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Wing Ladies——わたしたちは、今日も大空にいる。  作者: 土門康平
第3章 我が行軍は空を征く
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Scene#6 習志野駐屯地・空挺教育隊舎前

「飛行幹部候補生の諸君、本日までまことにご苦労様でありました!」

 教育隊長への申告も終わり、出発する朝、主任教官だった速水二尉が助教たちを引き連れて、あいさつに立った。

「本日までの諸君の健闘を讃え、最後に我々から一曲、隊歌を送ります。助教、前へ」

「前へ、進め」

 先頭の号令に従って、助教たちが小走りに候補生たちの列の前に走り出た。

「隊歌、空の神兵。隊歌用意!」

 指揮する一曹が、右手を一直線に空へと伸ばし、それを左右に振りながら、音頭を取る。

 それは、旧陸海軍落下傘部隊の時代から歌い継がれてきた歌だった。

「隊歌止め!」

 歌が終わる頃には、少なからず飛行幹部候補生たちの頬を、涙が下っていた。

 星華も、その一人だった。

 ――

 候補生たちは、それぞれ手荷物をトラックの荷台に積み込んだ。

 これから、来た道を帰り、入間基地経由で、空路帰隊するのである。

 バスの前では、心が通じるようになった空挺関係者と、飛行幹部候補生たちが別れを惜しむ光景が見られた。

「角田くん、ありがとう、お世話になりました」

 本来の、育ちのよさを感じさせる令嬢の雰囲気を出して、星華は最後の礼をいった。

 礼をいわれた側にとっては、内心はウキウキだった。

「小学校の時のお礼さ。天辺、必ずパイロットになれよ。おれは、特殊作戦群を目指すから」

「特殊作戦群?――この駐屯地のなかにある?」

 それだけしか、星華は知らなかった。

 実は、陸自の隊員でも、それは同じことである。

「ああ。おれの目標だ」

 それは、カッコいい所を見せておかなければ、という計算の産物だったが、傍で聞き耳を立てている厄介な人物がいたのである。

 治は、それにまだ気が付いていない。

 バスが発車する時が来た。

 相互に手を振りながら、別れを迎えた彼らだった。

「おい、おめえ、特戦群に行きたいってなぁ?」

 バスが角を曲がり、見えなくなってから、治の隣にいる小松二曹が、ヘビのような意地の悪い笑顔を見せていった。

 ――やべえ! 聞かれた……

 治は、背中の体温が急速に低下するのを感じた。

 不覚だった。

 一番聞かれてはいけない相手に聞かれてしまったのである。

 習志野の若手陸曹のなかでは「小松の親分」と呼ばれる顔役に、である。

「それには、まず空挺レンジャー課程だよなぁ、たっぷりかわいがってやるから、楽しみにしておけよ」

 空挺レンジャー課程は、全陸自でも一、二を争う厳しい教育である。

 担任するのは、この空挺教育隊であり、小松二曹も、その助教を務める可能性があるのだ。

「大林一曹と梅木一曹の御両人も声をかけておくからな。楽しみだなぁ、いひひひひ」

 習志野でも要注意人物の双璧の名を告げられて、治は足がすくむ思いだった。

 よりによって、父親が陸曹教育隊助教の時にしごき抜き、その時のお礼を、息子に対してやってやろうと考えているかも知れないのが、大林・梅木の二人だったのである。

 だが、もう治には引き下がるという選択肢はないのだった。

 星華に、口先だけの軟弱者と見られないためには。

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