Scene#4 横浜
GWが始まる前の週末、JR東海道線大船駅東口近くの飲み屋で、五種類ばかりの肴をテーブルに並べて生ビールを飲んでいる若い男たちがいた。
次の週末には、横浜市内で小学校の同窓会が開かれる。
それには三人とも参加予定だから、呼び出した一人にとってはともかく、呼び出された二人にとってはいささか理由が分からなかった。
「一組の天辺星華、覚えているか?」
と、呼び出した角田治は、一杯目の途中で切り出した。
「覚えている。確か、お前と同じクラスだった女の子だろう?」
長身で堂々とした体格の山本平八は、治より余程自衛官らしく見える男だった。
山本は今月の初旬、アフリカ・ソマリア沖の海賊対処任務から帰国したばかりである。
高校時代は、超高校級プレーヤーとして、全国でも名を知られたバスケットボール選手だった。神奈川県でも強豪の県立相模湾高校男子バスケ部でキャプテンを務めたが、実家の事情で大学には進めず、卒業後は「地元で公務員」という希望が通る海上自衛隊に入隊していた。
現在の階級は海士長で、横須賀に母港を置く第一護衛隊群隷下の護衛艦はるかぜの給養員――つまりコックとなっている。
「あいつ、湘南鎌倉女子を出て、空自に入隊していたんだ。それも、今は飛行幹部候補生だ」
治の情報は、山本も、そしてもう一人の同業者である上原勇策も、少しばかり驚かせるものだった。
「本当か?――飛行幹部候補生って、パイロットになるんじゃないか」
「信じられんな。あの、どっからどう見てもお嬢様が?」
「嘘じゃない」
続けて、治はビールを一口飲んだ。
さて、これから本題を切り出そう、と思っていたところで、山本に答えを先取りされた。
「で、角田よ。おれ達に、天辺を攻略する手伝いをしろと、こういうわけだな」
その瞬間、治は息を詰まらせ、顔面には縦筋が走った。
「(うぐっ)……なぜ分かった?」
声を鋭くして、山本は一喝する。
「たわけ! 同業者のおれ達を、同窓会を前に急に呼び出し、ただ酒ただ飯を振舞った上、天辺の名が出て来れば、答えは一つだろうが」
これには、上原も同調した。
「そうだそうだ、お前だけが天辺星華に熱を上げていたと思っているのか。いいか、同学年でも、あいつにお熱だった奴は、一ダース以上いたんだぞ。それを、隣の席になったのをいいことに、毎日毎日馴れ馴れしくしていたお前は、はっきりいってジェラシーの的だ。袋叩きにされてもおかしくなかったぞ!」
上原勇策は、対照的に155センチのややチビ男である。
同じサガワンでサッカー部(こちらは、大して強豪チームではない)にいたが、卒業後の進路に、サッカーを続けられる職場を希望した。
その結果が、たまたま陸上自衛隊だったということである。
現在は、東京都と埼玉県の境界上の朝霞駐屯地に所在する第一施設大隊で勤務している。
「施設」とは分かり易くいえば「工兵」であって、有事であれば陣地の構築や道路工事、敵の設置した地雷原やら鉄条網とかの処理が仕事である。
国際貢献任務でも出番は多いが、まだ上原にはその経験はない。
なお、昔はサッカーコートにいる間と、いたずらさの際の逃げ足は驚異的に速かった。
正直なところ、治は自分の立場がこういうものだったとは、想像していなかった。
お調子者の性格故であろう。
治は、二人が自分の味方をしてくれるものと、最初から思い込んでいたのである。




