第21話 利用
秋菜は先日とは別の喫茶店にいた。
子供が入るには敷居の高い…いや高過ぎる雰囲気の喫茶店にいた。
あの男もやろうと思えばこういう店に招待する事も出来たろうが流石にそんな甲斐性はあの男にはない。
つまりは流石は年の功とでも言ったところか、秋菜の対面には秋菜の義父がすわっていた。
男は疲れた顔をしている。
以前の様な覇気はもはや無い。
意外にも秋菜から連絡してきたことに男は驚愕した。
しかし蓋を開ければ喫茶店でお話したいと言いだしたのだから意味がわからない。
あの少年は男が何もしない限り男の所業は黙っていると言ったが秋菜には話したのか?
何方にせよ訴えられてしまえば一環の終わりだ。
しかし訴えようと思えば出来る環境に彼女はいた。
つまりは秋菜は母親の幸せを優先して自分を殺して生きて来たのだがあの少年との出会いがその考えに陰りを生じさせたのかもしれない。
義父はおっかなびっくりでこの場にいる。
そこに待っていたのが何を考えてこの場を望んだのか皆目検討もつかない義理の娘…秋菜だ。
「秋菜…あの様な話を僕に聞かせて君は何がしたいのかな?」
「たまにはお義父様との団欒を楽しみたいだけですよ?」
「良くいうね。」
秋菜は先日の中岸兄、智也との会話を録音した音声を義父に聞かせた。
義父の顔は面倒な事をやらされそうだという予感をひしひしと感じている事をまったく隠していない。
それはそれは嫌そうな顔をしていた。
「で、もう一度聞くけどコレを僕に聞かせて君は何がしたいんだい?」
「単刀直入に言えばこの男を潰して欲しいのよ」
「そんな面倒な事を僕がするとでも?」
「貴方の弱みは握っている、その歳で社会から除け者にはされたくないでしょ?お義父さん」
「あのガキ…やっぱり話しやがったな…」
「勘違いしないで…琢磨はあの件を私には一言も言ってないわ」
「わかりきったデマカセを…」
「私もあそこにいたのよ」
「は?馬鹿な…僕はくまなく探したよ?隠れられる場所なんて無かった…それこそ嘘だよ」
「一つだけ探してない場所があった…それだけの事よ…いつ貴方に孕まされるとも限らない状況で安全地帯を用意しておくのは自然な事よ?」
「成る程…?僕を脅そうと…そういうわけだね?」
「お義父さんの仕事は経理にも関係してるんでしょ?出来るはずよ?あの男の投資を破綻させる事が?」
「僕に出来るのは精々僕が務める会社の範囲だ、その後の事は知らないしこの件に力を貸すのはコレっきりだ…バレたら本当にクビになりかねない。」
「ありがとう…」
「君が僕に礼を言うとはね……、しかしこの男は無計画が過ぎるね、投資を…というよりも社会を舐めてる…付け入る隙が多くて楽そうだから引き受けけるけど本当に金輪際限りだよ。」
「お義父さん的にも見逃せないのではないかしら?この男は、お義父さんにも牙を向ける気満々よ?」
「たしかにね、大した脅威では無いけれど放っておく必要もないね。」
どうやら動いてくれそうで秋菜は内心ほっと一息つく。
でなければこの男と会話の場など設けないし来た意味がない。
「…それで家に帰るつもりは無いのかい?」
「帰る意味が無いもの…」
「そうか…はは…正直僕は君を舐めていたよ…」
「私は何もしてないわ…全て彼のお陰よ…」
「彼か…僕にも若い頃はあんな風に真っ直ぐに、…はぁ…言っても仕方ないね…じゃ僕はもういくよ、こんな事を言えた義理は無いだろうけど気を付けなよ?」
「本当に言えた義理ないわね?」
「はは…じゃーね。」
そう言って義父は会計分のお金を置いて喫茶店を出て行った
しかし馬鹿な男だ…あの智也とかいう男は。
義父の件はもうとっくに解決している。
しかしこんなにドンピシャな案件があるとは一周回って愉快にすらなってくる。
