第六話「二叉の槍」
一年の月日が流れた
食料には困っていない。いつものように
ただ一人訓練をして肉を食らい眠りにつく。その繰り返し。
目標もなくただ生きることが、こんなにもつらいなんて思ってもなかった。
ただ、最近になってようやく現実を受け入れることができた。
前は人間の形に似ている、枯れた植物に話しかけていたこともあるらしい。
なにそれこわい
「今日もいい天気だ」「いてっ」
扉を開けると、おでこを手で覆うペルセポネがいた
かわいいなぁ「…わざと?」まずい怒ってる。
(かわいいと思って)「ごめんなさい」
「…まぁいいわ…扉の前にいた私にも非があるしね
少し話したいことがあるの…家に入れてもらえる?」
話したい事?なんだろうか。
「なにかあったんですか?」真剣な顔のペルセポネ
いつもと違う様子に、固唾をのみこむ。
「行きたいところがあって…そのためにあなたを従者にした
前にも言ったのだけれども…この話は覚えているかしら?」
そういえば四年くらい前に言っていたな。
「山」だっけか、本来の目的を忘れかけてしまっていた。
…そうか、もう4年も経っているのか。
バイトの欠席連絡できてないままだったな。
おかあさんも元気だろうか。
JKも少しは気にかけてくれていると嬉しい。
みんな、忘れてないといいな。
思い出に浸っていると、ペルセポネが口を開く
「そろそろ…いい頃合いだと思うのよ」
確かに、このままだらだらと訓練をするのも良くないしな
このままでは人間たちにも顔向けできない。
俺もたまにはいいとこ見せないとな。
「山に行くんでしたっけ?
今すぐにでも出発するんですか?」
「今すぐにでも行けるのなら行きたいわよ
でも…念には念をという言葉が日本にはあるでしょ?
だから…あなたには最後の訓練を受けてもらいます」
長方形の箱の中にある槍を取り出し
俺に投げつけてきた。
「よっと」
片手で何十キロもある槍をキャッチする。
「ついてきて」
プイっと後ろを向くと、ペルセポネはちょいちょいと手の先を俺に振ってきた
くそう、かわいいかよう
荒野にきた
あいかわらず、何もないなぁ
「隠れて」
とっさに近くにあった岩の裏に隠れる
「あそこにいる化け物…みえる?」
ペルセポネの指さす方向にはあたりをきょろきょろしている「化け物」の姿が二匹あった
「化け物って、あの二匹のことですか?」
「そう、あなたにはあの化け物を殺してもらう
私は一切手助けしないわ」
化け物殺し、以前にもやったことがあるが未だに慣れない
当たり前だ、殺し合いなんて日本じゃ
やったことがないからな
でも、今は違う俺は変わるべきなんだ
この地獄を食らう悪魔に
「やれそう?」
不安そうなペルセポネ
震えた声で
自らを奮い立たせるように言う
「やります」
やるんだな…今…ここで!
岩陰から飛び出し「化け物」に向かう
この槍にはある特殊能力がある。
俺が死にかけていた時、この槍が助けてくれたらしい。
にわかには信じ難い話だか、何故か嘘だと決めつけられない。
なんだかこの武器は、俺にだけ力を貸してくれるような気がするんだ。
さぁ、最後の訓練の開始だ
冥界で作られたといわれる「二叉の槍」
この槍を手に取ると、勇気が湧いてくる。
魂が共鳴
目にもとまらぬ速さで一匹目の化け物の腕を切り落とす
二匹の化け物は慌てている様子だ。
恐怖しているようにも見える
化け物二匹が逃げようとした瞬間
一瞬のことだった
体が再生したかと思えば
急に眼の色が変わり襲い掛かってきた。
もう一度片方の腕を切り落とし
尿を垂らしている化け物の頭を一突き
片方の化け物が俺の頭を爪で狙ってきている
とっさに爪を槍でガードする
頭を回し蹴りのように足を回転
吹き飛ばされ、失神している化け物
ゆっくりと近付き、頭を槍で一突きだ。
「ふぅ…ふぅ…」
疲れた
やはりまだ槍の使い方には慣れないな…
ちらっと死体となった「化け物」を見る
恐怖に満ちた
苦しそうな顔だ
なんとも後味の悪い…
「おめでとう」
ペルセポネが駆け寄ってくる
二つのお山が揺れていますよ?
ペルセポネさん!!
いかんいかん
「ありがとうございます」
きさくに返す
「やはり…私の見込んだ男だわ
では行きましょう
私たちの旅路は今始まるわ」