第10話 執着
明菜とのランチタイムを終え琢磨は自身の教室へと戻ってきたのだが教室内で一部の生徒から視線を感じた。
それは嫉妬心や興味本位等あまり好ましく無い感情の籠もった視線に感じられた。
困惑しているとタケルが手招きしているのでそちらに向かう。
「何事?俺なんかした?」
「なんかしたも何も女っ気無かったお前があの特進科の冷嬢こと沙流秋菜とお弁当タイムなんて言い出せばこんな空気にもなるさ」
「令嬢?」
「女に興味ないっても沙流さんの事を全く知らないとはお前の女嫌いにも筋金が入ってたんだなと改めて驚かされるよ」
特進科所属であの美貌だから秋菜がある程度有名なのは予測していたけどまさかここまで騒がれる程だとはハッキリ言って予想外だった。
「てゆーか、俺別に女嫌いって訳でも無いんだけど?」
「俺はお前に何があったか知ってるけど周囲の連中からはお前が女に興味無い…なんなら苦手ってなんとなく思われてるんだよ…なんなら全く女に絡んでいかないから恋人とかそーゆーのに興味無いって思われれてるんだよ。」
「別にそんなの普通だと思うけどな…」
「まぁもとから女っ気無かったら普通で通るんだけどな…」
「ああ…そうか…」
俺にはもともと明音という元幼馴染みの彼女がいた。
高1のころから…なんなら中学のころからそれを知ってる奴からすればある日突然明音にフラれ、それから女嫌いになったと経緯を余り知らない奴からは思われていても仕方ないのかもしれない。
そんな奴がいきなりある程度有名人らしい秋菜と弁当なんて食べてる所を見れば多少悪目立ち……するのか?
「てゆーか、秋菜さんってそこまで有名人なのか?」
「おおう!?既に下の名前呼びの仲か…」
「茶化すな!」
「悪い悪い…彼女かなりモテるぞ?ベクトルは違うがお前の妹並にモテる」
「まじかよ?」
「運動部系のエースや先輩後輩、学年首位の天才から生徒会長…なんならお前にとって目の上のたんこぶな義弟君も彼女を狙ってるらしいぞ?」
「蓮司の奴が!?」
「ああ…つっても沙流さんはコレまで言い寄った男全てを相手にしてないからソレが原因で良くも悪くも悪目立ちしてるな。」
「そうなのか?」
「ああ…だれが言い寄っても冷たい態度でそつ無く躱すから付いたあだ名が冷たいと書いて冷嬢ってわけだな。」
「成る程……ねぇ…」
「なんかあんまし興味無さげだな?」
「え?いや…そんな事は…」
男に興味が無い…とは少し違うのだろう。
彼女…秋菜さんにとって男は怖い存在なんだ。
義理とはいえ父親から性的な目で見られ実際に襲われる危険性がある中で彼女は生活している。
ある一定の信頼をきずけないままで彼女が異性に心を開くのは難しいだろう。
信頼を裏切られるのもまた彼女にとっては耐え難い苦痛なんだ、だからこそ思うんだ…。
俺は絶対に彼女を裏切る様な事はしちゃならないんだと…。
そんな話をしていると教室に先生が入ってきて話はお開きになりそのまま授業となった。
にしても蓮司の奴が秋菜さんに…
アイツは…アイツ等はいつも俺から大切な者を…
いや…止めておこう。
もう無くしたモノは帰って来ない…
今更どうにもならないしなるとも思っていない。
そもそも俺もアイツ等に今更帰って来て欲しいなんて思ってないし思えない。
そんなのおぞましいだけの悪夢だ。
それでも彼女を…
明菜さんを汚されるのだけは絶対に駄目だ。
後で明菜さんから聞いておかないと…
午後からは2時間だけで授業は終わりあっさりと放課後になった。
スマホで秋菜さんと下駄箱辺りで落ち合う約束をしていたので向かうと思いがけない場面に出会した。
「聞きましたよ沙流先輩?僕の義兄と懇意にしているんですって?」
「ソレが貴方になんの関係が?」
「酷いなぁ僕があんなに話しかけてもかまってくれないのにどうして義兄は良いんですか?不公平ですよぉ」
「はぁ…別に私の勝手でしょ?もう良いかしら人を待たしてるの」
「もしかして義兄ですか?あんな奴より僕とにしませんか?きっと僕なら沙流先輩を楽しませる事が出来ますよ?」
「遠慮させてもらうわ、あと他者を無自覚に卑下するような物言いをする人間は好きじゃないの。」
「卑下だなんて…僕なりに義兄の事は気にしてるんですよ?僕等も義兄とは仲良くしたいと思ってるんです…でもアチラ側が心を閉ざしていては僕等としてもどうしょうもなくて…そうだ!沙流先輩は義兄と仲が良いんですから僕にアドバイスを下さいよ!」
「はぁ?アドバイス?」
「ですです!僕等も義兄と仲良くなりたいんです!なれたらそれこそ素敵な事ですよ!お願いします沙流先輩!これは義兄…琢磨兄さんを助ける事にも繋がるんですから!」
巫山戯るなよアイツ!
思っても無いことをペラペラと…!!
