第五話「こわいから こわいもん」
「俺の名前は…………」
体が先程とは違い動かない。
頭から血がだらだらと出ている。
骨も折れているだろう。
意識が途切れる。
「んっ……いって!」ベットの横にある棚に腕をぶつける。
腕のじんじんとした痛みで眠りから覚める。
少なくとも…すがすがしい朝ではないと思う。
あんなこと、慣れるなんて決して出来ない。
「おはよう!ようやく目が覚めたのね!」
そろりと扉から登場するペルセポネ
凄く元気がいいなぁ。
やっぱり地獄の住人たちは慣れてるのだろうか。
「おはようございます
どうしたんですかそんな声だしてぇ」
眠いなぁ。頭がズキズキする。
「あなた何十時間も寝てたのよ?
心配するに決まっているじゃない!」
うるうるとした瞳で答えるペルセポネ。そうなのか、俺そんなに寝てたんだ。
ひとまず生きて帰ってこれてよかった。「人間」のみんなにも心配をかけたな。
というか、今日のペルセポネ可愛いな。
もしかして…俺のこと好きなのか?ぬふふ
「きょうはなんかかわいいですね!」
しまった、口に出てしまった。
でも、しょうがないだろう。俺だって健全な21歳だ。
「…黙りなさい」
しまった、怒られるか?
恐る恐る顔を見上げる。
だが、その頬は赤く染まっていた。
~二人で散歩中~
「そういえば、人間さんたちって今どこにいます?
助けてくれたお礼がしたいんです」
ペルセポネは魔法を使うことに夢中だった
あの状況なら「人間」の誰かが助けてくれたと考えるのが妥当だろう。
「死んだわ」
なんとなく予想はしていた
一人も死なないなんて、どこの無敵神話だ。
「そう…ですか…では
今日はみんなで弔いませんか?
日本では死者にお墓を建てます
簡易的なものですが建てましょう」
「?別にいいけど二人じゃ大変よ?」
きょとんとした顔のペルセポネ
なんだ?
話がかみ合わない。
「ですから…みんなで死んでしまった者たちにお墓を…」
「だから死んだって」
え?
だって散歩中にでかい肉の塊があったじゃないか。
少なくとも数年は持つだろう。
肉があったということは、戦争に勝って
誰かが「化け物」を解体したんじゃないのか?
恐る恐る、俺はペルセポネに聞く
「生き残った人はいますか?」
「だからいないって」
不思議と嘘じゃないと分かった。
あぁ、頭がぐちゃぐちゃする。
おかしいだろ、俺たち勝ったんだぞ?
あの戦いを見た限り俺たちのほうが優勢だった。
そう、ペルセポネがいたからだ。
じゃあなぜ?
実はかなりギリギリの戦いだったとか?
ああああきぶんがわるい
おれもがんばったのにひどいじゃないか
なんでだよ
「大丈夫よ」
耳元で囁くペルセポネ
ペルセポネの顔が見れない。
こわいから
こわいもん
「あなた怖かったのね」
そうだよこわいんだよ
「よくやったわ二人だけでも生きてよかったわね」
ちがうよそうじゃないんだよ
「ごはんにしましょう
そのあとみんなを弔ってあげましょうね」
「いただきます…」
気分が少し落ち着いた。
でも、人間はもう帰ってこない。
「無」になったのだ。
いつもより、食卓が静かだ。
皿を叩くスプーンの音、椅子の引きずる音、租借音
こんなにうるさかったのか。
あのあと、ペルセポネとの会話も特に無かった。
みんなを弔ってあげた。
気を使ってくれたのか?
ともあれありがたい。
今日はもう寝よう。
ひどく、つかれた