第二十九話「天使殺しの戮力」
どうするべきか…
多分、俺が大きい声を出したせいだろう。
…ここは俺一人で打破しなくてわ…やれるだろうか…
イザナギがぽんと肩を叩く。
「お前…一人であの悪魔をなんとかしようとしているだろう?」
「僕にも手伝わせてくれ」本当に心が読まれてる気がして怖いよ。
だが、今はありがたい。「行きますよ」
「あぁ」そんな、短い一言が今の俺には十分ありがたかった。
「あの量に二人で立ち向かうのか」
本能ってあるだろう。
例えば、転ぶときには咄嗟に目を瞑るとか。
どうしようああほんとうにまずい「ちがっちがっっうんでっす」
「ははっお前らは面白いなぁ」乾いた笑いで興味もなさそうに笑っている。
汗がだらだらだ。少しでも体を動かしたら殺される。
今すぐにでも逃げたい。怖い怖い怖い。
「お前…は…誰…だ」
イザナギも同様に汗をだらだらと垂らし呼吸が乱れている。
それなのに、意を決して喋りかけたのだ。この悪神に。
「名はない
お前らは用事があって来たのだろう
ひとまず面と向かって話し合おうじゃないか」
ゆっくりと後ろを向く。その姿は、人なのか神なのか天使なのか
たてがみがあって、目が胴体に細長く生えている。
形は天使にそっくりだが、羽が悪魔と同じだ。
確信した。こいつが悪魔の長だ。
「えぇ…話があってきました」「やはりな!こんなところで立ち話をするのもだ」
そう一言言うと、先ほどから宙にいた悪魔が一斉にこちらへ向かってくる。
椅子になるように形作り、長は座る。
「で…話というのは」頬杖をつきながらつまらなそうにこちらを凝視する
ものすごい重圧を感じる。大天使と相対したときとは比べ物にならない。
だが、俺は大天使を殺さなければならない。
こんなところで終わってなるものか。「俺たちと一緒に天使を殺しませんか」
「天使を!そうかそうか!それは面白いのか?!」
興味を引けたのか、長は椅子の一部から悪魔を摘み、手で握りつぶし興奮しているようだ。
「えぇ…必ず面白いものが見れますよ」
「それは楽しみだ!いいだろう!同盟を組もうじゃないか!」
なんだ、案外良い奴なのかもしれないな。「あぁ!助かる!」
先程までびくびくしていたイザナギの目に輝きが戻る。
「好かんな」
一瞬の出来事だった。イザナギの左腕が付け根からばっさりと切られていたのだ
「分をわきまえろ」「…え?」思わず声が漏れる。
今、なにか粗相をしたか?「はっはっはっ!やはり人間は面白い!」
前とは違い、にたにたと幸せそうに笑っている。
あぁ、忘れていた。こいつは悪魔の長なんだ。
「あぁぁぁ…!」声にもならない悲鳴で叫ぶイザナギ
ここで治療魔法を使用して良いのか?
仮に機嫌を損ねてしまったら、この商談は無しになるかもしれない。
俺はどうするべきなんだ?
「ははっ…!この程度で同盟を組めるなら安いもんだ…!
なぁ!これで僕とお前は天使殺しの戮力になれるんだよなぁ?」
「あぁ…?あぁ…!あぁ!そうだ!お前って奴は実に面白いなぁ!」
「名は?!」長の空気がこわばるような声が辺り一帯に響く。
「イザナギだ」「そうかそうかイザナギか!来る日が分かればまた来るがよい!」
「元居た場所に戻る魔法」「・」
気付けば見慣れた光景が目の前に広がっていた。扉の目の前に戻っていたのだ。
イザナギは安堵感からか気を失い、血をだらだらと流しながら倒れていた。
「傷口を塞ぐ魔法」「・・・ー・・・ー・・」
唱えるが傷がぴくりとも塞がらない。このままじゃ死ぬぞ。
「あぁ…どうする…まずいぞこれは」
情けなく部屋をぐるぐると回っていると
イザナミが扉の部屋をどんと開けて登場した。
「ごめん退いて!」足早にこちらへ向かってくる。
「これは…強い呪いか…」
ぼそぼそと独り言を言いながらイザナミは手を傷口に当てる。
手を当てた途端、傷がみるみるうちに治ってゆく。あれ?今呪文を唱えてたか?
イザナミは諦めたような顔をして、あははと乾いた笑いをしている。
「えっと…あとでまた詳しく教えてあげるから…」
そう一言発すると、イザナギを抱きかかえ兄妹はどこかへ消えてしまった。




