Scene#2 太平洋上・L空域
「よし、ブリーフィングとおりだ。まずハイGターン」
「ラジャー」
――見せてもらおうか。航空学生初の女性戦闘機パイロット候補の実力を。
L空域に到着すると、まずはお手並み拝見と、小福田は最初の科目を命じた。
ハイGターンは、戦闘機の基本機動の一つで、350ノットの速度を維持しながら80度のバンクで180度旋回するのである。
ハイGというだけあって、身体にかかるGは約8Gに達する。
体重が70キログラムなら560キログラム、50キログラムでも400キログラムに感じられるのである。
ヘルメットが、恐ろしい荷重を頭部にかける。
基本といいながら、非常に過酷な機動だった。
星華は咽喉をごくりと鳴らせたのち、操縦機器に神経を集中した。
右手でスティックを右へ倒す。
右足でラダーを踏み込む。
そして、スロットルを前へ倒した。
二基のF100ターボファンエンジンが吠えた。
エンジン回転計がダンスを踊る。
予期した強烈なGが、星華の全身を襲った。
「むっ……」
だが、その負担に耐えて星華はスティックを保持する。
パネル中央にある姿勢指示計が、機体の傾きを知らせる。
80度ジャスト。速度も350ノットだった。
――クリア。
星華は、機体を水平に戻した。急速にGが抜けていく実感があった。
「オーケー、次はスプリットS」
「ラジャー」
――最初は合格。次はどうだ。
スプリットSは、機体を捻りながら下降して、180度方向をターンする基本機動である。
十分な高度を取って行わないと、非常に危険な機動だった。
「エンジェル25。行きます」
星華は25,000フィートまで高度を上げ、呼吸を整えた。
スロットルはやや手前に引き、速度を270ノットにまで落とす。
準備はできた。
――ナウ。
心のなかで呟くと、スティックを前に倒すと同時に右のラダーを踏み込む。
機体が回転した。蒼天が、視界のなかで逆転する。
アレスジロセブンは、垂直方向に急速で突き進んだ。
さらに期待を旋回させる同時に、スティックを引いて水平に戻した。方向は180度逆になった。
――できた。
T―4で最初にやった時には、パニックに陥って、下川に操縦を奪われたスプリットSだった。
「クリア」
星華は、ゴム臭い酸素を送り込むホース内のマイクに向かって報告した。
雲が、蒼空の遥か下に広がっていた。




