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Scene#12 習志野駐屯地

 習志野駐屯地は、落下傘降下訓練の時以来だった。

 営門前でタクシーを降りた星華は、警衛隊員に身分証明証を見せて、面会するべき相手の名を告げた。

 警衛隊員の口から、相手が既に警衛所の面会室で待っていると答えがあった。

「角田くん」

 迷彩服姿の男は、かつての同級生の声を聞いて、椅子から立ち上がった。

「元気そうだな、天辺」

 訓練事故の直後の浜松基地以来の再会だった。

 星華がパイロットとして認められたように、彼も空挺レンジャー課程を修了し、迷彩服の胸に空挺徽章とともにレンジャー徽章を縫い付けている。

 ともに、誓いを実現していた。

 星華は、事前にショートメールでは告げていたが、改めて口にして治に知らせた。

「とうとうわたし、イーグルに乗れるの。これから、戦闘機操縦課程で新田原に行く」

 静かだが晴れやかな声で、星華は治に告げた。

「角田くんは? 以前、いってた特戦群、だったかしら、どうなの?」

 治は、頭をかいた。それは、まだめどの立たないことだったからだった。

「空挺レンジャー課程は出た。でも、まだ少しかかりそうなんだ」

 星華は、自分の目的に話題を変えた。

「お礼をいいたかったの。あなたがああいってくれなかったら、わたし挫けていたかも知れない。夢の代表選手だって」

 ――おれ、そんなこといったっけ?

 今になって思うと、それは、いささか恥ずかしいセリフだった。

 気持ちが高ぶっていたのかも知れなかった。

「ありがとう。お陰さまで、パイロットになれる、わたし」

 そういって、星華は席を立った。「じゃあ、わたし行くから。新田原へ」

 だが、治はその時、そのまま彼女を送り出そうとはしなかった。

 ――わざわざここまで来たんだろう。

「ちょっと待てよ」

 同じように席を立って、治は星華に近づいた。

「そのためだけじゃないだろう。ここまで来てくれたったことは」

 大胆にも、治は右腕を伸ばし、初恋の人の左腕を握った。

 星華は、黙って少し下を向いた。

「待て! 待ってくれ。直ぐにとはいえない、けど、お前のためならきっとおれは!」

 と治は興奮気味に続けた。

「きっと?」と聞き返す星華。

「きっとおれは特戦群に行く! お前に相応しい男になるから!」

 体を近づけ、星華の両腕をつかんで治は宣言する。

「……ええ、分かった」

 だが、二人だけの時間は、突然そこで終わった。

 次の瞬間、面会所の扉が開き、外で盗み聞ぎしていた小松たち治の同僚がなだれ込んで来たのである。

 小松二曹に加え、大林一曹、梅木一曹たちである。

 いずれも、空挺レンジャー課程で、治をしごきにしごいた面々だった。

「いいやがったな、この野郎!」

「オレたちが証人だ! 絶対に行けよ、こいつ」

「諦めたら落下傘なしで自由降下させるからな! 絶対にさせるぞ、コラ」

 と、治をもみくちゃにする。治は、たちまち顔から血の気が引いて行った。

 一番苦手とする三人に、その場を抑えられてしまったのだ。

「お嬢さん、じゃなかった、三尉殿。こいつを見捨てないように、頼みますよ」

 治を右腕で首締めしながら、小松は星華に要求した。

 星華は、

「はい」と、四人のドタバタ劇をくすくす笑いながら答えた。

 この時、二人にとって人生最後の恋が始まったのである。

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