ころしのあいず、いちびょうまえ
俺は…
「何か…事情があるんですか…?」
ひとまず訳を聞いてやることにした。
「…あぁ……奴隷の様な生活は最悪だったさ…
あいつら僕たちを下に見てるんだ
もちろん…悪い奴ばっかりじゃないのは分かってる」
無表情だが、どこか悲しそうな弱者の目をしている。
「だが…お前も…そういう経験があるだろう?」
「…記憶に無いですね…」
…まだ記憶が戻ったわけじゃないしなぁ…
もしかしたら差別を受けていたかもしれないが
ぶっちゃけそれだけの理由で天使全体を嫌うのはおかしい。
「…そうか…正直この程度で嫌っている訳じゃないんだ
一応悪魔から守ってもらえるしね」
心を見透かされたような気がする
顔にでも出てたのだろうか
「多分…あと一年以内には
この天使と人間の地域紛争は大規模な戦争へと変貌するだろう」
「僕たちは静かに暮らしたいだけなのに…
きっと僕たちが邪魔なんだ」
涙目で声を震わすイザナギはひどく切なく見える
「そうですか…ですがもう少し考える時間をくれませんか?」
無情って思われているだろうなぁ…
「あぁ…そうだな…いきなりこんなこと言って悪かった」
しょんぼり顔のイザナギ
どうしたものか…
俺だって慈悲の心くらいはある
だが、アラエルはどうなる?
どちら側へ付くか
少なくとも今決めることではないだろう。
「そういえば戦争の話はどこから
聞いたんですか?」
「…少し前に女天使が来たんだ
お前が自害しなければこの国を乗っ取る
民の死体を想像したくはないだろうと」
お前…?
なぜ固有名詞なんだろうか
「お前って誰のことですか?」
頭の上にはてなを浮かべる
「あぁ…それはあの馬鹿のことだ」
「馬鹿…?」
「イザナミ…あいつもお前と同じで神なんだ
神様同士仲良くしてやってくれ」
街へ来た
イザナギが案内してくれるらしい
ついでに、イザナギの家はお城のように大きかった
流石神様のお兄ちゃんだ。さすおにだ。
だが、正直あのアラエルみたいな子が
神様なんて驚きだ。まぁ…人気はありそうだが。
…とりあえず今は楽しむとしよう
「ここは飯屋だ!現世はすごいよな!
こんな手の込んだ物を金さえ払えばたらふく食えるのだから!」
イザナギは目を輝かせながら
きょろきょろとしている
いつも来ているはずだろうに
そういえばイザナギはいつ天界に来たのだろうか。
反応的に、少なくとも現世からの死者ではなさそうだが…
やはり現代の食事は目を引くものがあるのだろうか。
あたりを見回すと、なじみ深い料理がお出迎えしてくれている。
ハンバーガー…ステーキ…寿司にピザ…現世と何ら変わりない。
だが、ジャンクフードなんていつぶりだろうか。心が躍るな。
さて、味見でもしてやろうか。
…あ
「すみません…硬貨持ってないです…」
そういえばこの世界の通貨は硬貨だった。
やはり日本円が馴染み深く忘れてしまう。
「…この国の通貨は硬貨じゃないぞ…それは天使の国の話だ」
そんなことも知らないのか?と言いたそうな顔をしているイザナギ
「じゃあ何が使えるんですか」
なんだその誇り顔は。
ぶっきらぼうに返答する。
「もしかしたらお前も持っているかもしれないぞ
円…ドル…元…色々な通貨に対応している」
「え?!本当ですか?!」
目を輝かせ、食いついてくる姿を見て少し引き気味なイザナギ。
「あぁ…本当だ」
ようやくこの諭吉との旅も終わる。
今までありがとうな。
いやぁ美味しかったなぁ。
やはり体に悪い物は基本うまい。油が体に染み渡る。
「今日はありがとうございました」
すっかり上機嫌になった俺を見て
イザナギはにこりと笑う
「あぁ!良かったよ!楽しんでくれて!」
天使に束縛されてないからか、ここの国は基本みんな自由だ
あぁ、楽しいなぁ
「…それで…どちらの味方に付くかは考えたか?」
こんな楽しい雰囲気の中
そんな話題を出すのは酷だろう
だが、いつになく真剣な表情で言うもんだから俺も場に飲まれてしまう。
「実は…俺…ここに来たのには訳があるんです」
イザナギの方をちらっと見ると
顔色も変えず、ただこちらを見ていた
洗いざらい全て話す
アラエルのことも
大天使のことも
「そう…だったのか
大変だったな…」
殺意が頭からつま先まで伝わる
「…?」
「どうした?」
「いえなんでもありませんよだいじょうぶですよきにしないでください」
…………優しい声で語り掛けてくる姿がアラエルと
重なってしまい、ひどく切なくなる
「…分かった!お前のすべきこと!したいこと!
全て終わったらこちらへ来い!
僕はずっと待っているからな!」
「…ありがとうございます…」
この人もすべきことがあるはずなのに、俺を優先してくれた。
今、ここに男同士の友情が生まれたのだ
…ここまでの話を踏まえて、俺はどうするべきなのだろうか。
正直天使たちが嫌うほど悪い奴じゃない。
もしかしたら、説明すれば大天使も分かってくれるかもしれないな。
「はぁ…やはりですか…」
深くため息をつく
何か唱えると
ガブリエルは地下へと向かう。




