【第三章要約】商店街ダンジョン編
勇者セイレイは、魔王に仕組まれて生み出された存在だった。
Dead配信を謳うディルは、その持ち合わせた運営権限を利用して「勇者セイレイ以外にもスパチャブーストを付与する」と告知する。多くの人々がより戦う力を得られるように、とディルは配信内で語っていたが狙いは違うところにあった。
その「何の実力もない者に突如として大きな力を与えることの危険性」を知っていた一ノ瀬。Sympassにて懸命にダンジョン配信を行っている者の動画を探そうとするがどういう訳か「非公開アカウント」となった者ばかりで配信を行っている者が見つからない。
なんとかダンジョン配信を行っている動画を見つけ出すが、そこに映し出されたのは地獄絵図だった。
人々の悲鳴や断末魔が飛び交う、悪夢のような配信。そして、全滅と同時に映し出される「このアカウントは非公開です」の文字。つまり、「非公開」とは「配信者の死」を表していた。
徐々に最悪へと導かれる世界の中でも、至って平静さを崩そうとしない千戸。そんな彼に、徐々に前園は不信感を抱くようになる。ついに千戸へと何を考えているのか理解できない、と言葉をぶつける前園だったが彼はまるで取り合おうとはしなかった。
一ノ瀬は持ち合わせた隠密スキルを駆使して、千戸の後をつけた先で彼がディルと繋がっていることを知る。その事実を仲間に伝えることが出来ず、彼女もまた苦悩する。
徐々に分裂していく勇者一行。
それと同時に、明らかに他よりも優れたダンジョン配信を繰り広げていることを知った視聴者の狂信化は加速していく。
ついに限界を迎えた配信ナビゲーターである前園は「配信をもう続けることは出来ない」と瀬川と一ノ瀬に告げる。当然反対する彼等であったが、前園はとっくに心身ともに限界を迎えていた。
苦悩する前園の助け舟となったのが、総合病院ダンジョンで協力してくれた森本だった。彼は総合病院ダンジョン攻略の後、配信には参加せず魔石の研究という形で支援してくれていた。
そんな森本は、研究の最中で「ホログラムの実体化」という方法を発見する。ホログラムとして映し出される映像に魔石を当てることにより、それが現実の世界に呼び出されるというものだった。
ホログラムの実体化を用いた空間の中で話し合いの場を設け、徐々に仲直りしていく勇者一行。
居場所というものを大切にしたいと改めて誓った前園は、雑談配信という形で視聴者へと己の想いを語ることにした。
魔災によって苦しい現実に直面している皆の心の拠り所となれる配信にしたい、皆がここに居ていい、と思える場所を作りたい。彼女は今まで晒すことのなかった姿を使ってまで、そう視聴者へと語り掛けた。彼女の言葉によって徐々に想いの繋がり始めた視聴者。
改めて一致団結した彼らの元に訪れたのは、千戸だった。「商店街で待つ」とだけ告げて、瀬川達の前から姿を消す。
千戸の意思を確かめたいと願う前園は、配信ナビゲーターの役割を一ノ瀬に預け「魔法使いホズミ」として配信に参加。初めての配信で苦戦こそしながらも、セイレイの協力を得て徐々に商店街を攻略していく。
仲間の居場所を作りたいという想いから「障壁展開」のスキルを会得したホズミ。彼女と、前線を駆けるセイレイとのコンビネーションから着々とダンジョン内を進む中、二人は魔災の真相に迫っていく。
やがて、ダンジョン最深部に到着した彼らは、千戸と対面する。
千戸は徐々に、魔災の真相を淡々と語り始めた。
魔災が「ホログラムの実体化実験」の最中で引き起こされたヒューマンエラーに伴う全世界を巻き込んだ事故だった、ということ。
瀬川は世界における「希望の種」であること。
——そして、千戸の目的は瀬川を「希望の種を花開かせるために育てる」ことだった、という事実だった。同時に、三年前に瀬川達が過ごしていた集落を襲わせたのも、千戸が仕向けたものだったと知らされる。
魔災の真相を明らかにした千戸は、自らを「魔王セージ」へと姿を変えて全世界同時生中継を開始。世界を巻き込んだ配信に、何もかもが滅茶苦茶になっていく。
世界中に桜の木々を生み出し、地面を這う樹根が世界を飲み込んでいく。流れるコメント欄から、その阿鼻叫喚に巻き込まれた状況を知るセイレイ達。
それをさせまいと配信内に躍り出たのは、瀬川達の後をこっそりと付けていたライトだった。彼は千戸の好きにさせまいと光線銃を発現し、魔王に立ち向かう。
しかし、その想いも虚しく彼は魔王によって命を奪われた。
初めて経験する、仲間の死。
セイレイは、この時純粋さを失った。
「——誓う」
セイレイがこの時発現した「雷纏」。怒り狂った彼は本当の意味で、世界を救う勇者となった。
一太刀こそ浴びせたセイレイだったが、魔王を倒すには至らず逃してしまう。
ライトを失い、彼らが過ごしてきた道の駅集落も魔王が生み出した桜の木々に飲み込まれ、全てを失った勇者一行。
彼らは、本当の意味で世界を救う旅を始めるのだった。