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最終話

おはようございます。最終話のお届けです。物語もついに終焉。お楽しみに。


「祭りの後、後の祭り」

      (最終話)


        堀川士朗



死霊祭り三大見所。


一、死のお練り。


ゾンビの顔はみな一様に、まるで白塗りをしたかのように青白かった。

見物客に襲いかからないように先ほどからゾンビたちには生肉の塊が投げ与えられている。

ゾンビたちはその生肉をむさぼり喰らいながらユルユルゆったりと志出村商店街を練り歩いている。



ニ、死霊水掛け祭り。


沿道から水を掛けられて、少し残酷な気もするが、当のゾンビたちは喜んでいるようだ。

見物客に襲いかかろうとするゾンビには容赦なく沸騰した熱湯が掛けられ、ゾンビは、


「あづっ!あづっあ~。あ~」


と呻いていた。

死者を尊厳もしているし、また同時に冒涜しているのがこの祭りの肝と特徴なのだろう。


絶対にゾンビを観客には触れさせない。

そこは志出村の死霊祭り実行委員会が万全の対策を講じていた。

ちなみに志出村は江戸時代の終わりまでは『死出村』の名称だった。



三、死みこし。


みこし本体にゾンビが荒縄でくくりつけられてボウッと空を仰ぎ見ている。

担ぎ手もゾンビだ。


「う~、あ~、せぃあ~~、せぃあ~~。あ~~」


が掛け声。

思ったより威勢が良くていなせだ。

そこにも沿道から打ち水や熱湯が掛けられ、ゾンビはみなグチャグチャのずぶ濡れになっていた。

死みこしは三基出ていた。



「檜葉」

「ん?」

「ある日突然とても好きで聴いてた曲を好きじゃなくなるみたいに、檜葉の事もある日突然好きじゃなくなるかもしれない」

「弘子」

「それでも、その日までは全身全霊で好きでいるから。だからごめんね」

「お前……お前なんか不幸になっちゃえ!キャバ嬢やって百万もするバァー・キンでも買い漁ってろ!」

「それ幸せかもしれないよ」

「……あ」

「うん。でも好きだよ。だからごめんね」

「……ああ」

「ずっとこのままいたいなあ。それは、絶対ありえないけど」

「ありがとう。ん?」

「俺にも。俺にも愛をくれよ!」

「マサお前東京に彼女いんじゃん」

「いるけどくれよ!」

「何だよマサ」

「分かってくれよ!俺は今イヤイヤ期なんだよ!」

「バカか?」

「バカマサ~」



夕暮れ……。

やがて死霊、ゾンビが自分の墓、やすらぎのゆりかごへと帰って行く。

これで今年の死霊祭りは終了だ……。

観光客も三々五々散って行く。


弘子は、死霊の群れの中に一昨年亡くなった自分のおじいちゃんがいるのを発見した。

死体としての腐り具合がまだそれほどではなかったため顔が判明したのだ。

でも宝弘子は、


「おいで、おかえり」


と声をかけなかった。

タイミングが遅いのもあったし、それによって、あちらの世界におじいちゃんが戻れなくなるかもしれないと弘子は何だかそんな風に思ったからだ。

檜葉にも、坂野にもその想いは伝えず黙っていた。

やがておじいちゃんは死霊の群れの中に完全に溶け込んで、その姿は見えなくなった。



明日、三人は東京に帰る。

東京に戻っても、三人はきっと仲良しだろう。


「ずっとこのままいたいなあ。それは、絶対ありえないけど」



            終



   (2023年5月~6月執筆)



最後までご覧頂きありがとうございました。また少しお休みを頂き、新作をアップしていきますのでよろしくお願い致します。

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