Scene#1 新宿駅西口
相手とは、ホテルのロビーで待ち合わせをする約束だった。
そして、定刻にその男性は現れた。
携帯音楽プレーヤーが長渕剛の「CLOSE YOUR EYES」の再生を終えようとしていた時、彼女に、
「藤堂玲子さんでしょうか。坂口雄馬です」
そう言って一礼した男性は、写真にあったとおり彼女の理想像・加藤健夫中佐に似る面影があった。
「はい。藤堂です」
「お待たせしました。初めまして」
坂口の話を持ち込んだのは、玲子の次兄、真二である。
「高校の後輩。極東医大卒の外科医。現在、同大学の付属病院勤務。祖父は医療法人の理事長。父親は病院長で心臓外科の権威」
ティールームに移動して、自己紹介を兼ねた初対面のやり取りをしながら、玲子は事前に兄から教えられたプロフィールを思い出していた。
――歳は少し上、ルックスよし、服装のセンスよし、話し方よし……
第一関門はクリアした。
玲子はパートナー選びに、日本の古典的な出会いの方法である見合いを活用していた。
父親の元部下とか二人の兄のコネをフル活用しているが、これまで、これはと思う男性が現れなかった。
ハイスペックではあっても、感覚的に評価が高くないという男が多かったのである。
――タリホー。
しかし、今回は従来と違う出会いになりそうだった。
玲子は、そろそろ少しの焦りを感じていた。
父親が知ったら安心するだろうが、目標レベルの男性を捉まえた時に備えて、料理だとか、掃除だとか、洗濯とかの花嫁修業を、玲子は抜かりなくやっている。
同期二人に先を越されてしまったが、自分も目標を捕捉したら家庭に入って、必ず水準を超える妻・母親になってやるつもりだった。
世間一般的な女の幸せを断念する気は、玲子にはまったくなかった。
相手が医者なら、通常の女子と同じく、目の色が変わるものを感じている。
今日は下着からして念入りに選んだ。
そして、ワンピースに時計、ヒール、バッグまで白で統一し、清楚さとフェミニンさを絶妙に調和させるファッションで全身を固めていた。
――この男、逃がさない。
最初の一分で玲子は心に決めた。
翌々日、朝の全体ブリーフィングに向かう玲子のスマホに、真二を経由した返事があった。
「また、是非お会いしたい」
――やった!
画面を確認するなり、玲子は心のなかで喝采を叫んだ。
そして、瞬時に海外で挙式、都心のマンションに新居、子どもは一男一女、両方とも幼稚園から私立の名門校に通わせる、と人生設計を行った。
そのために、パイロットとしてのキャリアに制約が発生することも覚悟した。
――一年以内に、絶対結婚してやる。セレブ妻になってみせる!
玲子はそう、心に誓っていた。