あの男は私が義父のセクハラで困ってる事を利用して来たがこうして利用され返す口実にもなった。
それにしても投資か…
これは何かに利用出来そうだ。
上手く行けばあの男を破産させる事も可能かも知れない。
しかし義父の会社だけでは破産とまではいかないだろう。
どうにか手はないかと思考するが投資などは基本無学だし付け焼き刃の知識で手を出して手痛いしっぺ返しを食らうのは本末転倒だ。
他人が別の株主に干渉して詐欺に持ち込むなんて普通に犯罪だしそれで私自身が多額の借金を持つ羽目になったり警察が介入してくる事とかになっても馬鹿らしいのでここいらがこの件で私に出来る限界かも知れない。
しかし私はあの男が思っていた以上に愚かで考えなしだという事を知ることになるがそれはもう少し先の話だ。
そんな事よりもだ…。
学校でまた新しい噂が流れ始めている。
まぁ…私から言わせてもらうならそれは噂でもなんでも無い事実なのだが。
「ねぇねぇ沙流さん、この噂ってガチなの?」
「だったらショックだわぁ〜」
「王子様も所詮は性欲に支配された雄猿だったかぁー」
噂の内容は至極単純。
あの日屋上で私がやった琢磨への公開告白は早期に野次馬達の手によって拡散された。ご丁寧に動画付きで。
ワザと広まるようにやった事だけどこうも簡単に拡散されると現代日本のプライバシーなんて有って無いような物なのではないかと不安になってしまう。
まぁ結果琢磨が私に言い寄ってそれを蓮司が助けたなんて腹立たしい話は誰かが流した嘘だと判明して琢磨がセクハラ紛いの行為をしたという噂が嘘だと濡れ衣が証明された。
コレにより蓮司のイメージが大きく崩れる事となるがその最大の原因は他にもあった。
まず一つが彼の義妹…愛莉の事だ。
蓮司と愛莉はこの学校内では義兄妹カップルとして清らかな交際をしていると認識されている。
禁断の愛だとか言われて謎の人気があり二人の事を応援する勢力までいる始末だ。
しかしその影で私に粉かけしていた事が今回の事で明るみに出てしまった。
純粋で清らかな恋をしていた清純王子様としてのキャラがあった蓮司だがコレでキャラが破綻した。
加えてこのタイミングで何者かからのタレコミがあり複数の女子と肉体関係にあるという噂までもが流れてしまい清純王子様から性欲猿王子様に転落し、その株は大暴落というワケだ。
そしてもう一つがガン泣き王子様だ。
こちらは前者より大したことでは無いが私に言い負かされて泣いて逃げだした事が女子達の目に止まりこんな不名誉なあだ名が浸透している。
最初は泣いてる王子さま可愛いだとか言ってる奴もいたらしいが泣いてる理由があまりに情けなくみっともない上に身勝手で自分本位。
女なら自分が声掛けすれば誰でも靡くといった様な女を軽視した発言の数々が女子達の怒りに油を注いでいる感じだ。
元々男子生徒達からは嫌われているみたいで友達もおらず今はぼっち生活を送っているらしい。
「でもあんなにかわいい義妹ちゃんがいるのに他にも手を出してたなんて怖いよね〜」
「私マジで応援してたからガチショック〜」
「やっぱりかわいくても妹じゃマジになれなかった的な?」
「ても血は繋がってないんでしょ?てか複数の女子に手を出してたらしいし関係ないんじゃね?でもショックだわ〜」
「沙流さんはあれから蓮司君に声かけられてるの?」
「え?…あぁ…そういえばあれから無いわね、」
「そーなんだ〜まぁ普通は無理だよねw」
とこんな感じである。
この人たちは蓮司が私にちょっかいをかけている現場をちょくちょく目撃していたしなんならその上で蓮司を可愛いと持て囃していた。
のにこの変わりようだ。
まさに韋駄天の如き素早い掌返しに私は怖さすら感じてしまう。
やはり一番敵に回してはならない存在はこういう人達なんだろうなと秋菜は思った。




