の事を幼馴染みとおもってるよぉ♪」
「よく言えたもんだな…頭の中までペニスで出来てそうな奴に靡いて散々こっちをコケにして来た奴が今更幼馴染みヅラして来てもウザいだけなんだよ」
「ふふん!負け犬の遠吠えね、アンタみたいな弱虫じゃどうがんばっても智也さんには敵わないわよ!」
「そうね、琢磨じゃあの男…智也には敵わないでしょうね」
「え?」
「あら?」
意外にも明音の言葉に秋菜が便乗する。
まさかの秋菜の裏切りに琢磨は顔を真っ青にしているが…
「ふふ、そんな可愛い顔をしないで琢磨、思わず興奮しちゃうじゃない…安心して…私が言ってるのは別の意味でよ?」
「か…かわ…、べ…別の意味?」
「ええ、琢磨では敵わないわ、あの男の自滅へと向かう才能にはね?」
「自滅…?」
「なっ…何言ってるのアンタ?智也さんが自滅…?」
「あら?心外って顔をしてるわね?」
「当たり前じゃない!智也さんが自滅?そんな事あるはず無いじゃない!智也さんはとっても大人でとっても賢いの!アンタがどれだけ賢かろうが智也さんには及ばないわよ!」
「ええ…私は自分を過信したり驕ったりはしないわ、私なんかより優れた人は沢山いるものね?例えばあの男の自滅の才能とか?」
「まだ言うの!何を根拠にそんな事を言ってるの!智也さんが自滅なんてするわけないだろうが!」
「ふふ、そんな事を言ってはいるけども貴方、心当たりがあるんじゃないの?」
「え…?」
心当たり…明音は秋菜にそう言われてたじろいだ。
心当たりがあったからだ。
あり過ぎたからだ。
ここ最近の智也の取り乱しよう。
余裕がなく常にイライラしている姿を何度も見ている
この女はその原因を知っている?
「何だっていうの…よ…?智也さんが自滅…?智也さんは自滅…するの?」
「ふふ、直接当人に聞けば良いじゃない?智也さんは自滅するのかって?」
「そ…そんな事できるわけ無いでしょお!!」
「それはそうね、ごめんなさいね?」
「ぐぅ~!バカにして!」
「心当たりがあるなら早いところあの男と縁を切る事ね?じゃないと貴方…人生を棒に振る事になるわよ?」
「は?…それどういう意味よ…?」
「後は自分で考えなさいな?じゃあね」
「ちょっ!待ちなさいよ……くそ!」
秋菜と琢磨は明音を残してその場を去っていった。
取り残された明音はただ呆然と立ち竦むのみ。
自滅…?
縁を切る?
人生を棒に振る?
智也さんはいったい何をしているんだ…
あの落ち着き用のない姿
あの常に挙動不審な姿
常にイライラした姿
そうか…あの人は何か取り返しのつかない事をしてしまったんだ…。
何を…やらかしたんだ…。
あの男は…




