第八話「神殺しの女神」
これが…「塔」
不気味な雰囲気だが、どこか神々しくも感じてしまう。
「これが…塔…お願い…みんな…無事でいて…」
とても不安げそうにしているペルセポネ。
いつものような覇気がない。
両手を握り、ここは地獄なのに
祈る姿は普段のペルセポネからは考えられない。
一筋の希望にすがる彼女には
誰も寄せ付けない
見ることも
触れることも出来ないようだった
とても美しかった。
「ふぅ…
ごめんさい…取り乱して…」
「いえ…」
「塔」の内部には足のない
正真正銘の「人間」が並んでいた。
だが、どうにも様子が変だ。
祈りを捧げる禿げ頭のじいさん。
泣いて子供を抱きしめる女。
目を丸くしているデブ。
多種多様な人々がここには集まっている。
天国行きか地獄行きか、審判をするところなのだろうか。
ずっと泣きわめく声が聞こえる
気が狂いそうだ
「この先に審判をする天使がいるわ
いい?絶対場の雰囲気に気圧されないで
自信を持って臨みなさい」
数時間後
長いな
それだけ毎日人が死んでいるということだろうか
よく天使は疲れないものだ
「・ー・・ー」
謎の言葉とともに扉が開く
ようやく俺たちの番が来た。
一歩 一歩と
呼吸を意識して、背筋を伸ばして歩く。
まるで、初めてバイトの面接を受ける高校生のように。
審判をする天使はとても美しかった。
だが、目の下にはクマがある。
「・ー・ー・--・ー・」
何を言ってるんだ
母国語でしゃべってくれないと
審判もクソもないじゃないか
「あー…あー………」
おぉ…魔法はすごいな
「よし…聞こえてますね
私の名はガブリエル…巷では大天使と呼ばれています…」
脳が溶けそうなとても美しい声だ。
だが様子どうにもおかしい。
疲労していて、今にも倒れそうな容態だ
「えー…今からあなたたちの罪を
私の瞳で問罪します…私の瞳は全て見通せます故
名前も人間関係も…嘘はつけませんよ…」
「…まずはペルセポネさん…
どこかで聞いたことがある名前ですね…」
天使の瞳が光る
様子がおかしい。ガブリエルはプルプルと震えている。
「お前か!!!!!神殺しはお前だっだのか!!!!!」
ペルセポネを殴ろうと拳を握るも
グッと堪え、爪を掌に食い込ませている
え…なんだよ急に。激務で頭でも狂ったか?
「…ふぅ…ふぅ…ペルセポネ…あなたは阿鼻地獄に行ってもらいます
今まで…等活地獄程度にいたのが奇跡ですよ…」
阿鼻地獄…八大地獄の中で
一番苦しみが大きいところだったか?
何故そんな急に…
「………」
ペルセポネも何とか言えよ。下を向き涙目のペルセポネ。
このままじゃ、また地獄に落ちるぞ。この二人にどんな関係があったか分からない。
だが俺にはやるべきことがある。頑張ろう。
「あの」
一言、言葉を発する。その瞬間空気が歪む。
~ガブリエル視点~
王を殺し
たかが等活地獄程度にいた娘が
何故、ここにいる
そしてその男は何なのだ
近くにいるだけでも恐怖してしまう
「あの」
男がしゃべりかける
自分に?
こわい
こわい
言葉を間違えれば死ぬかもしれない
「な…何でしょうか…?」
平然を装う
大丈夫、うまくいっているはず
「ペルセポネさんを
天国へ行かせてはくれないのでしょうか」
はぁ?何を言っている
無理に決まっているだろう大馬鹿者
立場をわきまえろ
「そ…そうですね…
それは厳しいかと…」
「なんでもします
天国には今
悪魔がうじゃうじゃと住み着いていると聞きました
そいつらを全員殺します
それはあなた方天使の悲願ではないでしょうか」
悪魔どもには長がいるらしい
長を殺せば悪魔は消えると聞いたが…
こいつらに殺せるのか?
いや、ペルセポネとこの従者が旅路の途中で死ねば
結果的には万々歳
仮に長を殺したら我々の悲願が叶う
メリットしかないじゃないか
そうとなったら決まりだ。
「……分かりました
特別に許可します
悪魔どもには長がいます
そいつを殺してやれば悪魔は全て消滅します」
~律視点~
淡々と語るガブリエル
だが、その目は何か期待しているようなあくどい人間の目をしている
「ありがとうございます!」
ガブリエルが何を考えていたかは分からないが
ひとまず安心だ。
「この扉の先には天国があります
絶対に悪魔の長を殺してください
約束ですよ」
不気味に笑うガブリエルに
満面の笑みを返してやった。
ペルセポネの手を取り
扉の先へ向かう。