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Scene#7 神奈川県・葉山

 星華の身分が飛行幹部候補生から幹部に変わり、階級も三等空尉に昇進してから約半年後、角田家と天辺家の結婚披露宴が、神奈川県葉山町と横須賀市の境に位置する海を見下ろすホテルで行われた。

 新郎が陸上自衛隊最精鋭の特殊作戦群の隊員、新婦が航空自衛隊初の女性戦闘機パイロットの一人なので、披露宴会場の席の約三分の二は緑と紺色の制服で埋め尽くされた。

 親族や小学校時代の旧友ら一般の招待者は、やや引いたかも知れない。

 それ以外だと、横須賀の第一護衛隊群勤務の三等海曹山本平八と、海上幕僚監部勤務の三等海佐島村緑の黒い制服と、東京消防庁に勤務する治の兄、覚の濃紺の制服があった。

 この時、覚も第八方面消防救助機動部隊・ハイパーレスキューの一員なので、兄弟で特殊部隊員ということになる。

 最初、治は防衛省共済組合直営のホテルで、安く上げるつもりだった。

 だが、式場選びの段階で、星華は一言の元にそれを却下した。そして、

「わたし、式場はここにしたいの」

 といってタブレット上に示したのが、相模湾を見下ろすロケーションにある、地中海沿いかと思われるような格式あるリゾートホテルだった。

 実は、星華は中学の入学祝の会食に両親に連れて来てもらって以来、

「わたしの結婚式は、必ずここで」

 と、心に決めていたのだった。

 下見に行ってみると、確かにオーシャンビューは素晴らしかったが、出された見積書に記された額に、治は目を回しかけた。

 予算より百万円以上高いからだったが、星華は頑として譲らなかった。

「絶対、ここにします」

 結局、治は根負けすることになった。

 ――

 空陸統合作戦だというので、媒酌人を務めたのは新婦の同期生の父親、前統合幕僚長・藤堂護元空将夫妻だった。

 一介の准陸尉だった治の父は、恐縮してしまった。

 さらに、これは無碍にできないと思った治の上官である特殊作戦群長と、星華の上官の第6航空団司令も参列しなければならないことになった。

 両者とも、藤堂の防衛大学校の後輩に当たる。

 結果、料理を前に、招待者たちは何人もの高級幹部のスピーチを聞かされる次第となった。

 新郎・新婦の紹介に始まる無難な内容の媒酌人の挨拶を終えたあとで、藤堂元空将は、内心「うちの玲子にも、そろそろ良縁があって欲しいものだが」と考えていた。

 彼は、少々遅くなってから生まれた自分の愛娘が優秀なパイロットに成長する以前に、一人の女として平凡な幸福を入手してくれることを望んでいた。

 この点、玲子は親の心子知らずだと思えた。

 披露宴の余興で受けたのは、新婦側のカラオケメドレーだった。

 ドレス姿で並んだ舞子とケイの口から流れたのは、

「加藤隼戦闘隊」と、「ラバウル航空隊」と、「燃ゆる大空」の軍歌三連発だった。

 美女と軍歌のギャップが大うけになった。

 この時点で、ずっと隠されていた玲子の趣味は、明らかになってしまったが。

 その前に演じられた空挺団有志による「マツケンサンバ」が霞んでしまった。

 披露された祝電の差出人の中には、「宇宙作戦隊 仲村正則」があった。

 式が終わり、参列者の見送りになると、何人目かの航空学生時代の区隊長佐藤大介がウエディングドレス姿の星華に、「家内も来たがっていたが、もうすぐ二人目の出産予定なので、遠慮させた。お前によろしくといっていたぞ」と、相変わらず凄みを交えた笑顔で伝えた。

「家内」が誰だか星華には分からないようだったので、佐藤は旧姓・水野亜美だと付け加えた。

 寿退官して、今は家事と育児に専念しているという。

「魔女」が、どんな風に家庭内を切り盛りしているのか、星華は直ぐには想像できなかった。

 佐藤は今、小牧基地の救難教育隊にいて、後継者の指導に当たっている。

 レスキューの世界に戻ったのだ。

 島村緑は、第二子を出産して、現在産後休暇中だと語った。

「子どもの世話も、旦那の方が上手なくらいよ。私は楽ができているわ」

 と現状を語ってから、星華に耳打ちした。

「あなたも、旦那の手綱はしっかり握っていなさい。決して甘やかしてはダメ。この仕事を続けたいなら、これは必須よ」

 なるほど、これは治に聞かれてはならないことだった。星華は、微笑んで頷いた。

 ――

 二次会は、鎌倉・稲村ケ崎のイタリアンレストランを借り切って行われた。

 新郎・新婦の友人、というより新郎側の関係者は、新婚カップルを半分あっちに置いて、新婦の同期生に攻撃を指向した。

 これに対し、玲子は相変わらずの女王様ぶりを発揮して悠然とあしらい(但し、内心はしっかりと一人ずつ値踏みしている)、ケイはケイで、エキゾチックな風貌を武器に何人もの陸の男を相手に盛り上がり、連絡先を交換している。

 そばで見ていた新婦の元同期の男子たちは、彼女たちを攻撃しては片端から撃墜され、死屍累々で終わった自分たちの歴史が、今度は陸の特殊作戦部隊員たちによって繰り返されるのか、と考えて、彼らの運命を案じた。

 招待者のなかには、高校の後輩、カーチス春陽もいた。

 パイロットになれことと結婚の両方に、彼女はお祝いを述べた。

 そのあとで、星華の同期の男子と話が盛り上がっているようである。

 春陽は、今は短大を卒業して、羽田空港に勤務するグランドスタッフとなっていた。

 二次会の途中で、春陽は星華に次のようにささやいた。

「わたし、パイロットの方とお付き合いするのが夢だったんです」

 一方、治のグラスに酒を注ぎながら、山本平八が凄みのある声で告げていた。

「分かっているだろうな。泣かせたら、ただでは済まんぞ。おれたちの顔を潰すなよ」

「潰すなよ」

 上原勇策も、脇で同じことをいった。

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