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Wing Ladies——わたしたちは、今日も大空にいる。  作者: 土門康平
エピローグ わたしたちは、今日も大空にいる
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Scene#3 入間基地・航空祭

 当日の空は秋晴れそのもので、澄んだ蒼空となっていた。


「さぁ、星来せいらちゃん、次はママの飛行機よ」

 祖母は、二歳の孫娘に語りかけた。美魔女の祖母は、知らない者の目には、あるいは母親に映るかも知れなかった。

「ママのひこうき?」

 星華と治の長女、天辺星来は小首をかしげた。

「そう。ママの飛行機が飛んでくるの」

「わあい、ママのひこうきぃ」

 はしゃぎ出す孫から視線を移し、次に真由里は婿に顔を向けた。

「星来ちゃんは、本当に飛行機が好きなのね。――治さん、カメラの準備はいい?」

 天辺治は、デジタルビデオカメラを取り出して、機体の進入方向に向けていた。

「バッチリです、お義母さん」

 星華は一人娘だったし、治は次男だったので、治が天辺の姓を名乗ることにしたのだった。

 そう答えつつ、治は思った。

「自分は、娘にとって非常に印象の薄い存在なんじゃないか」と。

 普段は小松基地に単身赴任中の星華が育てているし、たまの休みに合流できると、多くの場合は鎌倉に帰る。

 そこでは二組のジジババが待ち構えているのである。

 勢い、家族三人になれる時間は少なかった。

「大丈夫かなぁ」

 相変わらず、心配性が治らない父親は、そう口に出していった。

 アナウンスが聞こえて来た。

『F―15Jが進入します。パイロットは編隊長・三等空佐小田桐真人、広島県出身。二番機・二等空尉天辺星華、神奈川県出身』

 ――

 新婚旅行で二人が授かったのが、星来だった。

 妊娠が分かった時、星華はある考えを抱いた。

 そして自分も生まれた産院で出産し、看護師から、

「元気な女の赤ちゃんですよ」

 と聞かされた時、それは揺るぎなき信念に変わった。

 産前休暇と、それに続く産後休暇で、習志野の官舎で治と同居するようになっていたが、退院して娘を連れて帰宅すると、真っ先に星華はリビングのPC端末に向かい、ファイルをプリントアウトして夫の前に差し出した。

「なんだ、これ?」

 ベビーベッドに娘を寝かしつけてから、星華はいった。

「星来のライフプランです。産前休暇中に、元一佐のファイナンシャルプランナーにお願いして、作っていただきました」

 治は目を走らせたが、徐々に不同意を覚えるようになっていった。

 ――5歳から英会話とバレエかピアノ。中学からは湘南鎌倉女子学園、大学は……四年以内に二人目で、女だったら、長女と同じ。

「冗談じゃないぞ。おれは、お前のお父さんと違うんだ。下っ端公務員なんだぞ。こんなん無理に決まっているじゃないか!」

「大丈文。計算しました。あなたとわたしで、毎月これだけ定積預金すれば間に合います。実家も助けてはくれるかも知れませんけど、まずは、わたしたちでできるところまでやります」

 ライフプランに記された数字では、確かに足りるが、それは同時に治の毎月の小遣いが微々たる額になることを意味していた。

 考えただけで、頭がクラクラしてくる。

 ライフプランの末尾には、「大学卒業後、空自入隊」とまで書かれているのを見て、

「空自なら、普通の学校でいいじゃないか」

 と食い下がると、星華は平然として、

「この子には、特別輸送航空隊の空中輸送員を目指させます。そのためです」

 と答えた。

 千歳基地に配置されている特別輸送航空隊は、治も知っているが政府専用機を運用する部隊である。

 これに乗務する空中輸送員は、空自に所属はするが本物のCAなのだった。

 エアラインに派遣されて研修を受け、しかもアテンドするのは、皇室や総理以下の閣僚、つまり一般のファーストクラスを遥かに上回る超VIPなのである。

 星華は、その存在を知った時、最初からこちらを目指せばよかったと後悔したくらいだった。

 星華は、自分が果たせなかったCAの夢を娘に託すつもりらしいと、治は悟った。

 そのとおりだった。

 ――この子はわたしの分身。この子には、わたしの夢を追わせよう。

 と、妊娠中から星華は決めていたのである。

「あなたは父親です! 子どもの人生に責任がおありなの。分かっていらして?」

 妥協を完全に排した妻のセリフに、夫は不覚を悟った。

 ――忘れていた。こいつは、筋金入りのお嬢様だったんだ。自衛官になったからといって、本性が変わったわけじゃなかった。

「なにがあっても、このとおりにやりますから、よろしくお願いします」

 ダメ押しの言葉を聞かされた治は、これからの人生に小さな暗雲の発生を感じていた。

 そしてそれは、予感では済まなかったのである。

 テッポウユリの娘は、テッポウユリなのであった。

 ――

 双発ジェットエンジンの放つ轟音を残して、二機編隊のイーグルは飛び去った。

「ママぁ」

 大はしゃぎする孫娘を見て、四人の祖父母のなかでは孫娘に対するダントツの溺愛ぶりを示す祖父は気が気ではなかった。

 ――冗談じゃないぞ。この上、孫までパイロットになるなんていい出したらどうするんだ! ダメだダメだ。孫こそは、必ず会計の道に進ませてやる!

 祖父は祖父で、勝手な考えを固めていた。


 玲子、ケイ、そして星華は、それぞれ空を飛び続けている。

 これからも飛ぶ。

 三人の気持ちは、ある一点で共通していた。

「わたしたちは、今日も大空にいる」

 祖国日本の空を守るために。

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