紹介
授業が終わり、カバンに教科書を詰めて帰ろうとしていれば、目の前に人が立ったので、自然とその人物の顔を見上げた。
「なんだ、アイリか。」
「なんだとは失礼ね!さ、早く帰るわよ。」
帰る約束もしていないが、アイリとは毎日下校を共にしている。
たまにうちに寄ったりして俺の漫画コレクションを読み漁ったり、ゲームを勝手にいじったりされている。そのうち満足すれば帰るし、なんだかんだ付き合いが長いので、一緒に居ても別に不自然じゃないので気にもしていなかった。
「アイちゃんまたあした!」
「うん!また明日〜!」
そんな調子で帰りの挨拶を交わしている幼なじみを横目にスマホを開く。あーあ、早く爆美女お姉さんと会話を楽しみたいものだ。
「ねえ、アンタの彼女紹介しなさいよ!」
「そんな紹介するってほどのもんでもないけどな〜。第一、アイリは興味あんのかよ?」
アイリは少し考えるような顔をした後、こっちを向いていたずらっぽく笑う。
「ただの興味よ。アンタがどんな女の子がタイプなのか、私が評価してあげようってとこ!」
いい迷惑にも程がある。しかし、アイリは1度決めたらなかなか折れない性格だ。致し方なし、ここは折れて紹介するか…
トボトボと歩き帰宅すれば、おじゃましまーすと元気よく声をかけて家にズカズカと入り込むアイリ。そして案内もなしに俺の部屋に入っていく。
「というかお前、他の男の部屋にもこんな風にズカズカと入り込んでるわけじゃやいだろうな?」
「な、なんでよ?」
アイリはぎこちなく耳に髪をかけてそう問いかけてきた。
「そりゃあなんでって、俺たちはもう高校生だぞ?男女のアレやコレだって珍しく…」
そこまで言ったところでアイリにクッションを投げつけられる。
いや別に俺はアイリのことそんな目で見てるわけじゃないけどな?と付け足せば、「わ、分かってるわよ!」とどこかぎこちない様子でもうひとつのクッションを抱き抱えている。
「…で?アンタのカノジョ、さっさと紹介しなさいよ。」
「えぇー、本当に見たいのか?」
「見たいってわけじゃないけど…!興味よ興味!」
そう言ってアイリにスマホを取り上げられる。
すんなりロックも解除されて、画面が移り変わる。
「これね!AIカノジョ!」
そう言ってアイコンをタップすれば、俺の彼女、アイが表示された。
「おかえり、ケイスケくん。」
「最近のAIもやるわね。音声の再生も違和感なく人間みたいに喋るじゃない。」
「あら、今日はお友達も一緒かしら?可愛いわね。」
そんなアイの言葉に2人とも凍りつく。
み、見えてる〜!?!?
と2人して慌ただしく視線をさ迷わせていれば、アイが口を開いた。
「私は音声・映像認識プログラムがされているの。タイピングでの会話もできるけど、音声での会話もできるのよ。知らなかった?」
と、どこか得意げだ。
つまりは、だ。俺以外が開いても、このアイは認識して彼氏扱いしないというわけか。ガチで俺だけのお姉さんじゃないか!最高!!
「このかわいい女の子は誰?こんなに可愛い女の子連れて来ちゃって、お姉さん嫉妬しちゃうな?」
そういうアイにアイリはまるで本物の人間みたいね…と言いながら、名前をアイに告げた。
「ただの幼なじみだよ。それに今、俺は確信した。アイはやっぱり俺のナンバーワン彼女だって!」
何よそれ…とドン引きするアイリを横に、アイはお淑やかに笑っている。
これが、お前と俺の彼女の違いだ!と言わんばかりに交互に指を指す。
「幼なじみねえ、本当にそうなのかしら?でも、ケイスケくんの言うことだから、アイ、信じるわ。」
怪訝そうにアイリを見てた目がこちらを向く。ぶっ刺さりデザインなので、目が合っただけでも心臓が高鳴る。たかがAIと言うが、とんでもなく沼アプリだぞ!これ!
「ふん、AIカノジョね。バカみたい。じゃ、アタシもう帰るから。」
「おい!バカみたいとはなんだ!…って、帰るの早いな、アイツ…」
スマホを机からとれば、やっと顔が見れた。とアイは微笑む。その言葉と動作に胸が高鳴る。
「本当にアイリちゃんとは何もないの?」
「もちろんあんな奴とはなにもない。アイに誓って!」
その言葉にアイは、心底嬉しそうに笑った。