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余命一カ月の魔法使いは我儘に生きる  作者: 大森 樹
後編

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31/38

31 年の差

 一晩中ユリウスから愛されて、さすがにルビーはぐったりとしていた。でも心地の良い幸せな疲労感だ。


 常に冷静で紳士的にルビーに触れるユリウスが、昨日は熱っぽい表情を見せてくれたことが嬉しかった。


「大好きです」


 ルビーはユリウスの逞しい胸に顔を寄せて、小さな声で呟いた。


「……あなたは困った奥さんですね」

「お、起きていたのですか?」

「ええ。ルビーがあまりに可愛いので、目が覚めました」


 フッと笑ったユリウスは、ルビーをぎゅっと抱き寄せた。


「身体は平気ですか? 無理をさせましたね」

「ぜ、全然無理じゃないです!」




 昨夜はユリウスの宣言通り、ルビーはひたすら夢見心地に彼に愛され続けた。ルビーばかりしてもらうことを申し訳なく思うほどだった。


 だが、残念ながらルビーにはユリウスに教わった以上の知識も技術もなかった。なにしろ小説でしか恋愛を学んでいないのだから。


『ユリウス、わたしもあなたに何かしたいです!』

『その気持ちだけ貰っておきます』

『でも……』

『余計なことを考えるなんて、まだまだ余裕がありそうですね』


 意地悪な顔で笑ったユリウスが格好良くて見惚れている間に、さらに何も考えらないほどに愛されてしまった。


 最後にユリウスと結ばれるまで、ルビーは何度気を失いかけたかわからない。







「身体は疲れてはいますが、いつもよりユリウスを感じられて嬉しかったです。だから……その……昨日みたいなのはいつでも大歓迎です!」


 まさか歓迎されるとは。しかも大歓迎だ。ユリウスはルビーの素直な言葉に困ったように眉を下げた。


「……そうですか」

「はい!」

「私がもう少し若ければ、その気持ちに十分に応えられたのでしょうね」


 少し寂しげに笑いながら、ユリウスはルビーを抱きしめた。


「どういう意味ですか?」

「いえ、こちらの話ですよ。ルビーが若くて羨ましいというだけです。気にしないでください」


 ルビーは男女の営みについては疎いままなので、ユリウスが何のことを言っているかわからなかった。


「私は今の年齢のユリウスが好きですよ?」

「はは、ありがとうございます。あなたがそう言ってくれるなら歳をとっているのも悪くありませんね」


 ついあんなことを言ってしまったが、本当はユリウスも今の年齢になってからルビーに出逢えて良かったと思っていた。


 きっと若い頃の仕事一筋なユリウスなら、真っ直ぐで自由……そしてたまに突拍子もない行動をする天真爛漫なルビーをそのまま愛し包み込むことはできなかっただろうから。


 色々な経験を積んだユリウスだからこそ、ルビーが可愛くて愛おしいのだと自覚していた。


「私は幸せ者ですね」


 二人は仲の良い夫婦ではあったが、毎晩共に寝ていても実際に睦合うのは月に数回程度だった。


 ただ手を繋いで寝るだけの日もあれば、ルビーだけ一方的に愛される日も多かった。ユリウスは毎回宝物を扱うようにルビーに触れてくれた。


 使用人たちは密かに後継の誕生を期待をしていたが、二人の間にはなかなか子どもはできなかった。


 ユリウスは自分の年齢的なものもあるので、子どもができないことは予想の範囲内だった。


「確かに子ができたら嬉しいが、私はルビーと二人でいられたら幸せなのだ。だが……普通に考えると私の方が先に逝くだろうから、それだけが心配でな」


 執事のジュードに、ユリウスはぽろりと本音を漏らした。ルビーはユリウスと同じで、家族がいない。そのことをユリウスは危惧していた。


「この屋敷は、使用人たちも私と同年代が多いからな」

「ええ。申し訳ありませんが、私も旦那様を見送るというお約束はできかねます」

「それはそうだ。どちらが先かはわからん。ジュードとは幼い頃からずっと一緒だから、お迎えも同じようなものだろう」

「はい」

「だが、困るな。ジュードは私のことを知りすぎている。お前より長生きせねば、ルビーに何を話されるかわからん」


 ユリウスはそう言って冗談っぽく笑った。


「ええ。私が生涯お仕えするのは旦那様だけと決めておりますので、どうか私より長生きしてください。ちなみに奥様からの誕生日プレゼントの()()箱は旦那様の百歳分までお預かりしております」

「百歳までだと……?」


 そんなにたくさん()()箱が用意されているとは知らなかったので、ユリウスは驚いた。


「頑張って作ったと仰られていました」

「ぷっ……ははははは」

「奥様らしいですよね」

「ああ、さすがはルビーだ」


 この国平均寿命は七十歳程度だ。それなのに、ルビーはユリウスに百歳まで生きていて欲しいらしい。


「若い奥様とご結婚された宿命です」

「ああ、健康に気を付けないとな」

「では奥様のために使用人を増やしますか? 次世代を入れ、教育することも必要でございます」


 ジュードのその提案に、ユリウスはしばらく考え込んだ。今後のルビーのことを考えれば、彼女と同世代か年下の使用人を増やした方がいいだろう。


「……そうしよう。だが、ルビーの秘密のこともあるから慎重に選んで欲しい」

「わかっております。口が堅く優秀で信用できる人物だけをピックアップしますので、後ほどリストのご確認をお願いいたします」

「ああ、頼んだぞ」


 ユリウスは将来のために、屋敷の中も色々と改革をすることに決めた。




 




 

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新ありがとうございます♪ いつもルビーを大切にしてくれるユリウス、とても素敵だと思います。 お互い大好きで幸せになって、ほんとうに良かったですね! ユリウスが先に亡くなったら寂しいので…
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