アイツはいつもああして耳触りのいい事を適当に言って相手の信頼を得るんだ。
顔が無駄に良いからああして甘えた態度を取れば年上の女子はひとたまりもないのだろう。
あっさりアイツの術中にハマってしまうのだ。
元幼馴染みもああしてアイツに絆されていまではあの兄弟の体の良い生処理人形に成り果てている。
俺はその場から直ぐに飛び出そうとしたが…
「貴方の義兄…琢磨は貴方達との和解なんて望んでないしアドバイスの必要は無いと私は思うわ。そもそも見え透いた誘導よね?下心が透けて見えるわよ?」
「ぼっ…僕は本当に琢磨兄さんの事を心配して…」
「まだ言うの?笑わせないでくれるかしら?猿の演技に騙されるのは同じ猿だけなのよ?」
「ぼっ…僕は…ぼっ……はぁ〜…相変わらずガード固いね沙流先輩?嫌になるよ?でもだからこそ燃えるよね?沙流先輩は他の女共と違うよね〜くぅ~っ!やっぱいいなぁ!」
「はあ?」
コレまでの小動物めいたムーブは何処へやら。
本心を曝け出した蓮司は獰猛な肉食動物のように秋菜を睨みつける。
その目は秋菜にギラついた自らの衝動をこれ見よがしに見せつけ擦り付ける行為だ。
ある意味間接的なセクハラとも言える行為。
秋菜にとってはただただ不快なだけだがそれでも彼の周りに普段いる女子は彼にそんな目で見られたら骨抜きにされ言いなりになってしまう。
それだけの魔性を彼は秘めている。
それでも自分に一切靡かないこの沙流秋菜という少女が中岸蓮司という少年にとっては酷く魅力的で輝いて見えた。
こんなのははじめてだ!
僕に靡かないどころか不快感すら感じているあの表情。
強く惹かれる…だからこそモノにしたいと。
「いい加減にしろよ?蓮司!」
「あ?誰かと思えば琢磨義兄さんじゃないか?邪魔しないでくれる?」
「お前はとっとと帰れよ?家に帰れば愛しのビッチ共が沢山相手してくれるだろ?」
「美味しい料理も毎日食べてると飽きるだろ?たまには別の手法で作られた料理が食べたくなるのさ、まぁ琢磨兄さんには分からないかな?」
「わからないな、なんせ俺童貞なもんでな」
「はぁ〜話にならないね、琢磨兄さんこそ帰りなよ?僕は琢磨兄さんと無駄話する気はないんだよ?」
「そっか、なら帰らせてもらうよ、行こう秋菜さん」
「そうね行きましょ琢磨」
二人は何食わぬ顔で自身の靴を取り出し共に帰ろうとするが蓮司はそれを許さない。
「ちょっとちょっと待ちなよ何人の女横から掻っ攫おうとしてるのさ?」
「お前の女じゃないだろ?」
「琢磨兄さんの彼女でも無いだろ?」
「少なくとも俺と秋菜さんはお前よりかは親しい間柄だよ、彼女もお前より俺の方が良いってさ。」
「……。」
秋菜は琢磨の背後に周り彼の腕を掴む。
それを強い目付きで睨む蓮司。
顔に僕は今不機嫌ですと書いてあるかの様な形相だ。
と、そんな時にまたもや新たな闖入者が現れる。
「あっ!こんな所にいた〜!探したよ〜蓮兄〜!」
「あっ…愛莉ちゃん…」
「も〜いつも教室で待っててくれてるのにど〜してこんな所にいるの〜愛莉寂しかったんだよ〜!ねぇねぇ蓮兄〜蓮兄〜……あっ…琢磨兄さん…」
「良かったな?蓮司?愛しのラブドールが自分からお前を迎えに来たみたいだぞ?」
「………。」
「何〜?琢磨兄さんもしかして蓮兄の事虐めてたの?歳上のクセに相変わらずダサい事してるんだね?これ以上愛莉をガッカリさせないでくれる?」
「悪かったな、ダサい兄貴でよ?はぁ…もういいだろ?蓮司」
「え?待てよ?アンタはどーでもいいんだよ!いいからその女を!」
「蓮兄!どこ行くの!愛莉をおいてかないでよ!」
「あっ…くそ!」
猿共がごちゃごちゃしている間に俺と秋菜さんは逃げる様に学校を後にした。
しかしあそこまで蓮司の奴が秋菜さんに執着してるとは予想外だった。
あれ程女に囲まれて置きながらそれで満足せず秋菜さんに執着するのはいったい何なんだ。
意味がわからん。
「ごめんなさい…また私のせいで面倒な事に巻き込んじゃって…」
「いや…それは俺のセリフだよ…あんなんでも身内だからな…恥ずかしいよ…本当に」
「こんな事をいうのは憚られるけどあんなのが家族だと思うのはしんどいね…確かに…。」
「……ああ…。そういえばアイツにはいつから…?」
「あのストーカーの事?」
「え?ああ…」
蓮司の奴は秋菜さんからはストーカー扱いされてるのか…まぁあの執着具合からみても自業自得も良い所だろうけども…。
「いつ頃かな…?しっかりとは覚えて無いわね…気づいたら付きまとわれていたわ…」
「そういえば話には聞いてたけど秋菜さん結構モテるらしいね?」
「モテる…ね…私としてはいい迷惑よ…見た目が良いのは認めるけど…そのせいで母の再婚も上手く行ってないし…」
彼女にとって自身の容姿の良さは胸を張るにたるメリットにはなり得ない訳だ。
そうでなければ母親の再婚相手に色目を使うなんて斜め右な解釈を実の母親からされずに済んだろうしあの義父にいやらしい行為をされずに済んだかも知れないから…。
だから彼女は母親に負い目を感じている?
そんなのはおかしい。
自分の幸せを自分で望んで何がおかしいのか?
「……さしでがましいかも知れないけど秋菜さんは母親の幸せより自分の幸せを優先しても良いと思うんだ」
「………そ…うだね…そう出来たらいいね…。」
力なく肯定するが俯き自信無さげな秋菜
母親の幸せが自分の犠牲の上に成り立ってるのなら自分はただ我慢すればいい。
ソレがコレまで頑張ってきた母に対する親孝行になると彼女は考えている。
ソレがわかるからこそ彼女の歪さが琢磨には歯痒く思えたのかもしれない。




