【第五章要約】高級住宅街ダンジョン編
徐々に成長していく勇者一行に後れを取っていることに一ノ瀬は徐々に焦燥感を抱いていた。
最初こそ、仲間達を引っ張る存在として前に立っていた彼女であったが、数多の配信の中で瀬川達は新たな能力を開花していった。そんな中でも身体強化スキルを未だ持ち合わせていなかった一ノ瀬は、徐々に劣等感を抱くようになっていく。
仲間の身を案じ続ける雨天が、一ノ瀬に心配の声を投げかけるも彼女はそれすらも拒絶。
半ば自棄になった形で彼らから離れた一ノ瀬だったが、そんな彼女の前に「金色のカブトムシ」が姿を現す。
金色のカブトムシは、一ノ瀬が女性となる原因を生み出した存在だった。カブトムシの角を折ったことが原因で、彼女は男性の姿を失ったのだ。
そしてどういう訳か、男性だった頃の一ノ瀬 有紀の人格はその金色のカブトムシの中に保存されていた。
男性であった頃の自分自身の言葉によって心をかき乱され続ける彼女。
そんなみっともない大人の姿をさらし続ける一ノ瀬は、仲間に嫌われようとする為に内に秘めたどす黒い感情をすべて吐き出す。
自分は出来た人間じゃない、存在価値なんて無くて皆の前から消えてしまいたいと思っている、と。
だが、彼等はそんな一ノ瀬を見捨てなかった。
ずっと仲間達の為に一生懸命に力になってきた彼女を、今更見捨てるという選択肢を瀬川達は持ち合わせていなかったのだ。
対等を望む一ノ瀬の本心を知った瀬川達。
改めて一致団結した彼らは、金色のカブトムシの中に保存されたかつての一ノ瀬 有紀と邂逅する。
高級住宅街で待っていたかつての一ノ瀬 有紀——改めてanother。
彼は「世界に存在するのは男か、女の姿。どっちの一ノ瀬 有紀か決着を付けよう」そう言って姿を消した。
高級住宅街は、anotherの手によってダンジョン化されていた。
ダンジョン内に現れるのは、警備員の姿を模したガードマン。彼らの猛攻を凌ぎながらも、セイレイ達は状況を打開していく。
しかし、そんな中で強力な一撃を貰ったnoiseは命を落としてしまう。
絶望に暮れる勇者一行だったが、「自動回復には蘇生能力がある」というコメントを貰った勇者一行に再び希望が蘇る。コメントの力を借りて、どうにかnoiseを蘇生することに成功する。
そんなnoiseは、仲間達に追いつく形で「光纏」を発現する。
だが、そのスキルは他の者達とは大きく異なる特性を持ち合わせていた。
光纏によって、一ノ瀬の姿は成人女性の姿から、魔災以前の女子高生の姿へと変わっていたのだ。
女子高生の姿へと変わったことにより、更に対等な存在となった一ノ瀬。紡いだ絆と共に、勇者一行はanotherと対面する。
自らをワーウルフの姿へと変えたanotherは、孤独な存在であった自身を呪うようにして勇者一行と敵対した。
激闘の末にanotherを制した彼等。
anotherになく、一ノ瀬が持っていたもの。それは「本心で仲間と話す」というたった一つの行動だった。かつて周りにとってよく見られたいと思っていた一ノ瀬は、本心で他人と接することを知らなかった。
女性の姿となってから他人に本心を打ち明けることを知った彼女だったからこそ、芯のある心の強さを持ち合わせていたのだ。
勇者一行の言葉を受けて、大切なことを教えてもらったanother。敗北した彼は、高級住宅街の先にあるかつての一ノ瀬の自宅を探索することを提案した。
そこには、世界の真相に迫る真実が眠っていた。
かつての一ノ瀬の実家を探索する中で発見したのは、一ノ瀬の父親が勤務していたのが「Tenmei」という魔災を引き起こした原因である企業であるという事。そして、その社長が瀬川の父親である瀬川 政重という事実だった。
徐々に明らかになる魔災に関連した事実の中で現れた僧侶ディル。
魔王セージが行った全世界同時生中継の後から姿を消していた彼は、明らかに憔悴しきった様子だった。どうやら、瀬川の力になることが出来ない自分自身に嫌気がさしていたようだ。
そんなディルは自らが「ホログラムの実体化実験」によって生み出された存在であることを暴露。さらに、彼自身の思考回路は瀬川の姉である瀬川 沙羅をベースに作り出されたことも同時に伝えた。
一番最初にディルが勇者一行の配信に乱入したのは、瀬川が姉と「共に配信をしよう」と誓ったかつての夢を叶える為の行動でもあったのだ。
そして役目を終えたディルは、自らの存在の行く末に悩んでいた。
だがそんなディルでさえもセイレイ達は迎え入れる。最初こそ困惑したディルだったが、セイレイ達の言葉に心動かされた結果、改めてディルは正式に勇者一行の仲間入りを果たしたのだった。
同時に、一ノ瀬の実家は勇者一行の新たな拠点となった。
そんな拠点の中に、Relive配信の船出は訪れる。
勇者一行との決着を望む彼女は、自らと一ノ瀬の母校である塔出高校をダンジョン化していることを告白。決着をそこで付けたい、と宣言した後に姿を消したのだった。